想い
ある日、机の上に置いたスマホが小さく震えた。
画面をのぞくと、仁からのメッセージだった。
『明日の放課後、ちょっと話したいことがあるんだ。時間ある?』
(えっ……これって……)
一瞬で胸が高鳴る。
(少女マンガで見たやつだ…!)
どう考えても、告白の流れだった。
(そんな……どうしよう……)
仁は、いつも私を気にかけてくれて、優しくて、話していると楽しくて――嫌いじゃない。むしろ、好意を抱いているのは確か。
でも……仁のことを考える時は、いつも渉のことも思い出していた。
(行かないのは……違うよね。せっかく勇気を出してくれたんだもん)
私は震える指で、『わかった』と返事を送った。
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放課後、人気のなくなった教室。
カーテン越しに傾いた夕日が差し込み、床にオレンジ色の影を落としている。
私が1人になってから少しして、仁が教室に入ってきた。少し緊張した面持ちで、それでも笑顔を見せてくれる。
「待っててくれて、ありがとう」
「ううん……」
声が小さくなってしまう。
心臓がどくどくと音を立て、呼吸が浅くなる。
仁は、机の横に立ったまま、まっすぐ私を見つめた。
「俺、ずっと前から……柏木さんのことが好きです」
そのストレートで簡潔な言葉は、教室の静けさの中にすっと落ちて、私の心臓に直接触れたように感じた。
「う、うん…」
何か言わなきゃと思うのに、これ以上口が動かない。
頭の中では渉の顔が浮かんで、仁の笑顔が浮かんで、ぐちゃぐちゃになってしまう。
そんな私を数秒見つめていた仁は、柔らかく続けた。
「急に答えを出してほしいわけじゃないんだ。俺のこと、もっと知ってほしい。それで……考えてくれたら嬉しい」
真剣なまなざしに、胸が熱くなる。
「……うん」
それしか言えなかった。
でも、それだけはちゃんと伝えたかった。
仁は少し安心したように笑って、「ありがとう」と言い、右手を私の前に差し出した。
「じゃあ、改めて、よろしくね」
急に握手を求められて、一瞬戸惑ったが、「うん、よろしく」とだけ言い、私はその右手を握り返した。
(私の手と全然違う…)
初めて、男の子の手を握った。仁の手は、緊張しているからなのか、少しだけ冷たく湿っていた。
窓の外はすっかり茜色に染まり、グラウンドに伸びる影が長くなっていた。
仁が教室を出てから、私は心の奥に残る渉の存在と、目の前に立つ仁の温かさの間で、身動きが取れなくなっていた。