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初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高一編
22/43

勉強

2学期が始まって最初の中間テストが近づいてきた。

授業の空気もどこか張りつめ、放課後の教室にもノートを広げる生徒の姿がちらほら見える。


そんなある日、仁とメッセージを交換していて、苦手教科の話になった。


『数学苦手なんだ。じゃあさ、今度の放課後、図書室で一緒に勉強しない?』


『えっ、ほんとに?』

思わず聞き返してしまう。


『うん。俺、今回の数学の範囲、結構得意なんだ!一人でやるより集中できるし、分からないとこあったら教えられると思って』


突然の誘いに胸がざわついた。

仁と2人きりになるなんて、今までなかったこと。


少し迷ったけれど、私は仁のことをもう少し知りたいと思っていた。


『ありがとう。よろしくね』


と返した。


------


放課後。

図書室の窓からは、少し赤みがかった秋の夕日が差し込んでいる。もうだいぶ日が短くなっていた。

静かな空気の中で仁と並んで座り、ノートを広げた。


「ここ、公式覚えてる?」

「えっと……あ、忘れてた」


仁はさらりと説明してくれて、分からない問題にも丁寧に付き合ってくれる。

問題集を指差す手は、屋内競技のバレー選手の割には日に焼けて黒く、ゴツゴツとしていて、いかにも「男の子」という感じだった。


(背は高い方じゃないのに、大きい手…)


そんなことを考えていると「柏木さん?大丈夫?」と仁から声をかけられた。


私の顔を覗き込む仁の瞳はぱっちりと大きく、長いまつ毛が印象的な優しい垂れ目で、笑った時に見える八重歯が、幼い印象を受ける。


「あ、ごめん!ここ!ここの説明から分からなくなって…」


なんとか誤魔化して、もう一度説明を聞く。

その穏やかな声を聞いていると、いつの間にか緊張も薄らいでいった。


------


勉強がひと段落した私たちは、図書室を後にして、玄関に腰掛け、軽く雑談をしていた。仁の方から色々と話題を振ってくれるので、話しやすい。


それと、


今まで気にしたことがなかったけど、近くで見ると、仁の左の首筋には大きな赤いアザがあった。


私は何となく気になって、聞いてみた。


「そのアザって、どうしたの?」


すると、仁は一瞬驚いてから、少し困ったような顔をして応えた。


「ああ、これね。母斑?って言うんだって。生まれつきなんだ。昔はもっと顔の方まであって、治療もしてたんだけど、今はやめちゃってさ」


「そうなんだ」と返事をする私に仁は、


「それよりさ!」


少し声を大きくして


「柏木さんって、好きな人とかいるの?」


と尋ねてきた。


「……!」


心臓が跳ねた。

突然すぎて、言葉が詰まる。


(どうしよう……)


どうやって答えたらいいのかわからなかった。


(私は内田くんのことが好きで、でも、片思いで、仁くんは…たぶん、私のこと…でもでも)


迷った末に、私は小さな声で答えた。


「……カッコいいなって思う人なら、いるよ」


「そうなんだ。誰?」


(えぇ〜、聞いてくるのそれ…)


少し不安そうに、私の顔を見つめる仁。

私は小さな声で言った。


「5組の内田くん…」


嘘はつきたくなかった。


悲しませるかと思ったが仁は


「へ〜、そうなんだ!内田くんか〜、見たことあるよ。確かにカッコいいよね〜!」


と笑って言った。


(もしかして、あやかから聞いて知ってた?)


きっとそうだろうと思った。


「じゃあ、もう遅いし帰ろうか!俺、バス停こっちだから!テスト頑張ろう!またねっ」


そう言って、元気に走っていく後ろ姿を見ながら、胸がきゅっと痛んだ。


(ごめん……でも、変に期待させてもいけないし…)


自分にそう言い聞かせながらも、仁を傷つけたかもしれない罪悪感が心に残った。


10月の夜空は、カーディガン1枚じゃ少し肌寒かった。

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