通学路
体育祭も終わり、夏休み前の日常が戻ってきた。
ある朝、私は目覚ましを止めたまま二度寝してしまい、慌てて飛び起きた。
(やばっ、遅刻する!)
自転車に飛び乗り、急いで学校へ向かう。
秋らしいいわし雲が浮かび、風が少し涼しくなったが、必死で自転車を漕いでいると汗が出てくる。
ふと、前方に見覚えのある背中があった。
(……内田くん!?)
赤信号で停まっているその自転車に、私は思わずスピードを上げた。
「……お、おはよう!」
声をかけると、渉はちらりと振り向いて「おはよう」とだけ返してくれた。
低くて淡々とした声。
でも、それだけで胸が跳ねる。
「……」
「……」
数秒間の沈黙とは裏腹に、行き交う車の音が2人を包む。
頭の中で必死に言葉を探していると、信号が青に変わり、渉はすぐにペダルを踏んで渡って行ってしまった。
(えっ……こういう時は、一緒に行くんじゃないの?)
追いかけるように私も渡ったけれど、渉の背中はぐんぐん遠ざかっていく。
そのまま学校に着いてしまい、結局、挨拶以外なにも話せなかった。
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(でも……今まで通学路で会ったことなんて一度もなかったのに。奇跡みたい)
その偶然が嬉しくて、次の日も同じ時間に家を出てみた。
もしかしたらまた会えるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながらペダルをこぐ。
でも、その日、道に渉の姿はなかった。
落胆のまま校門の前に着くと、反対方向からやってくる渉の姿が目に入った。
(……え? そっちから?)
昨日とは違う通学路。
私の胸に嫌な予感が広がる。
(……もしかして、避けられた?)
偶然を喜んでいた自分が、急に滑稽に思えた。
胸の奥がずん、と沈む。
(やっぱり……嫌われてるのかな)
下を向いたまま、校門をくぐった。