素顔
翌日の昼休み。
「今日は親子丼にしよ〜!」
そう言いながら、真美が食堂の扉を開けると、昨日よりも賑やかで、ざわざわとした声と食器の音が混ざり合っていた。
「なんか今日は人多いね。先に席取ろうか」
あやかがあたりを見渡し、空いている席を確認する。私も釣られて、辺りを見渡したとき、
「あっ」
思わず声に出た。昨日の彼がいたのだ。
「え?何?」
真美はすぐさま聞いてきた。
「え、あ、あの、昨日の人があそこに」
昨日、水筒を取って教室に戻った後、私は真美とあやかに、彼のことを話したのだ。
「え!どこ!あれ?あの人!?」
騒ぎ立てる真美。
「真美、お願いだから静かにしてぇ〜」
泣きそう。
「あそこに座るみたいだぞ」
4人がけのテーブルに友達3人と座る彼を見て、あやかが言う。
「え!じゃあ隣行こうよ!郁奈、あの人の隣座りなよ!」
「へ?いやいや!無理!無理無理!!」
(恥ずかしすぎてご飯どころじゃなくなるよ…)
「いいじゃん。ほら行こう」
あやかはそう言うと、私の手を引いた。彼女にしては積極的だ。
「ちょっと、待って待って無理だって!」
強引に手を引かれ、結局彼の隣の席に座った。
------
(ほんっっっっとうに、やばい…)
緊張しすぎて、上手くおかずを口に運べない。彼の方も見れない。
『ねえ、ちょっと!もったいないからもっと見なよ!』
親子丼を頬張りながら、真美が小声で言う。
『無理だって!恥ずかしすぎる…』
『今マスク外してるよ!チャンスチャンス!素顔!』
私だって見たいんだよ…
『無理だよ…ねぇ、どんな顔してる?』
『普通の顔』
(普通って何だよ!)
真美の当てにならない感想にうんざりした私は、勇気を振り絞って、少しだけ彼の方を見た。
なんだ、真美の言う通り。普通の顔だった。普通。可もなく不可もなく。
(…でも)
彼の柔らかく細い髪を食堂の大きな窓からの光が照らして、薄らと茶色く見えた。女の子みたいに白い肌が際立って、より儚げな雰囲気を出している。
(完全な黒髪じゃないんだ…)
少し彼のことを知れた気がした。