夏祭り
お盆休みに入り、補講は一旦中止。家でゴロゴロしていると、仁からのメッセージが届いた。
『今度の夏祭り、一緒に行かない?』
思わず心臓が跳ねる。
嬉しかった。……けれど同時に、頭の中に浮かんだのは渉の顔だった。
(もし……見られたらどうしよう)
胸の奥に不安が広がっていく。
しばらく指が止まったまま悩んで、それから私は、
『ごめん。家族で行く予定だから』
と打ち込んでいた。
送信ボタンを押した瞬間、罪悪感がのしかかる。
仁に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
(せっかく誘ってくれたのに…)
仁の気持ちに応えられない自分が、なんだか悪者みたいに感じられた。
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夏祭り当日。
家族と一緒に歩く夜の河川敷は、提灯の明かりで昼間みたいに賑やかだった。
浴衣姿の人たちが行き交い、同じくらいの年頃の男の子たちがはしゃいでいる。
(……内田くん、来てないかな)
無意識に人混みの中を探してしまう。
そのたびに、心のどこかで落ち着かなくなる。
「郁奈!」
名前を呼ばれて振り向くと、真美と駿くんがいた。二人とも浴衣姿で、楽しそうに並んで歩いている。
「わぁ、浴衣似合ってる!」
私がそう言うと、真美は少し照れながら笑った。
駿くんは隣で、いつもより柔らかい表情をしていた。
二人のやりとりを見ていると、胸の奥がちくりとした。
真美の笑顔は、私やみんなと一緒にいるときより、ずっと幸せそうに見える。
その姿が、すごく可愛かった。
(いいな……私も、もし内田くんと一緒に来られたら)
ぼんやりそんなことを思ってしまう。
(そういえば、仁くんは、誰と来ることにしたんだろう…)
そう思った時、夜空に花火が上がった。
胸の奥で、消えない小さなもやが、音と光に紛れて揺れ続けていた。