水面下
「ねぇ、真美」
お弁当を食べながら、私はずっと胸につかえていたことを、思い切って口にした。
補講の後、部活や委員会活動がある生徒は、各自お昼休憩を取ってから、それぞれの活動を始める流れになっている。
「この前さ……玄関で、内田くんと瑠夏ちゃんが一緒にいたの。なんか、仲良さそうで……」
真美は一瞬きょとんとした顔をしたあと、にやりと笑った。
「……あー、それね。実はさ、二人、同じファミレスでバイトしてたんだって」
「えっ!?」
私は驚いて声を上げたのと同時に、(なんで知ってるんだよ…)と心の中でツッコミを入れた。情報の出所は駿なのだろう。
「夏休みに入ってから、みんな結構バイト始めてるじゃん。で、うっちーもそこで一緒に働いてたんだけど……一週間で辞めたんだって」
「……辞めたの?」
「うん。なんか、続けられなかったみたい。うっちーって、そういうとこあるでしょ?」
真美はあっけらかんと言うけど、私の胸はざわついていた。
(やっぱり……仲良いんだ)
同じアルバイトまで。
私がただ渉を見つめるだけの生活をしている間に、知らないところで二人が一緒に過ごしていた時間を想像すると、心がぎゅっと締めつけられる。
(私なんかより、ずっと瑠夏ちゃんの方が……)
気づけば俯いていた。
そんな私を見て「でもね」と真美が声をかけてくれた。
「もう辞めちゃったんだから、接点も少なくなったんじゃない?」
「……そっか」
思わず胸の奥がふっと軽くなった。
ほんの少しだけ、安心してしまう自分がいた。
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放課後、委員会の帰り道。
蝉の声が、真夏の空気をさらに暑くしていた。
(どうして辞めちゃったんだろう…内田くんを追いかけて同じ高校に入るくらいだから、瑠夏ちゃんが、また内田くんを追いかけて同じアルバイトを始めたのかな…それが嫌で辞めちゃったとか…)
そう考えると、やっぱり少しだけ嬉しくて。
でも同時に、そんなことで安心している自分が嫌になった。
(私、ほんとに……どうしたいんだろう)
夕陽に照らされるアスファルトを見つめながら、自分の気持ちに答えを探すように歩き続けた。