夏休み
夏休みに入ってからも、午前中は受験対策の補講がある。『自称進学校』だからね。
午前中しか授業がないので、廊下で渉を見かける機会も半分になるが、全く会えないよりはマシと自分に言い聞かせていた。
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ある日の午前補講が終わったあと。
私は実行委員の集まりがあるため、廊下を資料を抱えて歩いていた。
ふと、廊下の先、玄関の方に目をやると、体操服姿の渉が立っていた。
(体育祭の集まりの帰りかな?)
渉の他には誰もいないようだったので
(久しぶりに話せるチャンス…!)
と思った私は、声をかけようと玄関の方へと駆け寄る。
その瞬間、息が止まった。
さっきまで柱の影に隠れて見えなかったが、渉の隣には、同じく体操服姿の瑠夏がいた。
(……え?)
同じ体育祭のチームだから、何か話し合いをしていたのかもしれない。
でも、渉は実行委員に入っていないはずだ。
補講が終わったなら帰るだけのはずなのに、どうして。
(わざわざ残って、瑠夏ちゃんと……?)
胸の奥に、不安が広がる。
すると、2人は私に気付き、視線を向けてきたので、私は焦って
「……お、おつかれぇ〜」
とだけ言った。この一言が精一杯だった。
渉が軽く会釈をして、瑠夏は柔らかく笑った。
私はそれ以上なにも言えず、足早にその場を立ち去った。
(どうして一緒にいるの……)
階段を上がる足が、やけに重かった。
手に持った資料が汗で少し湿っている。
胸の奥がざわざわして、息苦しかった。
最悪の夏休みだ。