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初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高一編
14/43

小指

6月に入り、水泳授業が始まっていた。

プールの使用は、男女で週替わり。今週は女子がプールを使い、男子は体育館での授業になるらしい。


(体育で内田くんを見るの、けっこう楽しみだったのにな…)


そんなことを考えていると


「郁奈、早く!」


そう言いながら、真美が追い抜きざまに私の手を取った。


「ほらほら」とあやかに背中を押され、いわゆる『地獄のシャワー』に意図せず放り込まれた。


「冷たっ!!」


私は驚いて走り抜けると、前にいた生徒にぶつかった。


「ごめんなさい!」


咄嗟に謝って顔を上げると、そこには水着姿の瑠夏がいた。


すらっとした足に控えめな胸元。モデルのように痩せた体型に、濡れた髪が何だか大人っぽい。


(あれ?背、私と同じくらいなんだ)


その雰囲気から、長身のイメージだったが、近くに立ってみると中背の私と同じくらいの身長だった。


「こちらこそ、ごめんね」


ぶつかったのは私なのに、瑠夏もそう言って、すぐにクラスごとの定位置についた。


------


授業が始まり、先生が今季の授業や泳ぎ方について、説明をしている。


(渉の水着姿って、どんな感じなんだろう…)


私は、つい想像してしまって、思わず頬が熱くなる。


「柏木!聞いてるかー?」


先生に注意されて我に帰った。

私は恥ずかしくて俯いたが、ふと瑠夏の方をみると私のことをじっと見つめていた。


さらに恥ずかしくなって、また俯く私を『うっちーのことでも考えてた?』と、真美が小声でからかってきた。


(なんでわかるんだよ…)


------


授業を終えて、髪を乾かしながら教室に戻る途中。

体育館の前を通りかかったとき、ちょうど授業を終えた男子たちが出てくるのが見えた。


その中に渉の姿もあった。


(あっ…)


思わず足が止まる。


よく見ると、渉の左手の小指には白い包帯が巻かれていた。


(けが…?)


胸の奥がざわつく。声をかけようか迷ったけれど、勇気が出なくて、そのまま足早に教室へ向かった。


------


「ねぇ、内田くんの指って…」


次の授業の休み時間、思い切って真美に聞いてみた。


真美は一瞬ためらったあと、


『駿から聞いたんだけど、中学の時からつるんでる、不良の先輩と色々あったらしいよ』


と小声で答える。


「えっ…」


思わず声を失った。


小指を?小指を切るって、ヤクザの人が辞める時のケジメ的なことでしょ?


『骨折してるんだって』


真美が続けて言った。


(骨折か…)


ちょっとだけ安心した。骨折なら病院で治療を受ければ治るだろう。


『でも、病院行ってないんだって。親にバレたら不味いから』


親に言えない先輩に、色々あって小指を骨折させられた…なんだか、知らない世界すぎてよく分からなかった。


『そうなんだ…大丈夫なのかな…』

『気になるなら、本人に聞いてみたら?』


真美はそう提案してくれたので、その夜、久しぶりに渉にメッセージを送った。


------


『今日見かけたんだけど、指大丈夫?どうかしたの?』


しばらくして返事が来る。


『突き指しちゃって』


それだけだった。

きっと親にもそう説明しているんだろう。


(駿には言うのに、私には隠すんだ…)


まあそうだろう。私、そんなに仲良い友達でもないし。


『そっか。お大事にね』


私はそう送ることしかできなかった。


『うん。ありがとう』


そう返事が来たけど、それ以上何も話せなかった私は、『今部活終わったー!』という、仁からのメッセージに『おつかれ』とだけ返事をした。


私の胸の奥には、小さな痛みが残った。


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