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初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高一編
12/43

下校

瑠夏のことを知ってから、私は心の中に小さな影を抱えるようになった。


渉とはメッセージを続けているけれど、部活や教室で少し会話を交わすくらいで、それ以上の進展はない。


(何かもっと…)


焦る気持ちが日に日に膨らんでいた。


------


ある日。

私は思い切って、真美とあやかに打ち明けた。


「私…うっちーと全然進展してる気がしなくて…瑠夏ちゃんのこともあるし、不安で…」


「えー?進展してんじゃん。LINEだって続いてるし、話もできてるんでしょ?」


真美が言う。あやかも「うんうん」と頷いていた。


正直、頻繁にメッセージのやり取りをしているわけじゃない。もう私からの質問もネタ切れだった。


「でも、それだけで…」


口ごもる私を見て、真美はニヤッと笑った。


「じゃあさ、今度うっちーと一緒に帰ればいいじゃん!」


「えっ!?そ、そんなの無理だよ!」


「無理じゃないって。私と駿に任せて!」


また駿を巻き込もうとしてる…。でも、内心はちょっと期待してしまった。


------


翌日。


「郁奈!例の件!約束取り付けたよ!」


朝の教室で、真美が胸を張った。


「駿がうっちーに話つけてくれてさ、今日一緒に帰る約束になってるから!」


「えぇぇ!?ほんとに!?」


心臓が跳ねた。


「だから郁奈は、放課後、教室で待ってればいいんだよ」


真美はウィンクして、私の肩をポンと叩く。


(本当に、内田くんと私が一緒に…?)


昨日の何気ない一言からの急展開で、私はまだ信じられなかった。


(真美のことだから、本当は嫌がってる内田くんを強引に説得したんじゃ…)


そんなことを考えていると授業にも集中できず、上の空で放課後まで過ごした。


------


夕方のホームルームが終わり、私はカバンの取っ手を握りしめて待っていた。


(どうしよう、何話そう…内田くんも自転車通学だったよね…2人で並走?それだとすぐ家に着いちゃうし、あんまりお喋りできないよね。歩きながら帰る?だとしたら…)


自分と渉が2人で帰る姿をシュミレーションしながら、グルグルと考えている。


でも。

どれだけ待っても、渉は来なかった。


「おっかしいなぁ。ちょっと5組見てくる!」


「緊張してるだろうから」と一緒に待ってくれていた真美が、教室を出ていく。


(5組のホームルームが長引いてるのかな?それとも、何か係りの仕事があって…)


そんなことを考えていると、


「ごめん、郁奈…」


教室に戻ってきた真美が、申し訳なさそうに言った。


「うっちー、先に帰っちゃったみたい」


「え……」


頭の中が真っ白になる。

カバンを持つ手が震えていた。


(え?なんで?やっぱり、真美と駿が強引だったから?本当は嫌だったんじゃない?)


さっきとは違う大きな不安が、大量に頭を駆け巡る。


「うっちー、意味わかんない!どうして先に帰っちゃうの!?郁奈、待ってたのに!」


呆然とする私とは対照的に、真美が語気を強めている。


結局その日、私は1人で下校した。

昨夜の大雨は、昼頃にはすっかり止んで、アスファルトは既に乾いていた。夏に向けて強くなった日差しが、青々とした木の葉を照らし、生ぬるい風が吹く。


(普通こういう時に降るもんでしょ)


そう思いながら涙を拭った。


------


夜。

スマホの通知が鳴る。

渉からのメッセージだった。


『今日はごめん。恥ずかしくて、先に帰っちゃった』


(え…?)


拍子抜けするような理由に、怒る気にもなれなかった。


(どういうこと?恥ずかしくて…?)


私に会うのが恥ずかしい?それって意識してくれてるってこと?でも、先に帰っちゃうくらい嫌だったんじゃないの?


分からない事が多すぎる。

私は震える指で返事を打った。


『大丈夫だよ。また今度、一緒に帰ろうね』


それしか言えなかった。


(きっと、私たちには早すぎたんだよ。もう少し距離を縮めてから、今度はちゃんと2人で約束をしよう)


そう誓って布団に入ったものの、寝付くまで涙は止まらなかった。


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