ライバル
ある日の放課後。
その日、軽音部は休みだったが、部室の方からピアノの音が響いて来た。
(え…?ピアノ?)
軽音部にはピアノを弾く人なんていなかったはずだ。
そっとドアの隙間から覗くと、長く透き通るように薄い色の髪を揺らしながら、歌う女の子の姿があった。
(きれい…)
なんだか、渉に似てる雰囲気を感じた。
細いが鍵盤の上をすべるように走り、優しい伴奏と柔らかく透き通った声が部室に広がっていた。
私は思わず見とれてしまった。
しばらくすると、女の子がふと顔を上げて、こちらに気づいた。
(あっ…)
私は反射的に窓から離れ、逃げ出してしまった。
(な、何やってるの私!ただピアノ聴いてただけなのに…!)
胸の鼓動が早くて、落ち着くまでしばらく時間がかかった。この日は音楽部が部室を使う日だった。
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次の日。
教室から廊下に出た私は、遠くに渉を見つけた。
「内田k…」
声をかけようとした時
「うっちー!」
私より先に、渉に駆け寄る女子生徒が声をかけた。
6組の教室から出てきたのは、
昨日、ピアノを弾いていた女の子だった。
彼女は渉に近づき、楽しそうに何かを話している。
渉も穏やかに相槌を打っていた。
私は遠くからその様子を見ているだけで、足が動かなかった。
やがて会話を終えた女の子は、振り向いて真っ赤な頬に両手を当て、嬉しそうに微笑んでいる。
それを見た6組の友達らしき生徒たちが、彼女に駆け寄る。
「瑠夏ちゃん、よかったね!」
「やったじゃん!」
(瑠夏…っていうんだ)
友達の言葉に照れくさそうに笑う瑠夏。
その表情を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
(…そうか。瑠夏ちゃんも、内田くんのことが好きなんだ)
昨日見た、あの真剣な横顔と、今のはにかむ笑顔が重なり、私は立ち尽くしたまま動けなかった。