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第277話 『敵地での再会』

「はあっ!」


 城壁の上からジャスティーナが援護射撃をしてくれているおかげで、オニユリの銃弾の重圧が格段に減った。

 プリシラは勇気が胸にき上がるのを感じてさらに1メートル前に出る。


(ジャスティーナが……生きていてくれた!)


 ジャスティーナからの弓矢の連続射撃を受けてオニユリは少しずつ後方へ下がりながらも、プリシラへの射撃は欠かさない。

 だがジャスティーナのおかげでプリシラに向けられる拳銃は左手の一丁のみだ。

 重圧は先ほどまでの半分で済んでいる。


「ふぅぅぅっ!」


 プリシラはすばやく動いて射線をずらしながら弾丸を避ける。

 そして短剣を手にプリシラはねらいを定めた。

 しかしオニユリの後方にひかえている男は、その背後に隠れるようにしゃがみ込んだ。


(だったらオニユリ本人をねらうまで!)


 そう思ったその時だった。

 プリシラがまったく予期していなかった事態が起きたのだ。

 ジャスティーナの猛然たる弓矢の攻撃によって後方に下がることを余儀なくされていたオニユリ。

 そんな彼女の後ろで急に地面が盛り上がったかと思ったらあなが開き、そこから1人の人影が現れた。


 夜のやみのせいでハッキリとは分からなかったが、地面に開いたあなの中から現れたのは1人の男だった。

 その男はオニユリの足首を両手で握ると、あっという間に彼女をあなの中に引きずり込んだのだ。

 オニユリは突然のことに抵抗する間もなく、あなの中へ落下していった。

 そしてそのあなの中から男が姿を現した。

 その男に向けて、オニユリの部下の白髪男が半狂乱になったように拳銃を向けた。


「よ、よくも姉上様を!」


 だがジャスティーナが城壁の上から撃ち下ろした矢が白髪の男の首を貫いた。


「ごほっ……」


 白髪の男はその口から血を吐き、持っていた拳銃を落として倒れ込む。

 そして痙攣けいれんしてすぐに動かなくなった。

 プリシラは思わず大きく息をつくと、あなの中から姿を現した男に目を向ける。

 それは夜のやみに溶け込むような黒髪の美しい男だ。

 プリシラはすぐにそれが自分の知っている男だと知り、彼に駆け寄った。


「ジュード!」

「プリシラ!」


 ジュード。

 優しき黒髪術者ダークネスの男だ。

 プリシラにとっては自分とエミルの命の恩人だった。

 その再会を喜び、プリシラはジュードと固く抱擁ほうようを交わす。


「プリシラ。また無茶をしているみたいだな。でも生きていてくれて良かった」

「ジュード。また会えて嬉しいわ」


 そう言うとプリシラはジュードから身を離し、城壁の上を見やる。

 そこにいたはずのジャスティーナは、先ほど案内役の男たちが城壁に仕掛けたなわ手繰たぐりながら降りてきた。

 プリシラはすぐさまジャスティーナの元へ駆け寄ると、壁を降りたジャスティーナにほとんど飛びかかるようにして抱きつく。


「ジャスティーナ!」

「うおっ! 突然抱きつくんじゃないよ! このじゃじゃ馬め」

「だって……だって……あなたが生きていてくれて嬉しいから。死んじゃったかと思ってずっと悲しかったのよ」


 プリシラはそうまくしたてると目に涙を浮かべてジャスティーナの胸にしがみつく。

 その勢いに押されながらジャスティーナは嘆息たんそくすると、そんなプリシラを抱きしめ返した。


「私は簡単には死なないさ。ジュードやその他の助けてくれた人たちのおかげで、今この通り生きている。心配かけたね……プリシラ」


 プリシラはジャスティーナのぬくもりを確かに感じ、これまでの過酷な1人旅の反動からあふれる涙を抑え切れなかった。

 ジャスティーナはそんな彼女の頭を軽く小突く。


「まだ戦いの最中だ。泣くんじゃないよ」


 そう言うジャスティーナにプリシラはうなづき、その身を離して涙をいた。


「……2人はどうしてここに?」


 そうたずねるプリシラにジャスティーナは肩をすくめる。


「忘れたのかい? あんたとエミルを親元に返すという依頼をまだやり切ってないからさ。なあ? ジュード」


 肩越しにそう言うジャスティーナにプリシラが振り返ると、ジュードは先ほどオニユリが転落したあなから用心しながら縄梯子なわばしごを引き上げている。


「オニユリはどうなったの?」

「暗くて見えなかったが、このあなの深さは5メートルはある。縄梯子なわばしごを引き上げた以上、上がっては来られない」


 そう言うとジュードは端的に説明した。


「俺たちはこのあなを通って王都へ潜入するつもりだったんだ。だけどその途中で俺がプリシラの存在を察知してね。急遽きゅうきょここへ上がってきたってわけさ」

「エミルのこととプリシラのことを聞いて、私らもここを目指していたんだ。あんたは必ず弟を救うために王国を目指しているだろうと思ってね」


 プリシラは胸の奥が温かくなり、ふいに先日奥の里で見た祖母の夢を思い出した。

 夢の中で祖母は言っていたのだ。

 プリシラは1人ではないと。

 大事な仲間や愛する人が必ず出来ると。


 その言葉は本当だと思った。

 ジュードとジャスティーナはプリシラのために危険を承知でこうして駆けつけてくれる者たちなのだ。

 彼らと出会えたことは自分にとってどれだけ幸運なことなのか、プリシラはあらためて実感するのだった。


「さて、せっかくの再会だがいつまでもノンビリしているひまはないぞ。すぐに連中がここに駆けつけてくる」


 そう言うとジャスティーナは前方を指差した。

 王国兵らの声と松明たいまつあかりが徐々に近付いてきている。

 もう数分でここに到達するだろう。

 ジャスティーナはすぐにプリシラに告げた。


「プリシラ。あんたはジュードと一緒にエミルの元へ向かいな。ジュードならエミルの居場所を感じ取れる」

「ジャスティーナはどうするの?」


 不安げにそうたずねるプリシラに、ジャスティーナは泰然として先ほどオニユリが落ちたあなを指差した。


「私はあの白髪女とケリをつける」

「それならアタシも行くわ。ジャスティーナと一緒に戦う!」

「ダメだ。これはアタシの仕事だ。あんたはエミルを救うことだけを考えな」


 そう言うジャスティーナの目に揺るぎない光が宿っているのを見て、プリシラは反論を飲み込んだ。

 ジャスティーナの目に宿っている光。

 それは戦士の誇りなのだ。

 ダニアの女ならば誰にでも分かる、命よりも大事なものなのだ。


 それでもプリシラは心配だった。

 ジャスティーナならば確かに簡単には負けないだろう。

 だが前回、ジャスティーナはオニユリの銃弾を頭に浴びている。

 また同じことが起きたらと思うと、プリシラは恐ろしかった。


 せっかく生き延びたジャスティーナが今度こそ命を失ってしまうのではないかと不安だったのだ。

 そんな彼女の不安をその表情から感じ取ったのだろう。

 ジャスティーナなその手でプリシラの頭をガシッとつかんでワシワシと乱雑にでた。


「あんた。いずれはダニアの女王になるんだろ。ならダニアの女を信じて送り出しな。それも女王に必要な資質だぞ」


 そう言うとジャスティーナは短槍をジュードに、短弓と矢筒やづつをプリシラに手渡した。


せまい地下道で戦うには邪魔だからな。預かっていてくれ」


 そう言うと彼女は短剣数本と長剣一本を身に着けただけできびすを返し、さっさとあなに向かっていく。

 プリシラはその背中に必死に声をかけた。


「ジャスティーナ! 絶対に死なないで! また後で会いましょ!」

「ああ。あんたこそエミルを必ず救い出すんだぞ」


 そう言うとジャスティーナはまったく臆することなくあなの中へと飛び込んでいくのだった。


「下から撃たれるかもしれないってのに、まったく相変わらず豪胆な奴だな」


 ジュードはなかあきれながらプリシラの肩に手を置いた。


「大丈夫。あいつは多分、死神に嫌われているから簡単には連れて行かれないさ。さあ行こう。エミルが待ってる」


 そう言うジュードにプリシラはうなづき、心の中でもう一度ジャスティーナの安全をいのりつつ、ジュードと共に城壁を上っていくのだった。

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