イケメンはごめんなさい!!9
次の日。
私はワクワクとしながら、自分の手元にある中で1番動きやすく自分のいた世界ではわりと常識的な服を選んだつもりだったのだが。
「………首元のこのチョーカーに合わせづらい」
鏡を見れば白のシャツに黒のスラクッス姿の自分が写っている。服と言ってもこっちに来た時の服はぼろぼろでメイド服はネル君に却下され、ネル君推しのご令嬢コーデは私が却下した。
そもそも選ぶ程の服がまずない。
後は、除草作業で着ていた庭師コーデ。シャツに焦茶色のオーバーオール。
私が部屋でウロウロとしていたら控えめなノックと声がかけられた。
「は〜い。どちら……」
「アヴィ、何も問題はないと思いますが留守を頼みましたよ?」
「分かってますって、そんなに心配しなくても屋敷は無事ですから心配せずに行ってきて下さいよ」
2人のそんなやり取りの声が玄関ホールの方から聞こえていた。
「屋敷だけでなく、敷地内も無事な姿のままにして下さい。この間なんて………あっ、セナ様準備は出来ましたか?」
「ごめんなさい、少し遅れちゃって」
セナは階段を軽く走りながら正面玄関ホールの扉の前の二人へと駆け寄る。
「いえ、大丈夫ですよ。それよりもだいぶラフな格好ですね?」
セナの格好は首元が大きめに空いた白色のシフォンの半袖、黒のコルセットパンツにパンツに合わせて踵が高めの黒のパンプススタイル。
黒くて長い髪は赤紫のリボンで編み込んで左肩側から垂らしている。
「ええ、動きやすい方が良いと思って……あっ!王都だからもっとちゃんとした格好のが良かったですか?」
「そんなことはありませんよ、城の周りは貴族街もありますが私達が行くのは商業地区の方なので問題ありません………そうですね強いて言うならば」
ネル君が申し訳なさそうな顔でこちらを見上げる。ネル君はいつもの執事服、今日は短パンのほうじゃなく黒のスラクッスタイプ。
そしてジャケットのポケットには赤紫のハンカチとカフスには白銀の薔薇の刻印入り。
「すみませんが少しだけ屈んでもらえますか?」
「?はい、こうで良いですか?」
ネル君の目線辺りまで屈むと。
「動かないで下さいね」
ネル君の手が私の頭に触れるとフワリとした感覚が頭を包み、そして甘い香りが鼻腔をくすぐった。
(なんだろう?甘い…花?)
「はい、出来ましたよ」
メイドが持ってきた鏡を見ると髪に白の小薔薇が咲いていた。一見して生花とわからないがネル君が魔法で咲かしてくれたようだ。良いワンポイントになっていて可愛い。
「僕の専門魔法は植物なんだ」
そう言って可愛らしくウインクしていた。
***
ラルミノ国商業地区。
リアム邸から馬車で小一時間程走ってお尻がそろそろ限界かも!と、思った所で今日の目的地に着いた。
「セナ様、大丈夫でしたか?専属の猫車が只今不在でして一般使用の馬車になってしまい申し訳ありません」
「い、いえ大丈夫です。馬車なんて初めてだったので面白かったですよ」
(………猫車って何?)
「そう言って頂けると私共も心が軽くなります。赤鬼、帰りまでいつもの場所で待機していて下さい。それと、何か買い物があるなら早めにお願いしますね」
ネルは小さな布袋を赤鬼に渡す。チャリンと硬貨の音がしたのであれはお財布だったようだ。
(流石に異世界と言えど、財布的な物は漫画やゲーム内で見た事があるモノなのね)
そう思っていたのだが。
「………こんなにどうするんですか?」
私の目の前には大量の空瓶と言うか小瓶?コスメ売り場とかで見るような可愛らしいのから香水瓶みたいな物まであって形は様々だけれど中身は空。
「商業地区に行くと言ったらアンジェリカに頼まれましてね、何でも来月の集会に皆で新作を持ち寄って試してみるとかなんとか」
「へ、へぇ〜……そうなんですね」
アンジェリカさんはお屋敷のメイド長をやっている、褐色の肌と綺麗なウェーブのかかった黒髪ロングのナイスな肢体を持ったお姉様みたいな人……。サキュバスの魔族だと言っていた筈なのでなんとなく納得。サキュバスって確か精気を吸う魔族だしね。
今回の私のコーデもアンジェリカさんの私物を貸して貰ったのだけど胸の辺りがやたらとスカスカなのはしょうがない。自分ではあまり着る事がないけれど今日はフワフワシフォンの服で良かったと思う。
「これを一括でお願いします」
そう言ってネル君が懐から取り出したのはカード。
どっからどうみてもカードである。
(普通にカード払いもこの世界で出来るんだ)
外の世界を見るって大事だね。私の中じゃ硬貨で払いきれなかったら宝石とか出てきたり、はたまた空間魔法的な所からドドン!と、出てくるのかも何て思ってたりしたのは絶対私だけじゃない筈だと思いたい。
それにしても、商業地区とは中々面白い場所だと思う。異世界観があるかと思えば元の世界でも見た事があるような物まで色々あった。
これも『異世界人の保護』のおかげだとネル君から現地教育を受けながら街なみを見て行く。
ラルミノ国の中央に王都。ここからだと商業地区が正面だとしたら王城はその向こう側に見える。
リアム邸から見ていた王城とはまた景観が違っていて楽しい。ちなみに商業地区は王都の南側、さらに南下して行くと港があると教わった。
魚が食べたい禁断症状が出てもこの環境ならthe日本の和食!もありそうで助かることこのうえない。
それよりもさっきから気になる事がある。何故かチラチラと街の人達から見られている気がする。
「そろそろ歩き疲れたのではないですか?」
「そう、ですね。慣れない場所で少しだけ疲れたかもです」
慣れない踵高めのパンプスが地味に疲れて来たのは本当で、多分靴ズレしている。休憩出来るのはありがたい。
ちなみに荷物は多すぎるので屋敷に届けてもらうことになっている。主に、アンジェリカさんのご所望の荷物ばっかりだったのは言うまでもない。
「それではあの店はいかがですか?個室もあってゆっくり出来ると思いますよ」
ネル君が指した方を見るとお菓子を模した可愛らしい建物があり、いかにもなスイーツ店の雰囲気を出しているお店があった。
「お願いします」