イケメンはごめんなさい!!7
ラルミノ国
現在、立憲君主制国会の敷かれたラルミノ国には仲睦まじい王様と王妃様がいる。彼らには3人の息子と末の長女が1人、つまり3王子と1姫が次のラルミノ国のロイヤルファミリーとして背負って行くのだがなんともほのぼのした家族だと言う。
周りの家臣達が心配する程にお花が咲いた様な王族一家を見た宰相はある日王様に進言した。
『必要最低限の仕事をして頂けるのであればあとはこちらで対処させて頂きます。ですのでこちらに判子お願いします王様!』
『本当かい?それは助かるよ〜じゃ、後はお願いね〜』
王様が判子を押したのは隣国への通行証。学生である第一王子以外の通行証を発行し、王族一家は隣国へと旅立って行った。元々の朗らかな性格が他国でも受け入れられ流通面が発展し、国同士での争いは無くなり代わりに助け合いの精神が築かれたのは何世紀前の事だろうか。今でも、先代の王様達にならい王族一家は各国を訪問して回るのが仕事。そして、王様が居ない国を守るのは『13議会』のメンバー達。王政国家から立憲国家になったのはそんな経緯があったからだとか……。その議会のメンバーの1人であるリアム様に“異世界人の1人を保護契約した”との噂は、あっと言う間に広がり上層部をザワつかせているだとか。
***
契約
ラルミノ国では“異世界人”と、呼ばれる者達がいる。昔から次元の穴に落ちて来る者をそう呼ぶようにしていたが最近では自ら別次元へとやって来る者も後をたたない為、区別をつける為に保護契約を結ぶのが一般的だ。
『何故、保護契約を結ぶのか?』
それはこの世界では魔力が一般的だからと言おうか。そもそも自ら来る異世界人は大体が魔力持ち、対して穴落ちの異世界人は魔力なしが多い事からこの世界に疎い。その為、こちらの世界でも生きて行けるよう教育をする必要が出てきたと言うわけだ。
そうなると先生が必要になってくる。その為、ラルミノ国の学園には対応出来る教師を何人か常駐させていて卒業出来るまではその者の保護下に入る事になるのが一般の保護契約とされている。
ちなみに学園ではなく外の活動もあるがそちらはとある騎士団の保護下に入る事になるらしい。
「……………………えっと、保護契約の意味は分かりましたけど私は一般的ではない。と、言う事でしょうか?」
今日は何だか暑い。ネル君が注いでくれたアイスティーは渇いた喉に沁み渡るようだ。
「そう言う事になりますね」
ニッコリ笑うネル君は今日も可愛いらしい。
「通常でしたら専門の先生方にお願いするのですが、リアム様の管轄内で尚且つリアム邸で手厚い保護をされてしまったのでそのまま専門の先生方にお願いするのは危険と判断されましたので、契約もリアム様がして下さる事になりました」
「………」
何故か辺な汗が出そうですが?それはつまりリアム様のせいで一般保護出来なくなってしまったと言う事では?
「あっ、でも先生になるのはリアム様ではなく僕になりますので改めて、宜しくお願いします」
自分より一回り小さな手を差し出され、私はビクビクしながもその手を握りかえす。
「……宜しくお願いします」
怪我の治療中の間も先生をしてくれたネル君が改めて私の先生になる事となり、リアム様の対面に向け詰め込んだこの国の成り立ちと必要最低限の知識とマナーの再確認の後、本格的にこの世界で生活出来る様に勉強が始まる予定。
予定、と言うのはネル君の方でやらなきゃいけない仕事があるから。リアム様が緊急召集され騎士団に戻る時“温室の樹の準備”そんな事を言っていた。
なので、ネル君に代わり別の人が私の面倒を見てくれる事になったのだけど。私がこのお屋敷でネル君以外で見かけた事がある人達ってメイドの子達と庭師の子?くらいだったような気がする。
「お待たせしましたセナ様」
「いえ、そんなに待っては…………?」
振り返ればネル君ともう1人。私の背と同じくらいの青年が立っていた。
灰色と茶色のツートンカラーの襟足長めの髪に、灰色の瞳。少年から青年になったばかりの幼さの残る顔がこちらをハニカミながら見ている。
「彼は庭師のアヴィ、この敷地内の建物保全や景観を任せています。何度か顔は合わせてはいると思いますがちゃんと紹介するの今回が初めてだと思いますので」
「初めましてセナ様。いつぞやは危険な事をしてしまいごめんなさい」
アヴィと呼ばれた青年は深々と頭を下げて謝罪する。セナは慌てて。
「あ、頭なんか下げなくても大丈夫ですよ。ネル君のお陰で怪我もなかったしあの後窓周りに防御魔法?かけてもらったから気にしないで」
「セナさま〜」
持ち上げられた顔はウルウルと瞳を潤ませた子犬を連想させられた。特に頭の両サイドには寝癖かなんなのかピョコンと出来たケモ耳のような髪束が二つ出来ているのも余計に悪い。
(うぐっ!青年の子犬化とは!なんて卑怯な技を………)
「では、挨拶も済みましたし始めましょうか」
「えっ?」
そう言って渡されたのは軍手とシャベルと鎌。
「この修練場の除草作業です」
「除草作業?」
確かにここは修練場みたいだけど何故ここに連れて来られたのかたった今理解した。
「ええ、本当でしたらセナ様には次の段階に進む為の授業をして差し上げたい所ですが最優先の仕事が出来てしまいましたので」
キラリと瞳の端に透明な水の粒を湛え心苦しそうな表情をしたネル君。
(深窓の令嬢ならぬ、深窓の少年執事!)
顔の表情は変わらず私の脳内で何か色々と繰り広げられそうなフレーズが浮かんでしまった。
「それに、当分の間はセナ様もこちらに住まわれる事が確定しましたし屋敷の者達との交流をもって頂きたいと思い、この様な課外授業的な物にしてみたのですが……駄目でしたか?」
いつもの出来る少年執事からあざと美少年モードにチェンジしたネル君の、下からこちらを見上げるクリクリとした大きな瞳はキラキラとウルウル。小さな口元はほんのり開き乾燥知らずであろう自然な光沢と艶。何故かいつもはきっちりとセンタープレスの入ったトラウザーズを履いてるのに今日に限って少年執事を前面に推し出した短パンバージョンなのか謎が解けた気がする。
「うっ!!ぐぅ!!?」
(私、ロリショタ系は専門外だけどなんて破壊力なのかしら!!)
セナは荒くなる呼吸に胸を押さえ屈み込む。
「うわぁ!セ、セナ様大丈夫ですか?」
「ええ、ごめんなさい大丈夫よ」
咳こむ私の背中を心配そうにさすってくれるアヴィ君には悪いけど、私にとってはちょとしたご褒美なの。
「詳しいことはアヴィから聞いて下さいませセナ様」
「は、はい……」