イケメンはごめんなさい!! 58
さっきまで暑いと感じていた日差しは、今は快適と言っても良い。むしろ、この暖かい光の中でお昼寝なんかしたら最高だよね!と、言いたくなる程の微睡みたくなるような雰囲気を醸し出している中。
瀬奈の正面には神々しいと感じる、いや神か天使しかこの世界にはいないのだろうか?と疑問さえ浮かぶ程の極上の笑顔を浮かべる長い金髪の麗人が1人座っている。ここは先程の中庭通路から少し外れた、中庭内にある休憩所。
騎士団内の休憩所だからと、そこら辺の公園にある様な休憩所ではもちろんない。騎士といっても貴族もいるせいか、この金髪麗人が座っていてもなんら違和感がない立派な休憩所だ。
そしてこの麗人の頭や肩には何故か花が沢山乗っているのだが、これはツッ込み待ちなのだろうか?と、背後に立つロアンに視線でお伺いをたてる。
つまりは助けを求めたのだが、ロアンは先程この正面の麗人が現れてからは無言だ。
「〜〜〜〜っ」
(何で何も言わないのよ!)
さっきまで『俺、両親の口から生まれてんねん。だから、喋れなくなってしもーたら死んでしまうかもしれへん』とか言っていたのに。今はこれだ。瀬奈はジト目でロアンの顔を見続けるが頑なに視線を合わせ様とはしない。
そもそも、その糸の様な瞳は開いているのか閉じているのか謎だけど。
「迷惑……だったかな?」
そんな2人に金髪の麗人は少し悲しそうに目を伏せ、小首を傾げる。その瞬間、バックに可憐な花が咲いた様な錯覚が瀬奈の視界を奪った。
「ヒッ!!?」
その仕草はネルファデスがやると『可愛い♡』だが、麗人がやると何故か可愛い+色艶まで付いてくるのは何故だろう。ビックリし過ぎて思わず変な声が出てしまった。
「そんな叫び声が出てしまう程、私は貴女に嫌われてしまったかな?」
「えっ!!?あっ……そうじゃなくて、神々し過ぎて……いや、後光が凄すぎまして。あっ、と、……他の方々もイケ……素敵な方々ばかりなのですが、何と言うか素敵レベルの格が違い過ぎて圧倒された叫びなので……」
あわあわしながら言い訳を言っていた瀬奈に、麗人は先程よりもさらに極上の笑顔を向けて。
「それは褒めてもらえていると取っても良いのかな?それなら嬉しいのだけど」
「!!?」
瀬奈の瞳が一瞬、カッと開きそしてプシュ〜と頭から何かが焼き切れた様な音が聞こえた。
その瀬奈の様子を見ていたロアンは、正面の麗人にも聞こえる様に大きなため息を吐く。念の為生きているかの確認の為に耳を近づけてみたら「美人は怖い、美人は怖い」と、小さく呟いているのが聞こえてくる。
「はぁ。エリアス様。コレで遊ぶんはそろそろ辞めてくれへんですかね?何か用があって騎士団に来たんじゃないですか?俺らこれから図書室で勉強しなあかんのですよ。用がないならこの辺で失礼します。ほな、しっかり自分の足で立ちぃや」
ガックリと操り人形の糸が切れた様な瀬奈の腕を掴み、椅子から立ち上がらせ様としたロアンに。
「……興味がね。私も皆と同じで彼女に興味があったから会いに来たんだ」
ピクリとロアンの動きが止まった。視線だけエリアスに向けるがいつもと同じ様に微笑を浮かべこちらを見ている。
「……あんさんみたいな人でも一般人には興味があるんですね」
「……それはどう言う意味かな?ロアン君?」
一見、にこやかな笑顔をお互いに浮かべているのに何故か周りの温度が急に下がった。そのせいか意識がオーバーヒートしていた瀬奈は一度、ブルリと体を震わせ目をパチパチと瞬かせ辺りをキョロキョロと見回す。
「??ロアン?どうし……はっ!!」
瀬奈は正面の麗人を見て固まった。
「ええ加減にせぇ!三流コントみたいなん俺にやらせるなや!」
頭をチョップされ瀬奈は正気に戻る。
「あんなっ!いちいち固まってたら話進まんねんで?あんさんの屋敷にも魔王みたいなえっっっらい美人おるやないか!」
「魔王……うっ……確かに。魔族だし魔王様といっても過言ではないけど……あれはあれで美人度の凄みがまた別で……あの人の場合はイヤラシ色気と言いますか…ごにょごにょ」
「はぁぁあ?何ゆーてんの?俺からみたらどっちも同じや?しかも男や!いくら美人かて付いてるモンは」
その瞬間、瀬奈は勢いよくロアンの口を塞ぎ。
「わぁー!!!!!」
ロアンの言葉を遮る様に瀬奈は叫んだ。突然の大声にロアンは仰け反り。
「プッ!!なんや!急に大声だしよって!耳がバカになるやろが!!」
瀬奈の手にプップッと唾を吐きかける仕草をする。
「ちょっと!汚いことしないでよ!それに私の手ちゃんと洗ってるし!!馬鹿はロアンでしょ!!馬鹿馬鹿馬鹿っ!!女性の前でなんて事言おうとしたのよっ!?」
瀬奈はそう反論する。
「何が馬鹿や!事実をっ」
「おやめなさい」
ロアンが更に何か言う前に。ストップと言わんばかりの制止の美声がかかる。
「2人とも、何をそんなに騒いでいるんだい?エリアス様も……笑ってないで止めてあげて下さいよ」
中庭に現れたのは困った顔のマクシミリアン。エリアスに向けて一礼する。
「やぁ、マクシミリアン。君が部屋から出ているなんて珍しいね」
と、言いつつマクシミリアンが1人でいる事に気がついた。いつもなら部下の1人は連れて歩いているはずなのだが。
「……あれ。もしかしてここに居るのがバレちゃいました?」
「ええ、お迎えにきてますよ」
マクシミリアンはニッコリと微笑む。
「残念。もうバレてしまったのか。これからだったんだけど……セナ。私の名前はエリアスと言う、近いうちに君とはゆっくりと花を愛でながらお茶でもしたいと思っているのだけどその時は貴女をお誘いしても大丈夫だろか?」
急に名を呼ばれ。ロアンから視線を外しエリアスと名乗った麗人に顔を向ける瀬奈。
「えっ?お茶?ですか?……えっと。今はまだ1人で決めて良い立場ではないのでネルく、ネルファデスかリアム様に伺ってみないとお返事が出来ません」
ごめんなさい!と、頭を下げる瀬奈に。マクシミリアンとエリアスは一瞬だけ驚きつつも、エリアスは笑顔を瀬奈に向け。
「失礼、君はまだ保護契約中の身だった事を失念していたよ。保護者の許可を頂かないといけなかったね。それなら改めて君を誘う事にするよ。だから頭は上げてくれないかな?」
「……はい」
「それじゃぁ、私は迎えが来てるようだからここで失礼するね」
そう言ったエリアスの後ろでマクシミリアンがこちらに向かい一礼をする。そんな2人が中庭から出ていくと。
「……知ってるか?この国の1番偉いんは王様や」
「??うん?」
まぁ、王様だし。1番偉い人よね?戸惑いながらも瀬奈はそう返事をした。
「その次が騎士団長の中でも団長達のまとめ役が聖騎士って役職や。これは、現聖騎士がリアム様なんは知ってるよな?」
「……そのくらいなら」
彼は一体何を言いたいのだろう?うん、なんかこのタイミングで聞いたら駄目な気がする。いや、多分絶対聞いたら駄目よね?だって、さっきの金髪の麗人。絶対に何か上の偉い人ぽっいし。
「あん人な、このラルミノ国の宮廷伯……つまりは宰相ってやつや」
(ああ、やっぱり……)
「……………そう、宰相」
「あれ?驚かんの?もっとこう『きゃー!今のが宰相様なの?素敵ー!!』みたいなリアクションを期待したんやけど」
瀬奈のスンとした表情に、ロアンはつまらなさそうに口を尖らせそんな文句を言っている。
「……私にそんなリアクションを求めないで下さい」
薄々、会話の流れ的にそうなんじゃないかって気づいてたしね。これがもし、何かのゲームや物語の中だったのなら何かの強制力が働いたのかも!なんて、思わなくわない。
「つまらんやないか。次は期待してるで。ほな、邪魔者は消えたし図書室に行こか」
宰相を邪魔者とか。ロアンは本当にこの国の騎士なのだろうか?
「はははっ」
これがまっさらな現実世界であるなら。これから先はああいった偉い人と関わらない方が良いだろう。だって、絶対に面倒毎に巻き込まれる気配しかしない。
私はひっそりと推しカツしながら心の栄養を補給し、普通の暮らしがしたいのだ。
***
「ふんふんふ〜ん♪」
サラサラと左右に揺れる長い金髪。
ご機嫌な鼻歌。
足取りは軽やか。
まるでダンスのステップでも踏んでいるかの様な動きで、その動きに合わせキラキラとした何かがエリアスの周辺を飛び回っている様子をマクシミリアンはそっと後ろから眺めていた。
まさか、エリアス様が異世界人であるセナ様にわざわざ会いに来た事に驚いた。まぁ、ただの異世界人ではないので分からなくもない。それに、エリアス様はリアム様とも旧知の中で付き合いも長い間柄であり仲も良い、ただお互いの役職柄城内ではあまり一緒に居る所は見ないが東砦の騎士団に滞在中は一緒にいる所を良く見かける。
「……随分とご機嫌ですね?セナ様と何か面白いお話でもされたのですか?」
先程、エリアス様自ら彼女をお茶に誘っていた。それはとても珍しい事だ、むしろ逆ならば良く見かけるが。勿論、極上の笑みでお断りしているのも同じくらい見かける。
「ふふふ♪彼女に声をかけたら君の所の狐君が威嚇してくるものだから会話らしい会話が出来なかったよ」
「………それは、失礼しました」
狐君。つまりはロアンの事だか、彼は何故かエリアス様やリアム様といった華々しい有名人が好きではないらしい、どちらかと言えば嫌いの部類にお二人を入れる変わり者。だから、セナ様の護衛として彼を付けたのだ。
「ふふふ。でも、リアムの悩みの種の彼女を見れたから良かったよ」
「!!?」
「………リアム信者の君は気になるかい?」
前を軽やかに歩いていたエリアスはピタリと歩みを止め、チラッと後ろを振り返りマクシミリアンを見る。
「それは是非っ」
リアム様の事なら全てを知り尽くしたい!そんなマクシミリアンの熱い言葉が紡がれる前に、別の乱入者によって遮られた。
「マクシミリアン団長!今、よろしいですか!」
2人の前に現れたのは黒い制服を着た団員。急いでやって来たのか少し息があがっている。騎士団の塔内での宝珠の連絡は緊急時以外は禁止なので自分の足で探すのが鉄則ではあるが……。
「あのっ!ハァハァッ…赤のっ……」
訓練されてる彼らがこんなに言葉途切れになる程、自分を探していた事になるわけだが一体何があったと言うのだろうか。
「落ち着きなさい、一体なにが……あっ、エリアス様?」
部下からの報告を聞く前にエリアスはてくてくと歩いて行く。マクシミリアンが慌てて声を掛けるが。
「彼は君の部屋だろ?大丈夫。そのくらいなら私でも分かるから」
エリアスはマクシミリアンに手を振って歩き出した。
「ですがっ!」
「大丈夫、大丈夫。そんなに離れた場所ではないし迷子にならないから。君は自分の仕事があるでしょ?」
エリアスはマクシミリアンの横に立つ部下を指差し、大丈夫だと行って歩き出していく。
「……あの?マクシミリアン団長?」
遠慮がちに自分に視線を向けてくる新人団員の部下に何でもないと首を振り、彼の持ってきた報告を聞く事にした。
(でも、本当に大丈夫だろうか?………あの方、極度の方向音痴なんだが……)
後ろ髪が引かれる様な不安の中、部下の持ってきた報告に更なる不安がマクシミリアンに襲いかかるのを彼自身はまだ知らない。




