イケメンはごめんなさい!! 57
今日も耳に聞こえてくるのは高い剣戟音と飛び交う怒声。
彼らが動く度に巻き上がる砂埃。
そして、頭上では花火の様に打ち上がる魔法。
魔法。
そう。魔法だ。
「そないに真剣に見てて、オモロいですか?」
そう声をかけてきたのは、黒の騎士団の制服をまとい栗毛に狐の様な顔をした青年。見た目の歳は20歳前後くらいだろうか?時々、関西弁みたいな訛りがあってもしかして異世界人の人?かと、思ったられっきとしたラルミノ国出身のラルミノ国民だと言う彼の名はロアンと言う。
「うん、魔法を見てると違う世界に来たんだって実感がするの」
瀬奈は、演習場の高台から今にも魔法を打ち上げる素振りをみせる団員を注視していた。
「まぁ〜、異世界から来たばっかりの子らは最初は物珍しく見とるけどな。そのうち、魔法なんて!な〜んて言い出すのが定石やで?……って、聞いてないんかい!」
ロアンの1人ツッコミは魔法観戦に夢中の瀬奈には聞こえてなかった。
ロアン。彼は黒の騎士団所属。そして、元異世界人担当教師として魔法学園に所属していた経歴から、今回。検査入院中で騎士団内に留まっている瀬奈の護衛として選ばれた。
ピュイーと甲高い声で鳴く鳥、演習場の近くを普段あまり飛ばない鳥に細い目を更に細め身を乗り出しそうな瀬奈に一声かける。
「そんなん身ぃ出したら落ちるで?」
その瞬間、いつもよりも激しい爆風が演習場内で巻き上がった。
瀬奈の視界は一瞬だけ暗くなったと思ったら、聞こえてくるのはコツンコツンと金属に何かがあたる音。
「なぁ〜夢中になるのは良いけど、護衛するこっちの身にもなってな?お嬢様?」
お嬢様その言葉にピクッと反対した瀬奈は、正面に掲げられた銀の盆を手で受け取りながら真横でニヤニヤとした表情で立つロアンを睨みつけた。
「……どうも、ありがとうございます」
避けたお盆の境には細かい砂と石ころが数個。ロアンがこの盆を瀬奈の前に出さなかったら顔に傷が付いていたかもしれない。
「けど、お嬢様呼びはやめて下さい。ロアン先生」
「あか〜ん!不合格!!そないな顔でお願いされても動かへんで?ちゃんと愛嬌たっぷりでお願いしてもらわんとっ」
「………。先生、お願いします」
眉間に皺を寄せたまま瀬奈は笑顔をロアンに向けた。
「ん〜……まぁ、今日はそれで合格してあげよか。鳥さんも煩いしな」
「鳥?」
瀬奈はキョトンとした顔で空を見上げるが、一羽の鳥が飛んで行くだけで鳴いている鳥は一羽もいない。なんなら自分の頭の上にクエッションマークが出ているだけだ。
「気にせんといて。さっ、気分転換も出来たし。図書室行こか?今日は周辺国の名前や特産品なんかのつまらーん授業や」
「つまらないって、そんな自分で言わないで下さいよ」
立ち上がり、少し離れた場所にいる白騎士団の人に会釈する。
「だってそうやろ?つまらな過ぎて昨日、途中で寝てたんは誰や?瀬奈、自分やろ?その大事にしてるスマホとやらで証拠写真でもとったろか?」
歩き出した瀬奈の少し前を歩くロアンの後ろで、瀬奈は自分の鞄をギュッと抱く。そう、ロアンは瀬奈の護衛でありながらこの世界について教えてくれるありがたい先生なのだ。騎士団内にいる間は部外者であるネルやアヴィ、鬼達が居ない。そんな彼らの代わりに派遣されたのがロアンだった。
マクシミリアン団長からの紹介の時点でこの調子だったのだが、マクシミリアン団長もユリウスも気にした風ではなかったので多分コレが彼の通常営業なのだろう。
「ねぇ、ちゃんと俺の話し聞いとる?」
突然、ロアンが瀬奈の顔を覗き込む様に話かけてくる。が、予想以上に顔が近くて心臓に悪い。
「!!?……聞いてますよ。つまらない授業がどうしたら面白くなるかですよね?私が寝てしまったのはすみませんでした。ちゃんと今日は起きてますから……?」
顔が近いと抗議の言葉が出るよりも、周りからの視線に瀬奈は言葉を止める。
(まただ……また、見られてる)
ヒソヒソと噂話をするでもなく、悪意のある視線を投げられるでもなくただ自分を見ている視線に瀬奈は違和感と何かモヤッとする気持ちをここ数日抱えていた。
「あ〜。気にせんよーにって言うても気になってまうよな?」
頭をポリポリとかきながらロアンはまた歩き出す。今度は瀬奈の隣りに立ち並んで目的地まで向かう。
「まぁ、色々と言うても結局は同じやから言ってまうけど。あのリアム様がって言うのが1番。そいでそのリアム様んが保護契約までした異世界人のあんさんに、興味を持つなって言うても無理やろ?たとえ訓練された団員かて見てみ?頑張ってはいるが奇異の目、好奇心の目、皆が興味津々な目をしてる」
「…………」
ロアンの声が聞こえたのか数人の団員達が気まずそうに視線をはずし、何事もなかったかのように動き出す。
「こればっかりは、リアム様を恨むんやな。あのお人が凄すぎて側におる奴らも同じ様なオーラってのかな?そんなん醸し出してる様なすっごい人達ばかりやし、仮に一般人みたいな俺なんか隣り歩こうもんならジュッてピッカピカの光で燃えてまうと思うわ」
ロアンのそんな台詞には瀬奈も同意したいと思う。コクコクと頷く瀬奈を見て、ロアンはポンッと瀬奈の肩を叩いた。
「そ〜言うこっちゃ。あんさんの噂は騎士団内だけちゃうからね色々大変かもしれんけど、頑張りや。ほな、行こか〜」
「え?頑張り……えぇ?」
この先に見えるのが一抹の不安しかない様に思えるのは気のせいだろか?
「私、唯の居候なんです!!」
って、言った所でどうしようもないけど。言わせて欲しい!!
「本当に本当の唯の居候なんですっ!!」
と。
「あれま。なんや?今日はやけに人がぎょーさんおるのな。何かあるんか?」
目的地である図書室に向かう途中。普段より浮き足だった団員達とすれ違った。しかも、女性の団員達だ。
「女性の騎士もいるんですね」
「そやな〜、少ないけどおるで〜」
「何人かは見かけてはいましたけど……結構居るんですね」
「そやな〜、女の団長も居るぐらいやから少なくわ無いかもな〜。ほら、今日はこっち側から図書室に行こか〜」
ロアンが指差すのは、図書室に向かう為のもう1つのルート。ただ、いつもよりか遠回りで普段なら使わないのだが今日はこちらから行くらしい。
「……私、こっちの通路から行くのは初めてです」
「今日は気分転換や」
そう言って真っ直ぐに進む予定が急遽、左側からぐるっと図書室まで向かう事となった。いつもの通路より静かで人通りもあまりない道ではあったのだが。途中、中庭に面した通路は壁も何も無かった。階下からは伸び過ぎた木がこの先に続く通路を覆っていて、まるでその道が森の中に進む一本の道筋の様に見える。
「しまった……こん人が来てたんか……俺としたことが、やられたわ〜」
あちゃーとした顔のロアン。瀬奈は訳も分からず先に歩いていたロアンの隣りで立ち止まる。
「どうしたんですか?」
「え?あぁ〜あん人が瀬奈あんさんに用があるみたいやから……」
深いため息と共に、あっちに行けと言わんばかりの勢いで手で追い払われた。
しかもシッシッ、と口で言われた。
「そんな人を犬猫を追い払う見たいに……」
若干のジと目でロアンを見ていたら、誰かの笑い声が聞こえた。
瀬奈の良い声センサーに反応するタイプの声質にすぐに反応した。
「失礼、笑うつもりは無かったんだ」
森化した中庭の通路から出てきたのは肩や頭に小鳥や蝶、花弁等で飾りたてられた1人の男性。
静かに瀬奈の前まで歩いてくると。
「やぁ、初めまして。君が噂の『セナ』って子かな?」
眩く光輝く金髪を靡かせ、極上の笑顔でそう問われた。




