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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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60/62

イケメンはごめんなさい!! 55

 ゴクリと、瀬奈は喉を鳴らし。女が開いた扉を潜る。

 部屋の中は昼間だと言うのにカーテンが引かれ薄暗い。それに甘い匂いに混じって鉄錆の様な匂いが部屋の中で充満している。

「ウッ……」

 その不思議な匂いのせいで一瞬グラリとした瀬奈の身体を女は背後からグッと掴んだ。

「あら、お客様大丈夫ですか?あちらに椅子があるわ。少し座りましょう」

 女の言葉は瀬奈の耳には届いていたが、この匂いのせいで思考が定まらない。ただ、危険信号は頭の中でずっと鳴り響いていた。

「さっ、どうぞ。私の特別な花もこの位置からならとても良く見えるわ」

 瀬奈を椅子に座らせ、女はすぐそばのベッドの周りに張り巡らせた幕を手繰り寄せ中が見える様に小さな魔石ランプに火を灯す。

「ひッ……!!」

 明かりが灯り闇の一部が照らし出された瞬間、瀬奈の喉が恐怖で引き攣る。

 そこには確かに花があった『特別な花』確かにそう言われてもおかしくはないのかも知れない、けどこれは。

「あら?どうなさったの?もっと良く近くでご覧になって下さいな。とても綺麗でしょ?」

 女はランプをサイドテーブルに置き、空いた両手で花を愛でる様にその苗床に擦り寄った。

「あっ……その……」

 上手く声が出ない『それは一体なんですか?』と聞いた方が良いのか、それとも聞かない方が良いのか。何よりも、今は目の前の恐怖で喉が締まり、息が吸えない。

「まぁ、お客様。顔色が悪いけれど大丈夫?少し横になった方が……」

 女の伸ばされた手が瀬奈に触れる瞬間、閉められていた扉が勢い良く開き何かが部屋の中に飛び込んで来た。



「セナ様に触るなッ!」



 瀬奈と女の間に現れたのはいつもの赤鬼面を付けた赤鬼。瀬奈を背後に庇い小さなナイフを構え女と対峙した。

「赤鬼さん?!何でここ……あっ、さっきの」

 あのきび団子飴が赤鬼をここに導いてくれたと言う事だろう。

(本当に来た……)

「あら?貴方はどちら様かしら?私、貴方をこの家に招待した覚えはないのだけど?」

 この異常な状況の中でも女は平然とそんな事を言っている。でも瀬奈は女のその状態に納得した。

 何故なら『特別な花』は人の身体から生えていたからだ。長く伸びた根っこはベッドに絡みつき、そのベッドに横になっている人間の体内を突き破り茎が伸び大輪の花を咲かせていた。

 そして、その苗床になっている人間は彼女の家族の1人。寝たっきりになっていると言う息子に違いない。

「でも……まだ若そうだし……良いかもしれないわね」

 女が何か独り言の様にぶつぶつと囁いているのを視界に捉えながら、赤鬼は瀬奈の手を取り椅子から立たせ扉に向かう。

「あら?何処に行くのかしら?まだ駄目よ?それに聞いてくれるかしら。最近、息子が成長期なのかしらね?とても良く食べるの、前までは少食で全然食べてくれなかったのにね」

 二人は女から視線を外さない様、ジリジリと開け放たれた扉へと近づいて行く。その間は女の世間話の様な口調で紡がれる会話を聞いていた。

「最近は食事の準備も意外と大変なの。この子たらお腹がいっぱいにならなくて少し乱暴者になっていたのだけど……ふふふ。今日は喜んでいるわ」

 瀬奈も赤鬼も何を?とは聞かない。聞くまでもないのは暗がりで最初は見えなかった物が目が慣れてきた今ならハッキリと見えているから。

 この部屋にはベッドの他、隅には山積みになった白っぽい何か。その一つがタイミングよくコロコロと山から転がり落ち、瀬奈の足元で止まる。

「………っ!!」

 その深淵の様な2つの穴と目が合う。かろうじて立っていた瀬奈の脚は、恐怖で力なくその場に崩れた。

「!!?」

 握っていた手が急に引かれ、赤鬼が一瞬だけ目を逸らしたその瞬間。

 瀬奈の真横を生暖かい何かを撒き散らしながら一本の根っこが壁に突き刺さる。

「えっ?」

 びちゃびちゃとした余り考えたくない様な不快な音と、メキメキと壁を引き抜くその根っこの先には貫かれた赤鬼。貫かれたままどうにか抜け出そうともがくが、根っこが徐々に身体に巻き付いていき上手く抜け出れないでいる。

「えっ?嘘……だよね?」

 まるでリアルなホラー映画のワンシーンでも見ているかの様な臨場感、次第に赤鬼の四肢に絡みつき締まっていく根っこと共に何かが折れる音が現実だと告げている。

「あらあら、いつもはもっと上品に食べるのに今日は我慢が出来なかったみたい」

 嬉しそうに笑みを浮かべる女の目線の先には根っこの絡まった赤鬼。その根っこが傷口から血を啜っているのか不愉快な啜る音が聞こえてくる。

「やだ、やめてよ……そんな事したらっ!!」

 未だに抜け出そうともがく赤鬼の動きが次第に緩慢な動きに変わる頃、カランっと面が落ちるた。

「あっ、あっ……ああっ!」

 仮面の下のその顔は暗がりの中でも分かるくらいに真っ白になっていた。だが、ゴフッと聞こえるくらいの大量の血を口から吐き出しこちらを見る瞳はまだ諦めていない。

「えっ?無理だよ……」

 その瞳はまるで立てと行っている様だった。けれど瀬奈の脚には力がもう入らない。

「ふふふ、そろそろ弛緩薬も効いてきたかしら?本当は薬なんて混ぜない方が良いのでしょうけど……暴れられてもねぇ。それに…食事はやっぱり新鮮な方が良いでしょ?あの子暖かい血の方が好みなのよ」

 笑いながらそんな事を言う女。瀬奈はもうこれは夢なんじゃないかと思った。

 ここに来てからの数ヶ月。それが全部夢の中だったら。今まで会った人達も、今目の前で起きている事も全部夢。

 それなら今のいままでふわふわと何となく過ごしてきたこの数ヶ月に納得が行く気がする。

 今起きたらきっと病院のベッドの上かもしれないけど、起きるなら今だと思うの。

「うっ……がっ、ああっ!!」

 だからそんな事しないで。瀬奈が見ていられなくてギュッと目を瞑り俯いた瞬間。

「ア゛ア゛ア゛ァァァ!!」

 地の底から響く様な声とブチブチと何かを引きちぎる音。たまらず耳を塞ぎたくなる音が止むと瀬奈は薄く目を開けた。そこに居たのは、絡まった根っこを引きちぎりボトリと血溜まりになった床に落ちる赤鬼の姿。

「キャアア!やだ!どうしましょう!!私の子が……大丈夫?痛くない?」

 引きちぎられたカケラを持って女はベッドの上の花に向かい心配そうに声をかけていた。

 その間に赤鬼は血溜まりからフラフラと立ち上がり瀬奈の方に歩いていく。

「あっ、どうしよう……わたし……」

 どうして良いか分からない瀬奈に対し、赤鬼は頭を左右に振る。そして今のうちに外に行こうと手を差し伸ばした。

「ごめん、ごめんなさい。わたしがもっとしっかり……」

 その差し出された手を握ろうと顔を上げた瞬間、赤鬼の背後に迫る人物に瀬奈の身体は反射的に反応した。

 薬と恐怖で震えて動かなかった脚が勝手に動く。


「う……っっ!!!」


 差し出された赤鬼の手を引っ張りそのままの反動で二人の間に立ちはだかる形で入ったのは良いけど……。これは……。思った以上に痛いかも。

 背後からの衝撃でそのまま前から床に倒れる。

「ごめ…ゴフッ!」

 倒れた痛みより、目の前にいる彼に安心してもらおうと喋ろとしたら血が邪魔をする。失敗した…内心瀬奈はそう思いつつも、オロオロとした表情の赤鬼が瀬奈を見下ろしているそれが何だか可愛い。

「そん……かわ……」

 倒れた時に打ち所でも悪かったのか?くらりと頭が揺れ何か目が霞んできた様だ。

 ()あっ?もしかしてこのまま目が覚めるパターンかな?

 未だに夢の中説を捨てきれていないのか、そんな事を考えるも背中がいやに熱い事に気づいた。

 ボロボロで立つのもやっとな赤鬼が瀬奈の背中をかばいながらをそっと抱き上げる。

 抱き上げたは良いが、背中を怪我しているのでなるべく触れない様に自分の身体の方に寄せて抱いていた赤鬼は空間に漂う歪みに気づいた。

 (あれ?私…抱っこされてる?)

 私、初抱っこかも。夢の中とはいえちょっと憧れはあるよね。でもちょっと…この体勢は苦しいかも。

 そんな呑気な事を考える瀬奈達の前にフワリと淡い光の粒が現れた。それは次第に収束し、この場に似つかわしくない人物が突然この部屋に現れる。



「そのままセナ(それ)を持って下がれ」



 聞き覚えのある美声。

 ふわりと香るお茶と甘い匂い。

 真っ白なマントを翻し現れたのは、言わずもがなリアムその人であった。

「まるで……」

 その姿を見ておもわず呟いた言葉は、微かな空気の塊としてその場に落ちる。

 安堵したのか、気絶したのか瀬奈の身体から急に力が抜け赤鬼の両腕に重みが増した。

「…………」

 瀬奈の口元に耳を近づければちゃんと息はしている様だ。ほっとしたのも束の間。

桜鬼(おうき)

 名前を呼ばれビクッと身体が硬直した赤鬼こと桜鬼は、主人であるリアムに顔を向けた。

「……この近くに騎士団の者がいるはずだ、ここに案内してやってくれ」

 コクリと頷く桜鬼の気配を背で感じ次いで。鋭い瞳が少しだけこちらを一瞥し。

「………桜鬼、お前も一緒に騎士団の医務室で治療してもらいなさい」

「………はい」

 一瞬だけ躊躇った後、桜鬼は素直に頷き瀬奈を腕に抱えたまま部屋を出て行った。

 リアムは遠ざかる足音を確認する。多分すぐに騎士団の者達と合流出来るだろう。それよりも目の前のコイツをどうするべきか。


「とりあえず、大人しくし(ソレ)を返してもらおうか?」


 正面では先程から根っこをムチの様にしならせ攻撃してくるこの食人花。苗床だったであろう人の姿は既になく、今は桜鬼に千切られた根を修復する為にこの人間の母親だった者を捕食し初めていた。

 その光景にリアムは冷たい眼差しのまま、握った剣を構え直した。


「悪い子にはお仕置きが必要だな」

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