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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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59/61

イケメンはごめんなさい!! 54

 階段にかけた足を止めて音のした方へと振り返る。

(今、何かが……)

 薄暗い路地の先に黒い塊のような何かが落ちていた。瀬奈は辺りを見回すがやはり誰もいない。

「……………」

 チラッと雑踏の音がする階段上をみやり、ギュッと鞄を持つ手に力が入る。ここは一度、赤鬼と合流した方が良いと分かってはいるけれど瀬奈の足はその黒い塊の方へと勝手に進んでいく。

「………これは……一体何かしら?布?」

 近づいてみてもその黒い塊の正体が良く分からない。黒く汚れた布の様に見えるソレに瀬奈が手を伸ばそうとした瞬間。

 遠くから誰かの叫び声と駆けてくる音が聞こえた。伸ばした手を止めて走って来る音の方に顔をむける。

「ごめんなさいっ!!ソレ、私のです!!」

 路地の隙間から走ってきたのは、長いスカートの裾を持ち上げ片手に大きな籠を持った年配の女性。走ったせいだろう、額には薄っすらと汗粒を浮き上がらせ息が少し乱れていた。けれど瀬奈はその女性に見覚えがあった。

「………あっ!小瓶の人」

「えっ?」




 薄暗い路地裏を抜け細い石造りの階段を登る、その先には見慣れたいつもの上城区の裏路地。

「裏路地の更に裏路地があったなんて驚きだわ」

 裏路地の裏路地、そこは上城区の生活用水が流れている小さな用水路があり所々に人が1人通れるような石階段が伸びている。主に洗濯や洗い物で使っているのだと初めて知った。

(そういえば、お店だと洗濯物とかどうしてるんだろう?でも、普通に水道……台所にも庭にも付いてたよね?お屋敷も普通に水道付いてたからそれが普通だと思ってたけど、もしかして違うの?)

 そんな疑問を持ちつつ、瀬奈は『花屋』と書かれた店の前にポツンと1人立っていた。先程の女性『小瓶の人』は瀬奈の記憶通り、あの時の女性だった。彼女はここの花屋を夫婦で経営していて、今は事情があり店を閉めているそうだ。

 そんな店の扉が静かに開く。

「お待たせしてごめんなさい。お客様を裏口から入れるなんて失礼なこと出来ませんからね。何も無い所ですがさっ、どうぞ中に入って」

 扉の奥から笑顔で迎え入れてくれたのは、もちろん先程の女性。小瓶を拾ってくれたお礼にと招待された瀬奈は、開かれた扉を潜った。

「失礼します」

 中は小ぢんまりとした店内、今は営業をしていないので電気はなく外から差し込む光のみで少し薄暗い。けれど、店内には鉢に植えた花や切り花などが所狭しに並べられていた。

(………お店は閉まってるって言ってたけどお花はあるんだ……せっかくだし少し買って帰っても良いか後で聞いてみよう)

 店内を通り過ぎ、奥の部屋へと瀬奈は案内された。

「お茶の用意をしますから、少しお待ち頂けるかしら?」

 女性に促され、部屋の中央にある簡素な丸い木のテーブル席に腰を下ろした。椅子も木で出来ていたが、厚みのあるクッションが敷かれていて座り心地は悪くない。

「あの、そんな気になさらないで下さい。たまたま拾っただけなので…」

 席に座る瀬奈は、棚から茶葉の入った缶を選んでいる女性の背にそう声をかけた。何せ、手に取る缶が明らかに高そうな装飾のされた缶だったからだ。茶葉に詳しくはない瀬奈でさえ流石に『高そう』と思ってしまう缶を次々と手に取るものだから、一言そう声をかけた。それに、お茶の良し悪しはネルファデスのお陰で最近少し分かる様になったが、やっぱり『高価』な物だと緊張して味が良く分からない。庶民派なのだ、私の舌は。

「いえいえ、私の大事な物を拾って下さったのですからお持てなししない訳にはいきません。……お茶菓子はまだあったかしら?……あら?ないわ……向こうだったかしらね。少し外しますがお待ち下さいね」

 そう言って女性は慌ただしく部屋を出ていってしまった。

「…………行っちゃった」

 女性の背に伸ばしかけた手を引っ込め、代わりに鞄からハンカチに包まれた小瓶を取り出した。

「返したらすぐに戻るつもりだったのに……心配、してるよね?」

 瀬奈は困ったな、と言った顔でその小瓶を手に取った。その中にはキラキラとした透明な液体と()が入っていた。

「コレって種……だよね?拾った時は入って無かったと思うんだけど…見間違いだったかな?」

 液体がゆらゆらと揺れるその小瓶の中で、小さな赤黒い種も一緒に揺れている。

「それにしても何の種なんだろう?これ見せた瞬間ずいぶん驚いた顔してたからきっと高価な種なのかもしれないわ……」

 高価と言うフレーズに自分で発した言葉にもかかわらず、ゴクリと喉を鳴らし瀬奈はすぐにそれをハンカチの上にそっと置いた。こちらの世界に来ての『高価』が、本当にどうしようもないくらいに高いと実感した事が先日あったことを思い出したからだ。

「この世界の金銭感覚……怖過ぎ……。でも、そっかコレが高価な物だったらそれが自分の元に戻ってきたら驚くかも?」

 瀬奈はそう解釈することにした。




 女は部屋を出ると喜び階段を降りる。使い終わってしまったはずのあの種、何の因果か自分の元にまた戻ってきたからだ。

 使ってしまった後、あの医者に何度も頼みこんだがあの医者は首を縦にふらなかった。女には差し出す物がもう残っておらず諦めゴミを棄てる為、人通りの少ない裏通りを歩いていた。フラフラと歩いていた女は持っていた袋を最下層の通りまで落としてしまった。通行人に見つかるとやっかいな代物なので仕方なく拾いに行った先で出会ったのが、さっき家に招待したあの若い女性だ。

 自分の落としたゴミを拾おうとしていたので慌てて声をかけた。だが、その子は私を見て驚き。

「門の近くでコレ落としませんでしたか?」

 と、差し出されたのは。


 使用前の種。


 何故、彼女がコレを持っているのかは分からないけれど確かにコレは自分が求めていた種だ。

 門の近くを歩いていたのも、あの医者に会う為。結局は会えず途方にくれ、あの小瓶は途中で捨てたはずだった。


 だから私は。


「まぁ!!拾って下さったの?とても大事な物で探していたの。見つかってくれて本当に良かったわ。……貴女、時間はあるかしら?お礼にお茶をご馳走するから今から家に招待するわ。さっ、こっちよ」

 そう言って、彼女を強引にこの家に連れ込んだのだ。

 女は階段を降りた先の奥まった部屋の扉に手をかける。ギギっと軋む扉を開け薄暗い部屋の奥にあるベッドへと近づいた。

「私の愛おしい子。待たせてごめんね。今食事にするからもう少しだけ待っててくれるかしら?……えっ?光が眩しい?分かったわ後で厚手のカーテンも一緒に持って来るわ。そうそう、今日は嬉しい事があったのよ……」

 女はベッド脇に座り、水の張った桶にタオルを入れ染み込ませる。硬く絞り、ベッドに横になったままの自分の息子の手をとる。

 その手はまるで木の枝のように痩せ細っていた。風呂に入れない彼の為に女は優しくタオルで拭っていく。

「もう少し、もう少しだからね…」



「私たら、お客様をお待たせしてしまうなんて……申し訳ないことをしてしまったわ。ごめんなさいね」

 女は瀬奈の待つ部屋に行く也、申し訳無さそうに頭を下げた。

「いえいえ、本当っ。気にしないで下さい。……えっと、私も隣のお店の中とか勝手に見てたので……」

「隣の?」

「はい、さっき可愛い花がいっぱいあるなって思って少し見てました。今はお店は閉めているって言っていたのに古い物じゃなく、ちゃんと新しい物が置かれているんですね。良かったら帰りに買っても構いませんか?」

 自分の部屋に飾られている花はネル君がいつも朝持って来てくれる。お屋敷で育ってている花で華やかで豪華な色とりどりの花は、屋敷の住人達同様目を楽しませてくれるけれどたまには小さな花も可愛いらしくて良いなと見ていたのだ。

「……貴女はお花が好きなのかしら?」

「……好き……。そうかもしれません。見ていると癒されるので」

 フッと頭の中によぎるのは屋敷の住人達やハーフエルフの3人組。彼らも瀬奈にとっては癒しの対象だ。いつもお世話になっているので彼らにお花を贈るのも良いかもしれない。そんな事を考えていたので側に立つ女性の表情には気づかなかった。

「そう、好きなのね。……良かったわ」

 そう言ってニッコリと笑う女の目は怪しい光を帯びていた。



 女性のお茶をご馳走になり、美味しい焼き菓子を頂きさぁ帰ろうかと思っていたのに話しの流れから女性が大切に育ってている花を見せてくれる事になった。

 赤鬼も自分が突然居なくなってしまい心配しているはずだ。早く元の場所へと戻らなければならないのに、断りきれずに女性の後を着いていく。

「ここ?ですか?」

 瀬奈が連れてこられたのは階段を降りた先の扉の前。そこは薄暗く冷んやりとしていた。女性の話ではその花は日の光がとても苦手で、用水路に面した陽当たりの比較的悪い一階の一室で育てているとのこと。

「ええ、そこに私の特別な花があるの。私の大事な大事なお花なのだけど……お花が好きだと言っていたから特別に貴女にお見せしたいと思ったの。迷惑だったかしら?」

 特別な花。そんな花を見せてくれると言う女に付いて来たは良いけれど、瀬奈はその異様な空気に危険を感じていた。きっと、この扉を開けてはいけないと本能が言っている気がする。

「いえ、そんな事はないですけど…」

 どうにかここから逃げなければと考えるがこんな状況になった事がないので、全然良い案が浮かばない。

 一階に降りて来てから肌がゾワゾワとする。冷んやりとしたこの場所だからだけではないのはさっき出会った医者のせいだ。あの時と同じ、何か嫌な予感がしてならない。

「さぁ、お客様。その扉をお開けになってみて下さい」

「………」

 女性に促され、扉の前に立つ。扉の隙間からは異様な空気と鼻の奥に残る様な何かが腐った様な匂いが微かにする。鞄からハンカチを出そうと思い手を入れ。

「ん?」

 鞄の底に何か硬い異物がある事に気づく。それは屋敷を出発する前に赤鬼から渡された物だった。


 ***


 朝、出発する直前。珍しく赤鬼に名前を呼ばれたと思ったら。

「…これは?」

 手のひらに納まる程の小さな小袋を渡され、瀬奈は首を傾げた。その袋には桃印が付いていて、中を開けると小さな白い飴玉が数個入っている。

「飴玉?えっと…おやつか何かかな?」

 名前を呼ばれたのでこの飴玉の説明を求めたら、赤鬼は身振り手振りで説明してくれた。だが。

(ごめんだけど、何を良いたいのか全然分からないわ)

 喋らない赤鬼の代わりに、玄関まで見送りに出ていたネルファデスが見兼ねて代わりに答える。

「それは『きび団子飴』ですね」

「きび団子飴?」

 なんだか、聞き馴染みがある様な無い様なフレーズに更に首を傾げる。

「ええ、何か不測の事態に陥った時。これを噛み砕いて下さい。そしたら赤鬼がセナ様の所に駆けつけます」

「噛み砕くんですか?」

「その飴は鬼達の里で特殊な製法で作られています。材料は……置いておいて、噛むことによって飴に練り込んだ成分と噛み砕いた方の唾液の成分が混じりあい、鬼達にしか分からない特殊な匂いを発するそうです」

「匂い……ですか?」

 それを聞いた瀬奈は少しだけ嫌な顔をした。だって『匂い』だなんて言われたら自分が臭うのかな?と思ってしまったからだ。そんな瀬奈の心情でも察したのかネルファデスはクスっと笑い。

「匂いといっても臭い匂いは出ませんよ?甘い匂いも出ませんが。……そうですね。しいて言うなら食べた人の魔力の匂いですかね。鬼達、特に彼ら小鬼達が里の外に行く時に迷子にならない様に持たせる飴だと思えば良いと思います」

「迷子……」

 うんうんと頭を縦に振る赤鬼といつもの様にニコニコとしているネルファデス。見た目は瀬奈よりも年下の彼らだが、何故か暖かい目で見られているのは気のせいだろうか?

「今日は護衛が赤鬼だけですので、念の為に持っていて下さい」


 そんなやり取りをした事を今、思い出した。

 瀬奈は小さな袋から飴をそっと取り出し口の中に放り込み、ガリッと噛み砕く。


「さぁ、中へどうぞ」


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