イケメンはごめんなさい!! 53
痛い…
痛い…
背中が痛い。
熱くて、背中が焼けそうに痛い。
「君、大丈夫?」
誰?知らない声。でも、誰でも良い。
だれか、誰か。
誰か僕を助けて!!
フッと眩しさで目が眩んだ瀬奈の目の前には、知らない美人が心配そうに覗き込んでいた。
(……これまたすっっごい美人さんが私を見ているんですけど…何?とうとう天国に召された感じなの?私)
ぼんやりとした思考の中、覗き込む彼の第一印象が言葉に出ていたようで。その彼はキョトンとした顔からクスッと笑い瀬奈の顔に手を伸ばす。少し冷んやりとした手が額に当てられ冷たくて気持ちいい。
「お目覚めですか?お嬢さん。残念ながらここは天国ではなく騎士団の医務室で申し訳ないのですが……自分のことは分かりますか?」
(えっ!天国ではない?ならこの人は誰?)
「私ですか?申し遅れました。私は黒の騎士団所属、団長のマクシミリアンと申します」
そう言ってニッコリと微笑むその人はやはり美人だ。もし、声を聞いていなければその風貌から女性だと思っただろう。
(黒騎士団の団長さん?もしかして……ユリウスさんの上司かな?それに、医務室って言ってたけど。何で私こんな所にいるんだろう?)
いまだにぼんやりとする頭で瀬奈は考える。ただ、先程から背中の辺り。特に腰の辺りに何か違和感があるのが気になる。
気になると言えばもう一つ、先程から声に出して喋っている訳ではないのに何故かこのマクシミリアンと言う名前の団長と意思の疎通が出来ている事だ。
「おや?うちのユリウスとは面識があるのですか?それは初耳ですね」
ふむっと、考える素振りを見せつつ視線を別の方向へと向ける。
(……?他に誰かいるのかな??)
瀬奈も視線だけを別の方向へと向ける。
(あっ……)
視線の先には最近良く会う黒騎士団副団長ユリウス・ラシッドその人が申し訳なさそうな顔で自分を見ていた。
(……ユリウスさん。なんだか、怒られた犬みたいに落ち込んでるけど……何かあったのかな?)
シュンとしたその顔が、普段の凛々しさを消し代わりに幼く見えてしまう。何だか可愛らしいだなんて言ったら怒られてしまうだろうか?
「ああ、君を刺した犯人を捕まえたのだけど自決してしまってね。ユリウスのせいではないと言っているのだけど責任を感じているんだ。けれど、犯人からの情報が聞けなくなってしまったのは事実。私から貴方に謝罪の言葉を言わせてくれないだろうか?」
そう言って、マクシミリアン団長は私に向かって「すまなかった」と頭を下げる。けど、それを見ても瀬奈にはまだ理解が出来ていなかった。
(……犯人?……刺された?私が?)
不意に、腰の辺りに鈍い痛みが走る。
「……っう!」
痛みで軋むベッドにユリウスが即座に動こうとするが、マクシミリアンからの静止の手に阻まれる。
「痛むのかい?……そろそろ薬の効果が切れる頃かな?ユリウス、次の薬草を持ってきてくれるかい?」
ユリウスはこくりと頷き部屋を出ていく。それを視線で追いながら、ふと顔に影が差したかと思うとマクシミリアンの冷たい手が瀬奈の額に再度置かれた。
「まだ、熱があるみたいだね。ユリウスが戻ってくるのに時間がかかるだろうからこのままもう少し寝ていなさい」
その言葉はまるで魔法の様に瀬奈の瞼を重くした。数秒後、規則的な寝息が室内に響く。ずっと握られていた手を優しく離し、マクシミリアンは立ち上がる。
「……ここは君に任せて良いかな?」
ベッドのすぐ側。瀬奈からは見えない位置に鬼の面をつけた鬼人族、赤鬼と呼ばれる少年は立っていた。マクシミリアンにそう聞かれ、コクリと頭を縦に動かす。
おずおずとマクシミリアンが先程まで座っていた椅子に座り、眠る彼女を心配そうに見つめる彼をマクシミリアンは見ていた。
「私達は隣の部屋に居るから何かあれば呼んでくれ。後は君に任せるよ」
彼女を見つめる小さな背の彼は、もう一度コクリと頷いた。
マクシミリアンは医務室を出ると、そのまま隣の部屋の扉の前で一度止まりノックをする。
「黒騎士団団長マクシミリアン・ヴィルヘルム・ハノーヴァ。入ります」
一言、そう声をかけ扉を開ける。そこには先程薬草を取りに出て行ったはずのユリウスと、緑色の髪をした執事服の少年に薄紫の髪に白いマント、白の団服を着たリアムが待っていた。こんな時でも神々しいと言わんばかりの姿にマクシミリアンは一瞬だけ歓喜に震える。が、すぐに正面に座る騎士団最高位であるリアムへ敬礼し自分の役割を果たすべく言葉を紡ぎ始めた。
「私が赤鬼から聞いた話しでは……」
「はぁ、はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫かしら?」
瀬奈は自分の腕を掴む赤鬼に問いかけた。レイズが『逃げろ!』と言うので複雑な裏路地を走って逃げて来たのだが、本当に逃げる必要はあったのだろうか?
私達の前に現れたあの不思議な雰囲気を纏った医者。2人は警戒していたけど私には何故、警戒しなければならなかったのかは良く分からない。
ただ、2人が警戒したから私も警戒しただけだった。
普段走っているけれど、裏路地は大通りと違い細く入り組んでいる。しかも先程の爆発で野次馬も居てとても走りずらい状況の中走ってきた私達は一度背後を振り返り、誰も追って来ていない事を確認する。
(レイズ……追って来ないけど大丈夫だったかな?)
冷んやりとした壁に背を預け、乱れた呼吸を整える。少し走っただけで吹き出てくる汗が額や顎先に伝い落ちていく、鞄からハンカチを取り出そうとして一緒に何かが転がり落ちた。
「あれ?コレってさっき騎士団の人に預けたよね?何で……あっ!待って!」
それは先程、瀬奈が拾った小瓶。落とし物として巡回中の騎士団の人達に渡したはずのそれが何故か鞄から出て来た。拾いあげようと手を伸ばすが道行く人々の足に蹴られコロコロと転がっていく。
「赤鬼さんごめんなさい!」
そう言って、赤鬼に掴まれていた手を振り解き瀬奈は転がる小瓶を追いかけた。
「!!?」
掴んでいた手が急に離れ、赤鬼は一瞬だけ驚いたがすぐに瀬奈へと手を伸ばすが。
「今度はあっちで爆発があったみたい、あの辺りのカフェが気に入っていたのに大丈夫かしら?」
「まぁ!?爆発?放火の次は爆発…」
そんな雑談をする野次馬達が、赤鬼と瀬奈の間を通り過ぎていく。
その間ほんの数秒。
赤鬼の動きがピタリと止まり、そこに居たはずの人物を探す。
(……居ない?)
歩いて4、5歩の距離にいた瀬奈の姿が見当たらない。脇道に入ってしまったのだろうか?と、脇道に顔を向けるも、数人歩いている人がいるだけで瀬奈の姿が見当たらない。念の為に反対側の路地にも顔を出すが目的の人物はいなかった。
コツン、コツン、コツン。
コロコロコロ……。
コツン。
今まで転がっていた小瓶は、壁に当たると何事もなかったかの様にその場で止まった。
「もうっ!どこまで転がって行くのよ!!」
その小瓶を拾い上げ、瀬奈はそれをハンカチに包み鞄にしまう。
「それより、ここは何処?」
立ち上がり周りを見回した瀬奈は見慣れない場所に首を傾げた。裏路地ではあるけれど、いつもの通りと雰囲気が少し違う。まだ昼だと言うのに辺りは少し薄暗く、とても静かだ。
「人が……いない?」
寒くはないのに、一瞬だけ悪寒で背筋がブルッと震える。瀬奈は今降りてきた石階段を見上げた。転がった小瓶は路地の脇道、更に下へと続く石階段へと転がっていってしまった。一番下まで転がってしまった小瓶は壁に当たりやっと止まったのだ。
「随分と降りて来ちゃったけど、早く戻らなきゃ……?」
階段の上はザワザワと人の声がしている。多分、いつもより人通りが多いのかもしれない。赤鬼さんも急に自分が居なくなった事で心配しているはずだからと元来た道を戻ろうと、階段に足をかけた瞬間。
ドサッと重たい何かが落ちる音が聞こえ、瀬奈はそちらに顔を向けた。
「……えっ?」




