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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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57/62

イケメンはごめんなさい!! 52

 東砦、研究棟の一角。

 今日も今日とて彼等は白衣に身を包み、よく分からない薬品を調合し、何のためにあるのか分からない機材を愛でながら今日も何かを研究している。

 サシャ・リンドバーグは顕微鏡を覗きながらニタニタとしていた。だが、同僚から肩を叩かれガラス張りの部屋の外を見ろと指差され、愕然とした。良く知る2人組がこちらに向かって手を振っていたからだ。せっかくの楽しい時間が終わってしまったとサシャは理解し自分のロッカーに白衣をしまい、代わりに自分の所属する団服を身にまとった。更衣室を出る前に姿見で身だしなみを整え、部屋を出る。

「お久しぶりです。マクシミリアン団長」

 マクシミリアンに向かって、敬礼。次に隣りの金魚の糞みたいにいつもいるユリウスには軽い挨拶を交わした。

「やぁ、サシャ。久しぶりだね。同じ砦内、同じ黒の騎士団なのに全然顔を見ていなくて心配はしていたけど……元気そうでなによりだよ。サシャ副団長」

 口角を上げているがマクシミリアンの瞳は笑っていなかった。

(怖っ!団長の目が怖っ!!)

「はい!研究に没頭していました!!」

 サシャは再度敬礼し姿勢を正す。

 サシャ・リンドバーグはマクシミリアンが言うように黒の騎士団の()()()である。だが、副団長でありながら研究者でもある彼の立ち位置はとても微妙だ。本来なら研究室で一生を過ごすはずがどこかの野生のゴリラみたいな人に拉致され、いつの間にか騎士団に入団させられてしまった。しかも、自分とはまるで関わりのない別の世界の様な騎士団(ここ)は僕は嫌いだ。

「そうか、研究にね。ご苦労様。それで君に聞きたい事があってここに来たんだけど良いかな?」

「承知しています」

 サシャは(うやうや)しく頭を下げた。団長であるマクシミリアンが居る時点で何かがあるのは確定していた。それに好き好んで研究棟(ここ)にくる人がいたら、その人は僕と同類かただの変態だ。

「承知している?……もしかして、コレは君が?」

 マクシミリアンがポケットから取り出したのは、先程ユリウスが持って来た例の種の入った小瓶。

「はい。遺体の検分に立ち会ったのは自分なので()()については存じております」

 ビシッと姿勢を正し、正面のマクシミリアン団長の顔を見るサシャ。その様子を見て、マクシミリアンは一瞬驚いた様な顔をしたがすぐに呆れた様な表情でため息を吐いた。

「………そうか、まぁ……うん。あのゴリラが見つけた人材だからな……うん」

 最後の方は聞き取れなかったが、どうやらゴリラ……いや。元黒騎士団団長の悪口を言っていると判断し、サシャは黙ってマクシミリアンを見ていた。だが、その横から圧のある視線をよこす者が1人。

 そう、ユリウス・ラシッドだ。

 2メートルありそうな長身に、鋭い目つき。一見、怖そうな風貌ではあるがそれは見た目だけだとサシャは知っていた。同じ副団長と言う地位にはあるが、在籍期間としては自分のが長くこの騎士団に在籍している。マクシミリアン団長がまだ副団長だった頃はまだユリウスは騎士団には居なく、後任としてマクシミリアンが団長になって少したった頃に入団してきたのだ。つまりは同じ副団長と言う役職をもらっているが、僕の方が先輩と言うことだ。

「………何か用かね?忠犬君(ユリウス)

 サシャは指で眼鏡を押し上げながら、今にも噛み付かんとしているユリウスを冷めた目で見ていた。

「コレが何か知っていたのに、何故もっと早く報告をしてくれなかったのですか?」

 相変わらず真面目そうな顔でサシャにそう聞いた。

「何故って、そんなモノに興味がないからだろ?」

 いたってシンプルな答えに、ユリウスは一瞬だけ言葉を詰まらせるがすぐに反論する。

「……っ。興味がない以前の問題なのですがっ!コレは魔物の一部なんです。貴方も良く知っているでしょ?魔物の一部を使った人工的な生命を作り出すのが禁止されていることを!それなのに何故!マクシミリアン団長に報告をあげないのですか!これはどう考えても緊急であげるべきですよ!!?可及的速やかな対応が必要な件なのに貴方はっ!」

 余り言葉を荒げる事がないユリウスが、珍しく声を荒げ肩で息をしている。それでもサシャは冷めた目で彼を見た。

「だから?僕の騎士団での仕事は悪人を捕まえる事ではない。ただ、遺体に普通ではあり得ない様な魔力ともいえる力があった時、それが何かを判断、究明するのが僕の仕事だ。それが終われば僕には関係がないし君の様にマクシミリアン団長に忠誠を誓っているわけでもない。そもそも君の様に騎士団に身を粉にしてまで仕え様だなんて思ってはいないからね、そんな時間があるなら僕は自分の研究に時間を……ヒィ!」

 サシャが語り出し、更に言葉を続けるつもりがマクシミリアンの笑顔ではない笑顔の前では反射的に言葉が喉の奥に戻って行く。

「サシャ、君が報告をしないのは今に始まった事ではないからね。それは別に良いんだ……ただ、この種についてもう少し詳しく聞きたいんだが良いかな?」

 マクシミリアンは自分の顔の造形美を最大限に引き出せる笑顔でサシャにそう問いかけた。

「………はい、マクシミリアン団長」

 サシャは引き攣った顔で了承した。マクシミリアンとサシャは実は付き合いが長い、サシャが入団する前からの知り合いである為、マクシミリアンの笑顔の裏を知る1人でもあるサシャは額から冷や汗を一粒垂らしながらも了承したのである。

(くっ!ここで嫌だと突っぱねたところで後で何をされるかわかったもんじゃないからなっ!!ここは大人しく言うことを聞いておかねば)

 サシャは2人に連れて行かれる前に、一度研究棟の自分のロッカーから荷物を取りに戻った。だが、中々戻ってこない彼をユリウスが肩に担いで強制的に運んでいるのを同じ研究棟の人間が目撃していたのは言うまでもない。





 その頃。

 商業地区、裏路地にある半壊しかけた『ベルフルール』前にて。

「まぁまぁ、そんなに警戒しないで。私は見た目通りのただのしがない中年の医者ですよ。貴方達の言う死臭は職業柄仕方がないのです。特に私の患者は死にとても近い方達が大勢いますからね、洗った所で長年染みついた匂いは中々落ちないのですよ。だから」

 医者がニコニコとしながら一歩踏み出す。

「動くなっ!」

 レイズは険しい顔で正面の()()を睨みつける。釣り上がった金色の瞳は一瞬たりとも彼を逃がさない様にと視界に捉えたまま、背後の2人に声をかけた。

「ここから早く離れろっ!」

「えっ?でも…」

「いいからっ!良くわかんねぇーけど、アイツは何かやべぇ!!オレの全身がアイツの全てを拒絶してるっ!!だから早く行け!!」

 そう言ったレイズの背中では、細く長い尻尾が激しく振れている。この振れ方は本能で危険を察知しているのだと瀬奈でも理解した。

 瀬奈とレイズの間にいた赤鬼が振り返り、瀬奈の手首を掴むと医者の居る方とは逆へと走り出した。

 レイズは正面を向いたまま、2人が去っていく気配を背中に感じながら医者に話かける。

「あんたの言う、怪我人はもうどっかに行っちまったぜ?どうする?わざわざ追いかけんのか?」

 警戒は緩めずにレイズがそう言った瞬間、医者は眼鏡を指で押し上げ笑う。

「あ?どうした急に笑いだして、代わりにオレの知ってる腕の良い医者でも紹介してやろか?」

 背中がザワザワする。

「いえいえ、私も自分で言うのはなんなんですが。私もそれなりに良い腕を持っていますよ?」

 早くここから()()も離れろと、頭の中で自分が言っている。

「ハッん。腕には自信があるってか?それは医者としての腕なのか?それともっ!?」


「レイズ・カメリア」


 突然名を呼ばれ、レイズはピクッと動きを止めた。

「………あんた、誰だ?」


 逃げろ。


 逃げろ、アイツの言葉に耳を傾けるな。


 医者はニヤリとした笑みを浮かべた。さき程とは違うもっとネットリとした笑み。まるで獲物を見つけた様な笑みを浮かべる医者の瞳がキラリと鈍く光っていた。

「さっきも言ったじゃないですか、私はただの医者ですよ」


 聞くな。


 それ以上は聞くな!!


「ただ、私は―」



「レイズっ!!伏せろ!」


 男が口を開く瞬間。

 聞き慣れた声が自分の名前を呼んだ。

 伏せろ。その言葉に反応し、反射で体を小さくさせれば自分の頭上スレスレで何かが男目掛けて飛んで行く。

「大丈夫かレイズ!」

 現れたのは先程黒騎士団に連れて行かれたはずの颯人が、似合わない険しい顔でレイズの顔を覗き込んでいた。

「……なんで?」

「何でって、チッ!!」

 持っていた棒切れを振り、飛んで来た何かを叩き落とした。落ちたのはただの石。飛んで来た方へ視線を向ければそこには地面に刺さった棒切れ以外、何も居なかった。

 そう、あの怪し気な医者もいつの間にかいなくなっており代わりに増え出した野次馬がゾロゾロと路地裏から出てくる。

「……チッ。行くぞ」

 颯人に腕を引かれて歩き出したレイズは、一体何が起きたのか理解が出来ていなかった。

 何故、ここに颯人が?

 それに何故そんな怖い顔をしているの?

 疑問は次第に、聞こえてくる雑踏から理解した。

「まぁ、大変。放火じゃなくて今度は爆発ですってよ?怖いわね」

「ええ、本当。放火の犯人だってまだ捕まっていないんでしょ?それに聞いた?この間の感謝祭の時に―」

「まぁ、そうなの?最近は本当、物騒な事件が多くなってきたわね。でもそう言えば―」

「この間のお宅も、1人暮らしの家だったとか―」



「さっき、若い女性が刺されたんですって」



 野次馬らしい雑踏の話の中、そんな話をしている声をレイズは拾った。


「でも、すぐに鬼の仮面をつけた鬼人族の子が取り押さえて―」

「ああ、それで黒騎士団が」


 所々聞こえてくる話にレイズは手を引く颯人の背中を見る。その背中はいつもの余裕はなく、出会った時の頃の様にピリついている。

「……颯人、もしかして刺されたのって……」

 道ゆく話の内容から分かっていた。

 けど、違っていて欲しいと願いつつも聞いてしまう。

 一定の距離で走っていた颯人は急に止まり。後ろを振り返った。



「……刺されたのは、瀬奈ちゃんだよ」

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