イケメンはごめんなさい!! 50
時は遡り、ロッシュが畑を水浸しにする数刻前。瀬奈は赤鬼の仮面を付けた青年と街に出掛けていた。今日は商業地区の上城を散策予定である。最近、感謝祭が終わってから『ベルフルール』も臨時休みが多くなってきた。店長である颯人さん自身への依頼の仕事もあったり、商品の在庫や教室等も元々颯人さん1人でこなしていたそうだ。あの3人も時々店に来て手伝っていただけで毎日のように来る様になったのも最近なのだと、世間話ついでに聞いたのも最近の事だ。
「赤鬼さん、今日は大通りの方を散策したいんだけど良いかな?」
瀬奈は商業地区に入る門で赤鬼の仮面をつけた彼にそう聞いた。今日は自分の服とお世話になったベルフルールの皆に何かお返しがないかと探しに出て来たのだ。
赤鬼はコクリと頷き、馬車を指差す。
「厩に預けてくるのね、わかったわ」
赤鬼は喋らない、ネル君と話しているのは見かけた事はあるけれど私とはいつも身体の動きだけで会話をする。いつだったか、実は私嫌われてる?と思いネル君に聞いたことがある。
『あの、もしかして私ってあの2人に嫌われているんでしょうか?』
『………2人とは、鬼達ですか?』
『はい、私とは全然お話ししないので……もしかしたら知らないうちに嫌われる様な事をしたのかもと思いまして』
『……そんな事はありませんよ。むしろ話し下手で申し訳ないと言っていましたから』
『えっ?……そうなんですか?』
『ええ、彼らは鬼人族の子供達です。まだ半人前で力の制御が不安定であまり感情に刺激を与えない様にするため、他人と関わったり会話をしたりするのを極力避けているそうです』
『刺激しないために……まだ、子供なのに少し可哀想ですね』
『……そうですね。特にあの2人は色々と問題がありまして、里の方から直々にリアム様の所で修行するようにとこちらに預けられたのです』
『も、問題ですか!?』
『私達からしたら大したことはないのですが、里では少しね……ですが2人共良い子達ですから仲良くしてあげて下さいね』
と、言うことが瀬奈が店に通い始めた最初の頃にあった。それを踏まえた上で接していたせいか会話がなくてもある程度は何が言いたいか、何がしたいのかが理解できるようになったし挨拶も時々返してくれる様になったのだ。挨拶も10回に1回くらいだけど……。
「まぁ、ほんの少し前進したってことで」
商業地区の上城、貴族街から入る時は一度門を通る。どこの誰が通ったのか記録する為だ、また上城から貴族街に入る時も同じだ。ちなみにリアム様の屋敷は貴族街を抜けて更に鬱蒼とした森を抜けなければ辿り着くことが出来ない。
屋敷周りに他の屋敷や人が居ないのはそう言うことなのだろう。
「……でも、赤鬼さんと青鬼さんは普段は門番よね?必要なのかしら?」
ふと、新たな疑問が浮かぶがそんな瀬奈の背中にドンっと誰かがぶつかった。
「わっ!!」
その拍子にいつもの手提げ鞄を落としてしまう。
「びっくり〜、急いでたのかな?」
瀬奈にぶつかった相手はそのまま人混みへと走り去ってしまった。鞄を拾い、埃を手で払う。すると、地面に太陽光に反射し光る何かが落ちていた。
「……瓶?中に何か入ってるけど……何かしらコレ」
瀬奈が拾い上げたのは手のひらよりも小さな小瓶。華美な装飾もなく至って普通の小瓶の中に水が少し入っていた。その水の中にも何かが混じっているようで光に反射しキラキラと輝いているのが分かる。多分、今ぶつかった相手が落としていったのだろう。すでに走り去ってしまった相手は流石にもう追いかけられない。
「……落とし物だし、ここは交番に届けるのが良いのかしら?でも交番?この世界に交番……あっ!!」
瀬奈は通り過ぎていく人混みの中から最近見慣れた服を着た一団を見つけ駆け寄った。
「毎度ありがとうございます。それではいつもの様に大事に預らせて頂きますね」
小太りの少し年配の男性はニコニコとしながら代金を受け取り、宿から出て行く彼の背が見えなくなった所でドカッと椅子に座った。
「こんな場所に鬼人族なんて珍しいですね」
そう声をかけるのはこの宿の下働きの青年。休憩から戻ってきたのか新しいエプロンを締めながら2階から顔を出し降りてくる。
「お前か、嫁さんはもう良いのか?」
男性はクイッと2階を顎で指す。
「ええ、店主のお陰で今は安定しています」
「そうか、なら良かった」
店主と呼ばれた男性はよいしょと椅子から立ち上がり、もらったばかりの代金を帳簿に書きこむ。
「今の鬼のお客さん、わりと良く来るんですね」
青年は覗き込むようにその帳簿を見て呟いた。帳簿は2種類、1つは宿、もう1つは厩の方の帳簿だ。その厩の方の帳簿には今書いた名前が日付違いで書いてある。それは馬を預けに良く来ると言う事だ。
「ああ、あの白銀の騎士団団長リアム様の所の馬車だ。乗ってる人物は知らないが最近は良く馬を預けにくるな、あの鬼人族もリアム様の所の使用人なんだろう」
店主は暑苦しいと言わんばかりに横から覗き込んでいる男の顔を手で押しやった。
「へぇ〜あの鬼人族も使用人扱いとは、本当凄いお人ですね〜リアム様は」
「そうだな、鬼もあの通り静かだ。だからってちょっかいかけるなよ?」
店主は青年の顔に指を突きつけ釘をさす。店主と青年の出会いは……省ぶいておこう。
「いやいや、流石に俺も鬼人族のしかも五色の赤鬼にちょっかいなんかかけませんって」
青年は両手でイヤイヤと横に手を振る。訝しげな顔の店主だったが書き終わった帳簿を青年に渡した。
「……なら良いが。それじゃ、少し宿の方に顔出してくるからここはお前に任せた。くれぐれも余計な事はするなよ」
「はいは〜い。お任せ下さい〜」
そう言って手を振る青年は、店主が宿の方に向かったのを確認すると先程店主が座っていた椅子に同じように脱力した様に座り込んだ。
「はぁ〜〜驚いた。まさかリアム様んとこの使用人が来るとは……すぐ隠れたしバレてへんよね?」
狐顔の青年はぽりぽりと指で頬を搔く。閉じられた扉の向こう側に視線を送るが、新たなお客の出現に青年は糸目を更に細くした。
「いらっしゃいませ〜馬の預かりで良いですか〜」
赤鬼はチラッと今出て来たばかりの厩を振り返った。いつもの宿だが今日は何かがいた。2階から降りてきた瞬間向こう側もこちらの存在に気づき直ぐに引っ込んだが……。
「…………」
赤鬼は彼に害がないと判断し瀬奈の元へと急いだ。だが。
「……??」
「赤鬼さーんこっち〜」
声がする方を見れば、瀬奈がある一団と言葉を交わし戻ってくるところだった。
「……?」
赤鬼は首を傾げた。
「今ね、落とし物を黒の騎士団の人達に預けてきたの」
瀬奈の背後には確かに数人の黒の騎士団がいる。門のところでも2人。良く見れば門の上や人混みに混じっている者もいる。巡回にしてはやたらと多い。
「………」
「それでね、今聞いたんだけど最近この辺りで」
だが、瀬奈の言葉は続かなかった。鈍い爆発音と共に黒い煙がモクモクと上がっている。
「えっ?爆発?」
突然の爆発音に周囲は驚き、近くを巡回していた黒の騎士団達はすぐさま動き出し住民達を避難させるため門の解放を急いだ。瀬奈は急な出来事にその場で立ち尽くしていたが、その煙の上がるその場所を見て駆け出した。
「……!!?」
赤鬼の静止の手はわずかに届かず走る瀬奈を赤鬼も直ぐに追いかける。2人が目指す場所、そこには『ベルフルール』の店がある。




