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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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54/61

イケメンはごめんなさい!! 49

 商業地区の一角に人だかりが出来ていた。少しばかり焦げ臭い匂いがするのは最近頻発している放火のせいだろう。

「また、放火ですか?」

 颯人は長身を生かし、人だかりの後ろから半分程焦げてしまった家屋を見上げ更にその下で作業をしている黒の騎士団達を見つけた。団員達は白い布を焦げた何かに被せている。

「あら、ベルフルールの店長さん。いつもは眠そうな顔をしているのに今日は調子が良いのかしら?こんな朝早くに起きているなんて珍しいわね」

 人混みの集団の中、1人の女性が颯人に気付き側までやって来た。

「昨日、今日とお店をお休みしてまして。いっぱい寝過ぎたんで、たまには朝の買い出しでもと思って歩いていたらここの人だかりを見つけたんです。けど……とうとう被害者が出てしまったんですね」

 颯人はチラッと視線を前に送れば、話しかけてきた女性も少し伏目がちで焦げた家屋の前の白い布を見ていた。

「そうみたいね……放火っていってもボヤみたいな放火ばかりだったし、警邏隊も騎士団の方達も巡回していたから安心だと思ってそこまで気にしてなかったものね。今回は商業地区でもあまり人通りのない家が狙われて……気の良い奥さんだったのに残念ね」

 被害者は知り合いだったのだろう、運ばれていく白い布を悲しそうに見送る。

「……他の家族はいたんですか?」

「いいえ、旦那さんも子供も早くに亡くしていてね。気丈に振る舞っていたけど、やっぱお店を女手1人でやるのは大変でしょ?1人だと寂しさもあったみたいでね最近誰かの紹介でお見舞いしたって話しを聞いたばかりだったのに……」

 その時の事でも思い出したのだろうか。瞳に涙を浮かべている。が、商業地区の女は強い。パンパンと自分の頬を叩き気合いを入れ悲しみから直ぐに立ち直る。

「あらっ!泣いてる場合じゃないわ!!他の奥様方にも知らせなきゃ!店長さん!!近いうちにまた伺うわね」

 手を振り人混みから抜け出た彼女は近くで井戸端会議をしていた別の集団の中に飛び込んでいった。

「………相変わらずパワフル」

 いつだったか、街でひったくりがあった時すんっっごい大声で追いかけていたのを目撃した事がある。あのスピードで追いかけられたら逃げるのは諦めるだろう。その犯人も直ぐに彼女に捕まり、騎士団がくるまで説教をしていたはずなのに最後は2人涙を流しながら固く抱き合っていた。何を隠そう、まだこの地に慣れていなかった颯人自身も彼女から発する元気の(みなもと)的な何かを貰った1人だ。

 颯人は人混みから離れ、結局いつものパン屋で買い出しを終えて店に戻り自室のベッドにそのままダイブした。

「………身体、ダルっ」

 昨日と今日は、急遽店を休みにした。瀬奈は勿論だがハーフエルフの3人も今日は店に来ていない。今日は3人とも颯人の師匠のいる魔法学園の方に行っている。颯人も先日の瀬奈の発するあの甘い匂いの件でそちらに顔を出していたが用事を終えたらさっさと帰らされて今に至る。

「……研究狂い供め」

 颯人は珍しく悪態をつきながら、頭痛のする頭を揉みほぐしテーブルの引き出しを開け頭痛薬を取り出し口に放り込む。頭痛はそのうち治るだろう。ただ、この体が重く怠い感じまでは治らない。ベッドに倒れたままの颯人は開けっぱなしの引き出しの奥にある物を見つけた。

「…………まだあったのか……1人だし、たまには良いか」

 引き出しの中には薬ともう一つ、古びた箱が入っていた。昔と言うかこの世界に来る前は良く使っていた懐かしい物を取り出し、部屋を出ると裏庭に出る。

 時間はまだ昼にもなっていない。が、今日はいつもより静かだと感じる。最初にこの家を借りた時ときは1人で、1人になりたかった俺には丁度良かった。けど次第に人が増え、自分が店に出ていなくても誰かが店番をしているし、いつの間にか畑は拡大し、休憩室の食器棚には自分以外のマグカップまで並んでいる。それに今では積極的に人と関わろうと教室を開く程だ。

 それなら今日が随分と静かなのも頷ける。未だに怠い身体を扉に預け、そのままずるずると座り込んだ颯人は部屋から持ってきた煙草を取り出し口に咥えた。

「………不味っ」

 久々の煙草は不味かった。こんな物を自分は吸っていたのかと思うと眉間に皺が寄ってしまう。何度か口から白い煙を出していると、表から扉を叩く微かな音が颯人の耳に届いた。

「今日は……勘弁して下さい」

 店の表には『close』の札が出ているので客なら気づいてそのまま帰るだろうと、颯人は居留守を決め込みそのまま不味い煙草をふかしていた。不味いがこれが最後だと思うと勿体なく思ってしまうのは不思議だ。扉を叩く音は静かになり、次いで裏庭に続く扉がギィと開く音に反応しそちらに視線を送る。

(店じゃなくて、こっちに回ってくるって事は仕事の依頼か?)

 重たい体をよっこらせと、反動をつけて立ち上がる。最後に煙草を一気に吸い込めばチリチリと燃える音がするのも懐かしい。

「すみません、お客様。今日はお店お休みなんで明日また……」

 吸っていた煙草を靴の裏で踏み潰し、こんな所まで入り込んで来た客は一体誰だ?と、顔を上げた颯人の視線の先には珍しい人物が鬼の様な形相で立っていた。

「……まだ、吸ってんのか?」

 手には持っていなくとも、鼻の良い彼には煙草を吸っていないなんて嘘はつけない。

「……いや、たまたまだよ。それより、君がここに来るなんてどう言う風の吹き回しかな?俺に会いたくなかったんだろ?」

 あの日から彼―レイズは俺に会いに来なくなった。遠からず、姿を見かける事は何度かあったが避けている様だったので彼の気持ちの整理がつくまではと思い放っておいた。けど少し前に、ハーフエルフの3人とは少し言葉を交わした様だ。あの日、俺に会うかと問うた3人に対しレイズは“俺が今のままじゃ嫌なんだ”と言っていた。その言葉で、()()まだ会いたくない理由は分かったがそれなのに俺の所に来た理由はなんだろう。

 レイズがわざわざ俺に頼みに来ることと言えば……。思いあたる節はあるが颯人は何も言わずに、何かと葛藤しているレイズを見ていた。

「…………」

「……少し、待ってて」

 レイズは颯人から視線をずらし、一旦扉の外に消えた。そしてその小さな背に誰かを背負って戻ってくる。

「むしの良い話しかもしれないが……コイツを助けて欲しい……」

 レイズに背負われた男の傷は大した事はないが、ピクリとも動かない。たが、悪夢にでもうなされているのか助けを求める声が小さく男の口から発せられていた。

「……もしかして、呪いの類い?」

 颯人は近づき、いつもの色眼鏡を外して男の顔を覗き込んだ。男の口からは異様な色の煙が出ているがそれは颯人にしか分からない。

「多分そう……近くにこれが落ちてたんだ」

 レイズが差し出した物は良く見かける一般的な酒瓶。その瓶からも男と同じ色の煙がゆるゆると伸びていた。颯人はそれを見て確信する。

「報酬は高くつくよ?それでも良い?」

 レイズはコクリと頷く。

「助かるなら何でもする!」

「……何でもね。分かった、じゃあ彼を中に」

 ニヤリと笑う颯人には気付かずに、レイズは急いで家の中に男を運び入れた。



 ***



 ポタポタと、水滴が頭から落ちていく。もう夏も間近な季節ではあるが今日は天気が悪く朝から肌寒く感じるのはコレのせいでは無いはず。

「………はははっ、悪い。コイツらが言うこと聞かねーからさ、つい、ついな。わざとじゃねぇーんだ本当ごめん」

 ロッシュが両手を合わせヘコヘコと頭を下げている正面には、水浸しになったネルファデスのニコニコとした表情とどこから取り出したのか手に持つのは太い棒切れ。

「わざとでしたら問答無用でした。僕としては非常に残念ですがね」

 その棒切れを自身の手に打ち付ける。パンパンっと良い音を奏でているのが何とも怖い。

「で?貴方はこんな所で何をしているんですか?辺り一面、水浸しになっている様ですが……」

 ネルファデスの言う通り、使用人屋敷裏の洗濯場兼アヴィの畑には所々に池の様な水溜りが出来ていた。

「なっ!!何だコレー!!僕の!僕の大切な畑がぁーーー!!」

 そう叫びながら温室で仕事をしていたはずのアヴィが顔を青くして走ってきた。

「あっ?すまんアヴィぃうえっぶっフゥ!?」

 走り込んで来たアヴィはそのままの勢いで笑って手を挙げていたロッシュの鳩尾(みぞおち)に、めり込む様に拳を繰り出した。

 遥か彼方に飛んで行くロッシュを視界の端に捉えながら、ネルファデスはアヴィの方に顔を向ける。

「……お任せしていた仕事は終わったんですか?」

「まだですぅ〜そんな事より僕の畑が……もうすぐ収穫間近だったのに……」

 がっくりと肩を落とし水浸しになった畑に座り込むアヴィの前には、瑞々しく育っていた夏野菜達が泥だらけになって転がっている。ネルファデスはその近くに毒毒しい色と柄をしたホースが、口からちょろちょろと水を零したまま地面の上に落ちているのに気づいた。

「……これは、危険と判断し倉庫の奥に保管してあった物ですね。何故これがここに?……まさか、わざわざ引っ張り出してきたんですかね、あの人は」

 あの人とは勿論、ロッシュの事だ。彼に畑の水やりを頼んだのはネルファデスだったがまさかこのホースを見つけて来る辺り、色々な意味で問題児なのだと実感した。それにアヴィが毎日、苦手な水魔法でわざわざ畑に水をあげているのはこの謎に毒毒しい色柄のホースのせい。アンジェリカの実験体になったこのホースは『女性しか受付ない』謎の呪いがかけられた代物だった。試しに、男性がこのホースを使うと水が出なかったり、いきなり凄い大量の水を吐き出したり……しまいには水の槍や弾等を飛ばす危険もあったためネルファデスが使用禁止にし、使用人屋敷の奥の倉庫に厳重に保管していた。そもそも、何でそんな物を作ったのかも謎である。

「ここは僕が片付けておきます。アヴィ、貴方は引き続き温室での仕事をお願いします。来月末には夏の舞踏会ですからね、主人であるリアム様の顔に泥を塗る様なことがない様にお願いしますよ」

「リアム様の顔に泥……僕、急いで仕事して来ます!!」

 元来た道を走って戻っていくアヴィを見送りながらネルファデスは、片付ける為に上着を脱ぎ物干し竿に引っ掛ける。

「さて、片付けますか……この惨状の原因を作ったあの人は……ああ、来ましたね。ロッシュさーん!ここ、片付けるので急いで下さぁーい!」

 小高い丘の上から水浸しになったロッシュが歩いて来るのが見えた。アヴィに吹き飛ばされ上の真珠貝達の住処である池に落ちたのだろう。所々、何かに食われたような挟まれたような跡があるが気にしない。

「落ちた野菜も回収するので背負い籠もお願いします!!」

 了解とばかりに手を挙げるロッシュに、ネルファデスは頷きワイシャツの袖を捲りあげた。


 この時、上着を脱いでいなければ。

 もっと早く気づけていたかもしれない。


 上着のポケットに入れていた、緊急用宝珠が反応していた事に。

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