イケメンはごめんなさい!! 43
「今日の日課も無事終了〜う〜ん……ん?」
日課のランニングを終え、軽くシャワーを浴びた瀬奈が自室に戻る途中。大きな荷物を抱えたネルファデスが空き部屋に入って行くのが見えた。その空き部屋は瀬奈の隣りの部屋、使用人屋敷は二階建ての地下室ありの小ぢんまりとした屋敷で中は食堂、洗濯場、風呂場にトイレは共同ではあるが自分の部屋は個室になっている。その個室の幾つかは現在空き部屋になっていてそのうちの一つが瀬奈の隣りだった。ちなみに、少し前までお隣さんだった方は先日婚約をし今は長期の休みを取っている。休み明けからは通いとなる為、この部屋は空き部屋となった。
「なんてホワイトな職場」と、思ったのは言うまでもない。瀬奈はその部屋を覗き込みネルファデスに声をかけた。
「おはようございます。誰かここに入るんですか?」
ネルファデスは部屋の中央に荷物を置き、空気の入れ替えをする為窓を開けた。
「おはようございますセナ様」
開けた窓からは新鮮な空気が入り、神々しいまでの朝の光がネルファデスを照らしだした。
「…………セナ様?」
「……尊っ、ンン。なんでもないです。ただ…太陽の光が眩し過ぎただけなので」
ネルファデスの後光と笑顔が眩し過ぎて一瞬浄化しかけたとは言わずに瀬奈は「ありがたや〜ありがたや〜」と手を合わせた。
「それで、新しいメイドさん入るんですか?」
「いえ、今の所メイドは足りていますので補充の予定はないのですが代わりに男手が増えそうです」
「男手?」
「ええ、男性の使用人が非常にこの屋敷では少ないので助かるのですが…」
そう言うネルファデスに瀬奈は屋敷内の男性陣達を思い浮かべた。ネルファデスを筆頭に庭師のアヴィ君に料理長、それと以前アヴィ君と喧嘩してた彼?と従僕の小鬼面を着けた彼ら。確かに両手で収まる人数だ。でも、ネル君の歯切れが悪い。
「……何か問題でもあるんですか?」
「問題……と、言いますか彼をどの役職に置くべきか悩んでいます」
ネルファデスは腕を組み、困ったと言った様子で頭を傾げる。
「役職ですか……普通に使用人枠での雇い入れではないんですね。その方はお知り合いの方なんでしょうか?」
「知り合い…と言う程、僕自身が彼を知っている訳ではないですが。リアム様の部下の方で一時的にこちらの屋敷での雇い入れとして置く事になったと聞いています」
屋敷主人の知り合い枠か、それも部下って事は騎士団って事よね?体力的には問題なさそうだけど。貴族関係とかそういったしがらみとか?面倒事に巻き込まれる感じの方が来るのかしら?
これからやって来ると言う、リアム様の部下と言う方を想像していると。
「そろそろ時間ですね。馬車の用意をしておきますのでご準備が出来ましたら正面玄関までいらっしゃって下さい」
ネルファデスは腕時計を確認し、窓を閉める。置かれた荷物もそのままにし部屋を施錠し厩へと向かっていった。
「ネル君……忙しそうだな。あっ、でも騎士団の方なら礼儀作法とか問題ないんじゃない?それなら執事見習い枠とかでも……」
ぶつぶつとこれから来る隣人への微かな期待をしつつ、瀬奈は今日も『ベルフルール』に向かう準備を始めた。
***
東砦騎士団内部では朝早くから通常通りの人混みと、入団したばかりの騎士達で賑わいをみせていた。
その賑わいの中、ピンッと張り詰めた空気が辺りを漂い始めた事に気づくのは一部の古参の騎士とその空気に慣れ始めて来た者達のみ。朝の爽やかな空気の中、普段出歩かない人が今日は砦内を歩いていた。いつものように颯爽と歩く彼に気づいた新人騎士達は姿勢を正し声をかけた。
「おはようございます!リアム様」
「おはようございます!!」
元気に挨拶をする新人騎士達に声をかけられた彼は軽く手を挙げ対応する。相変わらず、少々不機嫌そうに寄せられた眉に血色の悪い顔色。だが、その美貌は変わらず凛々しく美しい。そんな彼へのまだ耐性のない新人騎士達は今日も変わらず次々と倒れていく、稀に耐える者もいるがそんな新人騎士は白の騎士団へと強制勧誘を受けることとなる。
「今年も駄目か……」
そんな言葉を呟くのは白の制服を纏った騎士の1人。柱の影に隠れ常日頃リアムのストーカーとして砦内を巡回している。いや、白の騎士団への新人勧誘をしている。彼は今年の新人リストの紙を持ち赤ペンで✖︎をつけた。
「いや、まだだ。まだ可能性の原石が何処かにいるはずだ!!」
彼はまだ印のない人名を確認し、その人物を探すべく行動に出た。
そんな事が自団で行われているとは知らない当の騎士団団長は、カッカッカッと冷たい石の回廊を歩いていた。東砦騎士団本部、地下に続く階段を降り薄暗い牢屋を幾つか通り過ぎた頃。目当ての牢屋の前に立ったリアムは怪訝な顔をした。
「………先日捕まえた時より傷が増えているようだが」
鉄格子を挟んだ正面には明らかに先日よりも傷だらけになったロッシュ・ローデンステインが不遜な顔で座ってこちらを睨みつけていた。
「マクシムのヤツがやりやがた」
傷は傷だが殆どが掠り傷程度の傷が顔を中心につけられている。リアムは牢屋の両サイドに立つ2人の牢番に目を向ける。2人はそんなリアムの視線に激しく頭を縦に振った。
「………自業自得だろ」
大きなため息と共に、腰に手を当てリアムはロッシュにそう言いのける。
「んなっ!……あ〜う〜ん……まぁ、アイツには悪い事したとは思ってるがコレはやり過ぎだろ?」
一瞬反抗仕掛けたが、マクシミリアンの怒りを思えば自業自得なのかもしれないと思いつつも一応抗議はする。
「……そうか?彼からしたら制御装置をつけて転がっている君なんて虫と変わらないと思うのだが」
命があるだけましだと暗につげられロッシュは頭をボリボリと掻く。
「あいつ、そんなに怒ってんのか……」
ぶつぶつと何かを言っているロッシュは放っておいて、それよりもリアムが気になるのはロッシュが座っている事だ。拘束具、しかも魔力封印の制御装置を付けていた拘束具が牢屋内で脱がれ端にぐしゃぐしゃに置いてある。
(マクシムか?いや、彼には制御装置には何もするなと言ってあったはずだ。だが、拘束具が脱げていると言う事は……)
リアムはジッとロッシュを見る。上から下まで観察するが至って何の変哲も無さそうだが……。
「ロッシュ……」
リアムが呼びかければロッシュは一瞬だけビクッと身体を震わせリアムを見た、顔は平然としているようであるがどことなく目は泳いでいるように見える。
「なんです?団長」
「何を隠している?」
「何も隠していませんけど?」
ニヤッと笑うロッシュと不機嫌そうな顔のリアム、格子越しで2人は視線を合わせたまま動かない。お互いに腹の探り合いをしたところで時間の無駄だと早々にリアムは諦める。彼が何も言いたくないのであれば、口を無理矢理開いた所で無駄な労力で終わるのは目に見えているからだ。
眉間の皺を深くしため息をリアムは吐く。
「………そうか、では服を着ろ」
ロッシュは何故か服を着ていなかった。なんの着衣も身に着けず産まれたままの姿の彼にそう言ったのだが、ロッシュは拘束具の上に置かれていた何かを持ってリアムの元までやって来ると。
「団長、俺の服こんなんなんですけど。他に着るもんありませんかね?」
差し出された服は無残にも細切れになっていた。これも多分、マクシミリアンの仕業だろう。リアムは眉間の皺をさらに深くし牢番の1人に服を持ってくるように頼んだ。
「準備が出来たら行くぞ」
「えっ?ここから出れるんですか?」
意外、と言う顔で見る彼に。
「……条件つきだがな」
リアムは不敵な笑みでロッシュにそう告げた。




