イケメンはごめんなさい!! 42
「………リアム様はお仕事終わったんですか?」
異世界横丁の少し外れた場所に広場があり瀬奈とリアムは並んで座っていた。
「ああ…今日はもう終わりだ」
「そうですか」
周りにはカップルらしき人達が自分達と同じ様に並んで座っている。
(アヴィ君!まだ?まだなの?早く帰ってきて!!)
アヴィはと言うと、せっかくなのでもう少し的屋を見て周りたいと言い出し主人であるリアムを放って行ってしまった。
あのままあの場所で待っていても良かったのだが、チラチラとした色々な視線が嫌でしょうがなくこの少し薄暗い広場へとやって来たのは失敗だったかもしれない。
「あの………また直ぐに騎士団に戻るんですか?」
「そうだな、明日の午後には東砦の騎士団本部に戻るつもりだ」
「………へ、へ〜そうなんですね」
どうしよう。話す事がない……。そもそも、リアム様との接点てあんまり無いのよね。思い出してみても両手で数えられるくらいしか会ってない、と言うよりいつも唐突過ぎるのよ!
森でもそうだし!人のほぼ下着姿見た時だって、図書室でも湖の時だって!!
「………今日は静かだと思っていたが顔が随分と五月蝿いな」
「なっ!!顔が五月蝿いって……ふん!湖に落とした事は許してませんから!」
「湖?あれは私のせいなのか?」
「そうですよ!アレはリアム様のせいです!あの後どんだけ大変だったか」
そしてどれだけ周りに迷惑をかけてしまったか。プンプンと怒る瀬奈を横目にリアムは懐からある物を取り出した。
「君が落としたのはコレだろ?」
「そう!それです!リアム様があの時声なんかかけなかったら………」
瀬奈はリアムの持つソレに目が釘付けになった。
「あの、リアム様?」
「なんだ」
「つかぬ事を聞きますがソレは?」
「君が湖に落とした物だ」
「ですよね!!何で持ってるんですか?!」
掴みかかる勢いで瀬奈はリアムの持つソレに手を伸ばしたがスイ〜と逆の手で持っていかれ届かない。
「ちょっと!何でそっちに持って行くんです?」
「本当に君が落とした物なのか分からないではないか」
「何を『金の斧銀の斧』みたいなこと言ってるんですか!返して下さい」
「その金の斧銀の斧とやらは分からないが、君は随分と太々しいな。私のせいで落としたのだろ?」
「そうですよ?だから拾ってくれたんですよね?ありがとうございます!!」
そう言って、瀬奈は両手をリアムの前に差し出した。
「…………」
仮面越しからでも伝わる呆れた雰囲気はどうでも良い。何よりも大事な充電器が手元に戻ってきたことに瀬奈は喜びを隠せなかった。
「ああ♪私の癒し♡」
「…………」
「お帰り〜♡」
スリスリと頬擦りする。
「…………して、それはどの様に使うんだ?」
「これですか?これはですね……この携帯に繋いで充電するんです」
瀬奈は鞄の中から携帯を取りだし、充電器と携帯を繋だ様子を見せる。
(あっ!しかも充電しだした!良かった〜湖に落ちたから駄目だと思ったけど生きてた〜これも異世界あるあるなのかしら?)
「するとここに稲妻マークが出ていたら充電中と言う意味になります」
瀬奈が画面をリアムに見せる。
「稲妻マーク?」
「ここです、ここ。その仮面で見えづらいなら取れば良いじゃないですか」
「………それを君が言うのか」
「何です?」
「いや、……それで?」
リアムは仮面を外し画面に表示されている稲妻マークを確認した。
「それだけです」
「………………それだけ?」
「はい!充電器なのでそれだけです」
「………充電したその板はその後何もしないのか?」
「何もしないわけではないですが……内緒です!」
「内緒だと?」
リアムが眉間に皺を寄せ怪訝な顔で瀬奈を見た瞬間。ヒュルル〜と、か細い音と共に身体の芯に響くドンッと言う爆発音とキラキラと光る花が夜空に咲いた。
「あっ!花火……そうだ」
瀬奈は携帯を花火に向けて写真を撮った。打ち上がり良いタイミングでカシャリとシャッター音が鳴る。
「こうやって写真を撮る事も出来ます」
出来たてホヤホヤの異世界で見る花火を写真に収めた瀬奈は調子に乗って撮りまくる。
「どうです?綺麗に撮れて……」
今撮ったばかりの写真ホルダーを開きリアムに見せていた瀬奈はハッとした。
(猫仮面のフィルターが外れてる!いつの間に!!)
自分が外せと言った事を忘れて、瀬奈はリアムから目を逸らした。
「この丸いのは何だ?」
「それがボタンです」
「成る程成る程……これで撮ると言うわけか。凛太郎も確か似たような板を持っていたような……」
1人納得しているリアムを瀬奈は横目でチラッと見やる。
薄暗闇にいるはずなのに薄い紫の髪は月光に照らされ銀色に輝いている様に見える。確か最初に会った時もそう思ったっけ……。
「ん?……最初に……」
瀬奈は何か引っ掛かる、記憶の奥にしまい込んだ引き出しをそっと開けた。
―そして、私はあの日を思い出す。
リアム様と初めて会ったあの日を。
命綱なしのスカイダイビングを無事に終えた私は真っ暗な暗闇の森の中にいた。生い茂る森は冷んやりとしていて、暗闇の奥からは獣の声がしていた。
ブルリと震える身体は寒さからなのか、獣への恐怖からくる物なのかは分からない。
けれど、空は徐々に明るくなり木々の隙間からは太陽の光が筋の様に森の奥にも届き始めていた。
ほんのりと明るくなった森の中、景色の輪郭が分かる様になった頃。
私の下敷きになってしまった美声年を思い出す。幻想的とも言える朝靄の中、不運な事に一筋の光が私達の居る場所を照らし出した。
見てはいけないものを見てしまった。
だが、目を反らす事も出来なかった。
美声年、いや美青年というべきなのだと思う。
朝日に照らし出された彼は――――。
怖いほどに綺麗だった。
血色が良いとは言えない白い肌。
形の良い鼻と唇。
唇は少し切れたのだろうか?薄めの唇には少しだけ血が滲んでいる。
だが、それも又。
彼の魅力を引き立てている要因に過ぎない。
少しクセのある銀色の髪を彼は煩わしそうに軽くかき上げる。
髪を上げ、現れたのは少し神経質そうな細い眉。
何よりも目を惹かれたのはその瞳。
長い睫毛に縁取られたアーモンド形のその瞳は、
血の様な――――紅色。
全ての色素が薄いのに、深く紅い瞳だけはやたらと主張していた。
朝日で反射した朝露がキラキラと乱反射し彼の姿を更に引き立てている。
単純に全てが綺麗だと思った。
心臓が、高鳴る―――。
トクンッ……
けど、この人には朝日よりも夜の光のが似合うと思う。
私の心臓、静かにして―――。
トクンッ…トクンッ…
そう、怪しく危険な香りのする月の光の方が彼には合っている。私の好きな悪役美男子系。
彼をこれ以上見てはいけない。
美しい声に騙されてはいけない。
その魅了するような容姿に騙されるな。
きっと、期待外れだから。
期待した分だけ、傷つくから……。
嘘、自分が嫌いになりそうだから………。
今も、駄目だって心の奥で言ってるのに。
ドクン……
やめて……やめて!
もう見たくないのっ!!
カシャッ―。
不意なシャッター音に開きかけた蓋を瀬奈は慌てて閉めた。
頑丈にグルグルに巻いてから、また記憶の底に沈める。
「………リアム様?」
「ああ、何だ?」
リアムは色々な場所に携帯を向けて写真を撮っていた。勿論、瀬奈の方に向けても撮っている。
「何をやっているのです?」
「写真とやらを撮っている」
「………だからってそんなに何枚も撮らないで下さいよ。メモリーがいっぱいになるじゃないですか」
「メモリー?」
「そうです。写した写真を現像する場所がないのでこれ以上は撮らないで下さい」
瀬奈はリアムから携帯を奪い返し、さっさと鞄の中へとしまった。
「メモリー……現像……」
何かぶつぶつと言っているが無視だ。それよりも先程から気になっている事を聞いてみた。
「リアム様の髪色は本当は銀色ですか?」
「そうだが、それがどうした」
「いえ、ただ気になったので」
やっぱり、と瀬奈は思った。確かネル君の授業で騎士団の名前は団長によって少し変わると習った。黒の騎士団なら〈黒狼〉、赤の騎士団なら〈赤薔薇〉と言った呼び名が付く。もちろん白の騎士団も〈白銀〉なんて呼ばれているのはリアム様が青みの強い紫色の髪をしているからなのだと思ったが、銀髪だったからだと納得した。
「そうだ、セナ。君にも一応言っておく。近いうちに私の屋敷内に居候が増える、アレも一応成人男性なので、くれぐれも前回の様な格好で屋敷内を彷徨かないようにな」
一瞬何の事を言っているのか分からずに、瀬奈はポカンとした顔をした後に何について言っているのか思い出した。ネル君の薬湯を被った時の事を言っているのだ。
瀬奈の顔は見る見る赤くなっていく。
「あっ、あれは不可抗力です!服がなくてたまたまあの格好をしていただけですから!普段からアレで歩いてません!!」
「それはどうだか……君は変態のうえに痴女の露出狂なのだと思っていたが違うのか?」
心底不思議そうな顔で言ってのけるリアム様の顔面を殴ってやりたい衝動に駆られるがここは我慢だ。
「露出狂ではありません!!」
「他は合っていると言うことか。嘆かわしい」
「痴女でもありません!!」
そう否定はするが、リアムは呆れた顔で手でもういいとストップをかける。
「私は君の趣味嗜好に興味はないから周りに迷惑をかける事なく楽しんでくれ」
「なっ……」
わなわなと震えるとはこう言う事か!と思いつつ黙っておく。ここで更に否定した所で信じてもらえそうにないからだ。
怒りに震えていれば、連発して上がる花火はもう終盤に差し掛かりつつあった。
一際大きな花火が空に上がる。
キラキラと降り注ぐ花火の欠片が商業地区を覆うよに落ちてくる。
「そろそろアヴィを回収して屋敷に戻るが、君は何も買わないのか?」
「はい、もういっぱい頂いたので」
「そうか、では行くぞ」
異世界横丁で買い食いしていたアヴィを回収し、仮面をつけ忘れたリアム様は駆けつけた白の騎士団の方達に連行された。リアムと一緒にいた瀬奈に最初は驚いたものの、リアム共々馬車に押し込まれ屋敷へと帰路についた。
案の定、アヴィはネルファデスに怒られ。リアム様は騎士団本部からの緊急の呼び出しでまた屋敷を後にした。
ほんの少しイレギュラーな事もあったけど、いつもと変わらない日常に瀬奈は安堵し布団に潜り込み眠りにつく。




