イケメンはごめんなさい!! 41
キュルキュルキュルキュル〜
「………」
ジュルジュルジュルジュル〜
「……………」
「お客さん……どうします?買うんです?」
「……頂こうかしら」
「数は?」
「一本……いえ、5本下さい」
「まいど〜」
瀬奈の目の前で竹串に刺さった肉がジュージューと良い音で焼かれていく。
「味は?塩?タレ?」
「……タレで」
屋台のおじさんは軽く肉を焼いた後、それを特製ダレの入った壺に一度浸したあと紙の袋にいれて瀬奈へと渡した。
「はい、お釣りね〜また宜しく」
渡された硬貨を財布代わりの袋に入れ、熱々出来たての入った『焼き鳥』と書かれた紙の袋はそまま横で涎を垂らしているアヴィにスライドする。
「おおっ!!こ、これが『焼き鳥』ですか!!名前はちょっとアレですがとても美味しそうです!」
アヴィは受け取ると早速『ネギマ』を一本取り出しカブリついた。
「うっ!うーーー!」
目をキラキラさせて叫んでいるので、たぶん『うっ!美味いー!』と言っているのだろう。先程からこの『異世界横丁』に入ってからアヴィの台詞は全部これだ。
「うんうん、美味しかったのね。それは良かったわー」
瀬奈の疲れきった目が天を仰ぐ。空には輝く星がちらほらと見えていた。時間はまだ夜の七時くらいそれでも空はまだ少し明るい。この明るさがそろそろ夏が来るんだなと思わせる。
「セナ様!セナ様!あれは!あのふわふわのモコモコしたヤツは何ですか!!」
次はどうやら『綿菓子』に目を付けた様だ。アヴィのお尻にはパタパタと振るあるはずのない尻尾が見える。
「それは綿菓子って言って……あっ……もう!!」
アヴィは人混みを掻き分け一直線に綿菓子と掲げられた的屋に向かって行ってしまった。
『異世界横丁』とは、元異世界人の人達が集まって出来た露店街。こう言った祭り事になると何処からともなく現れて、昔懐かしの的屋を出して楽しませているらしい。
「万屋さんと言い、異世界横丁と言い皆どこからともなく現れてくるのね」
瀬奈はふぅーと一息し、アヴィの向かった先に足を進めた。
「どいて!どいてー!!お医者様が通るよー!!」
歩き出してすぐ、人混みを掻き分けるように真っ白な白衣に希少な瓶底眼鏡をかけた人が屈強な男達に担がれ走っていった。
「……昭和時代のお医者さんかな?」
なんて見ていたら、流れる人混みに飲まれ押されて遂には誰かにぶつかった。
「痛っ!!……ごめんなさい!」
随分と硬い何かにぶつかったが瀬奈はとりあえず相手に謝っておいた。頭を下げてアヴィの元に向かおうとするが。
「あなたは……リアム様の所の」
「えっ?」
見上げると、精悍な顔立ちに褐色の肌、2メートルくらいありそうな長身に頭の先から足の先まで黒色。それに加え革の胸当てには狼の刻印の入ったその人は以前出会った黒の騎士団の人だった。
「あっ、確か団長さん?って呼ばれてた……」
以前、暴漢をレイズが捕まえた時に他の人がそう呼んでいた気がする。
「いえ、自分は黒の騎士団副団長を務めるユリウス・ラシッドと申します。あなたはリアム様のところの……失礼、お名前は何でしょう」
人混みの中、良く通る低い声。その高い身長だけでも威圧感を与えそうなのに意外な程優しい声質に思わず顔をまじまじと見てしまった。
「…あの、自分の顔に何か?」
「あっ、ごめんなさい。なんでもないです。私は紅野瀬奈、今はリアム様のお屋敷でお世話になっています」
名前を名乗りお辞儀をすると、頭上から『噂の……』と言う言葉が聞こえた。
(ん?噂の?えっ?噂の何!)
顔には出さず、ゆっくりと顔をあげる。
「何か?」
「あっ、いやなんでも。コホン、セナ殿は何故こんな所で1人なのです?異世界横丁であるとはいえ女性の1人歩きは危険ですよ」
「いえ、1人じゃないんです。あそこに……」
先にある綿菓子屋の方を指差せばそこにいるはずのアヴィの姿が見当たらない。
「……居ない」
「どうされました?」
「一緒に来ていた子が居なくて……」
「迷子ですか?自分が一緒に探しますよ。どちらに行ったか分かりますか?」
「多分、もっと奥に行ったんだと思います」
「分かりました、どんな風貌の方でしょうか?」
「えっと、灰色と茶色のツートンカラーの髪色に頭の両サイドにクルンとした寝癖みたいな髪が特徴的な執事服を着た男の子です」
「灰色と茶色の……分かりました。それでは行きましょう」
ユリウスは少し考えた後、アヴィを探す為瀬奈と共に歩きだした。
***
裏路地のある一角のある家で、女性の啜り泣く声が聞こえてくる。薄暗い部屋には女性と白衣を着た男性、それにベッドに横たわる痩せ細った子供が苦しそうに息をしていた。
「先生!息子は!息子は助かるんですか!!」
一通り検査が終わり、道具を古めかしい黒のがま口鞄へと収納した。
「残念ですが……あまり良くないですね。覚悟はしておいた方が」
先生と呼ばれた男は悲壮感漂う面差しのままベッドで眠る子供を見る。
「そんなっ!!何で息子がこんなっ…先生!先生なら何とか出来るんですよね!噂は聞いておりますわよ先生なら――って!!」
家の外ではドンッと響く様な音と空を照らす光が一瞬弾けるように家々の間から見えていた。
「私にそんな大それた事など出来ませんよ」
男の瓶底の様な眼鏡には遠くの空を覆う花火が映っている。今日は感謝祭最終日で色々な人種が商業地区には集まっていた。
「お願いです!先生!どうか息子を!!息子を助けて下さい!!お金でも何でも出しますから!!」
女性は男の足元にしがみつき訴えた。お金ならいくらでもある。その他宝石や土地だってくれてやろう。だから息子だけは助けてと願う女性を男は鼻で笑った。
「お金はいりません。ただ……」
もったいぶるように男は自分の足元にしがみつく女性と視線を合わせるように屈むと。
「お金より欲しい物があるんですよ」
「なっ!何でしょう!私に言って下されば何でも用意致します!!」
「ほう、良いんですか?」
「ええ!息子が治るならなんだって言って下さい!!」
女のその言葉を聞いて男はニヤリと口元を緩めた。
「それは助かります。つい先日、入荷先でトラブルがありましてね私も少々困っていたのですよ。それを貴方が仕入れて下さるなら……貴方の息子さんは助かりますよ」
「本当に?それは本当ですか?息子が助かる?」
「ええ、貴方が約束を守って下さるならね」
男は嬉しさのあまり泣き崩れる女を尻目に、窓の外で空に上がる花火を眺めながら喉の奥でクックックと笑った。
この、喉の渇きが潤うなら今はなんだって良い。ただ、たまには変わった物も飲んでみたいと思った。ここに来る途中、異世界横丁と言う場所を通ったが中々面白いのが数人。
「楽しみだな〜」
***
「あっ!アヴィ君!!」
随分と探し周り、やっと見つけたアヴィは誰かと話していた。人混みを掻き分け瀬奈が辿りついた頃にはその相手の正体に直ぐに気づく。有り難い事にあの猫の仮面を付けてはいるが、醸し出すオーラは残念ながら隠せていなかった。
「と、………リアム様」
「セナ様!今まで何処にいたんですか!?」
トコトコと走り寄って来るアヴィの手にはさっきまで無かった物が幾つか。お土産だろうか?
「アヴィ君こそ何処に行ってたのよ!探したじゃない!」
そんな2人のやり取りを他所に、リアムは瀬奈を連れてきたユリウスの方に身体を向けた。
「私の使用人がいながら君に迷惑をかけてしまったようだ。すまない」
「……滅相もございません」
ユリウスは上官に対する礼で対応する。
「君も巡回は程々にして、祭りを楽しみなさい」
「はい」
リアムはそう言って、2人の元へと歩いて行く。その間、ユリウスは一度も視線を上げることなくその場を後にした。
3人から距離を取り、ユリウスはやっと大きく息を吸う。自分達を見ていた目はいつの間にかいなくなっていた。
あの『紅野瀬奈』と言う人物に話かけた瞬間から、自分達。主に自分に対しての監視の目が向けられていた、多分あの青年だろう。以前、リアム様の屋敷に行った時と同じだったから間違いない。
それに、あのリアム様の仮面は一体なんだったのだろう?ツゥーと背中を汗が流れる。
「もう少し巡回をしてから戻るか」
ユリウスは人混みの波の反対方向へと歩き出す。身長もあり体格も良いので波はユリウスを避けるように流れていく。




