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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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43/61

イケメンはごめんなさい!! 38

「………………」

「………………」

「………………」

「………ねぇ、()()どうしたの?」

 颯人が差す()()とは瀬奈の事である。

「………僕にも分かりかねます」

 ネルファデスは『それでは、セナ様を宜しくお願いします』と言い残し、屋敷に帰っていった。

「あっ!!おいっ!………ったく、どうすんだよ。こんな状態の瀬奈ちゃん置いてかれてもさぁ〜」

 少し寝癖のついた頭をポリポリと掻きながら茫然自失、口から魂が出かかってるいるが辛うじて踏みとどまっている状態の瀬奈を颯人はどうしたもんかと眺めた。

「………う〜ん。とりあえず何でそうなったのか良く分からないし、俺、畑に水あげてくるから宜しく()()()

 颯人は裏へ続く扉へ。

「私は開店の準備をしよう」

 リーフは『Open』と描かれた看板を持って外へ。

「………今日は教室の日だから掃除してくる」

 エバーは箒と塵取りを持って隣の作業部屋へ。

 残されたシャルの首には青白い顔で幽霊も驚いて逃げ出すんじゃないか?と、言う形相で瀬奈が巻き付いている。

「皆酷いよ!普段そんな事しないじゃん!!いつも僕に押し付けるくせにこんな時ばっかりっっ!!」

 そう叫ぶシャルの頬にヒヤリとした冷たい手が触れる。

「ヒィ!!」

「………しお……私に………いや……」

「えっ?塩?」

 ブツブツと焦点の合ってない目がどこか空中を彷徨っている。今日日(きょうび)、女性の顔でこんな恐怖を感じるとは思わなかったシャルはドキドキと鳴り響く心臓と、冷や汗が背中をツゥーと流れる。

「違うの………」

「違う?じゃぁ一体何を……」

 彷徨っていた目は突然、ギョロリと回りシャルを凝視する。

「………っ、っ。セッ、セナ?」

(こっ、怖すぎるって!!)

 互いの目玉がくっ付くくらいの至近距離で瀬奈は。


「私、死んだの」


「キャァぁぁぁぁぁ………」

 店中に響くシャルの叫び声と何かが倒れ込む音。それを聴いた3人は。


「「「シャルよ、安らかに」」」






 リアム邸。

 ベルフルールでそんな事が起きているとはつゆ知らず、ネルファデスが屋敷に戻るやいなや。アヴィが屋敷から走り寄って来る。

「アヴィ?どうしたんです?」

「ネル様、お帰りなさい。セナ様の事さっき鳥達に聴いたんですけど実は……」

 ネルファデスは馬車から降り、御者席に座っている小鬼に合図を送る。小鬼はコクリと頷きガラガラと馬車は厩へと走り去った。

「それで、何がどうなってあんな状態に?」

「はい、僕が聴いた話では……リアム様が」

「リアム様?」

 ここのところ忙しく滅多に屋敷に戻って来れない屋敷主人のリアム。ちゃんと食事は取っているのだろうか?またいつもみたいに適当にお茶だけで済ましている気がするが、それは帰って来てから確認しよう。今は瀬奈の事だ。

「はい、リアム様がセナ様の大事な物を落としたみたいで……」



 ***



 今日も日課のランニング。

 最近は少し雨の日も続く様になってきた。颯人さん曰く、この世界にも『梅雨』ぽい時期が存在するらしい。

「ジメジメするのはそのせいね……」

 気温が上がり、湿った空気が肌に纏わりつく。程よく汗をかいた所で瀬奈は湖の側に座りぼんやりと緩やかな波紋を描き出す湖を眺めていた。

 颯人さんの話によると『万屋』は神出鬼没らしい、ただこの時期。感謝祭のこの人が集まる時期にやって来る事が多いと言っていた。颯人さん自身も一度しか入った事しかないが、店内には私達の世界にあった物がひしめく様に置いてあるそうだ。私の探し求めている物も多分()()にあるだろうとも。

「……絶対、か」

 絶対と付くのは万屋の別名を『欲しい物が必ず見つかる店』として知られているとかいないとか、聞く限りでは怪しさ満点しかないのだが実際に見てみない事には何も言えない。

 それよりも、当面の間は癒し時間を短くするしか無さそうだ。保存された動画を堪能し、充電もフルチャージした所で瀬奈は背後に立つ妙な気配に気がついた。

「うわぁ!誰!!」

 慌てて振り返り、そして不吉な音も同時にする。

 背後にはこれまた神出鬼没な美しい魔王の様なリアム様。そして、右手に持っていた充電器はと言うと。ぶくぶくと湖の底に沈んで行く。

「あっ…………」

 伸ばした手は届かない。

「どうした?」

 相変わらずの低音で響くリアムの美麗なボイスに耳が溶けそうになるが、瀬奈はキッとリアムを睨み上げた。

「馬鹿ーーーー!!」

 そう言い、瞳には涙を浮かべて走り去る瀬奈の姿が目撃された。



 そんな一部始終の報告を聞いたネルファデスには珍しく、眉間に皺を寄せ目頭を押さえる。

「成る程……そんな事が……」

 ベルフルールへと向かう際、いつもなら時間にはやって来るはずの瀬奈が現れず部屋に向かったネルファデス。

 そこには布団の中で引きこもっていた瀬奈、ネルファデスを見るや否や首に巻き付いて離れず、挙句の果てには顔の真横で凝視し続ける所業になんの罰ゲームかなと思う程だった。

 とりあえずベルフルールに連れて行った所、丁度ハーフエルフの3人も到着した所だった。瀬奈はスルリとネルファデスを解放すると、3人の内の1人に取り憑き。

『それでは、セナ様を宜しくお願いします』と、言って帰って来たのだが。

「問題は……帰る時ですね……」

 さてさてどうやって連れて帰って来るべきか?ネルファデスがうんうんと悩んでいるその横で、アヴィは疑問をぶつけた。

「あの、他の3人には何故取り憑かなかったんでしょう?」

 シャルの他にあの場には、リーフとエバーは勿論ベルフルールの店主である颯人もいた。けれど、瀬奈は迷う事なくシャルを目指して取り憑いた。ネルファデスは考える。あの場で1番求められる物を。

「…………癒しが足りない?からでしょうね」

 自分でも何を言っているのだろう?と思うが、多分あの中で瀬奈にとっての1番の癒しはシャルなのだ。だから一目散に目指し取り憑いた。

「…………ちょっとだけ、妬けますね」

 首元をさすり少しだけ寂しそうに笑うと、2人は本日の業務へと頭を切り替える。


 夕方、鐘がなる頃。

 ベルフルールへと瀬奈を迎えに行ったネルファデスは首を傾げた。

「……………」

「……………」

「……………」

「………何かありました?」

 ネルファデスはリーフに聞く。

「私にも良く分からない。颯人が迎えに行って帰って来たら既にこの状態だったから詳しい事は颯人に」

 リーフに振られた颯人は一瞬だけビクッとしたが、すぐにいつもの軽い表情と口調で。

「俺も分かんないかな〜、畑で取れた野菜をご近所さん宅に届けてもらってたんだけど中々帰って来ないから、迎えに出たその時にはもう」

 こんな感じです!と、肩をすくめてみせた。たが、サングラスの奥の瞳は随分と正直に泳いでいる。

「………………まぁ、ここで問答しててもしょうがないでしょうし、後日何があったか確認させてもらいます。セナ様の機嫌が浮上しているなら今が帰り時ですので失礼します」

 当の本人は、猫の形の硝子細工を熱心に見つめている。それも熱すぎる視線で。

「ああ、その方がいい。気をつけて」

「………もう1人の方は?」

 この場には、颯人、リーフとエバーのみ。

「……ん?ああ〜気にしないでやってくれ」

「そうですか……それでは、失礼します」

 ネルファデスは頭の中が猫畑になっている瀬奈に声をかけ店を後にした。

「シャルの様子は?」

 颯人は2階で寝ているであろうシャルの様子をリーフに聞く。

「………体は大丈夫ですよ。少し頭を打っただけなので、それよりも心の方ですね」

 心の方。つまりはプライドの問題だろう。なんせ怖すぎてひっくり返って頭を打つとか少し可哀想な気もするが、本人にとっては恥ずかしくて誰にも会いたくないだろう。

「それより、外で何かあったんですか?」

 先程のネルファデスと同じ質問をする。

「……多分、レイズに会ったんだろ」

 瀬奈を迎えに行った時、遠目だが人混みの中あの派手な赤い髪と耳が見えた。それに瀬奈の周りには護衛兼監視の目が何処かに居るはずだから、あの執事にもすぐにバレるだろう。

「成る程、レイズですか……」

 しんみりとした空気を払うように颯人は大きな欠伸をし身体をポキポキさせ。

「さっ、お前らもそろそろ迎えの馬車が来るだろ?今年の感謝祭は少し忙しくなりそうだから、今のうちに休んどけよ?」

「私達も手伝うの?」

 リーフはキョトンとした顔で颯人を見る。

「当たり前だろ!3人分の食費どれだけかかってると思ってんの?」

 ビシッと指を鼻先に突き出されリーフは無言でその指先を払い落とした。

「エバー、迎え来たみたいだからシャルを呼んで来てもらえる?」

 エバーはコクリと頷き2階の颯人の部屋へ。

 リーフは店の正面に立ててあった看板を室内へと終う。

「じゃ、またね颯人」

 無言で無の表情をしたシャルを抱えてハーフエルフ達はさっさと帰っていった。パタリと閉められた扉に颯人はガックと肩を落とし。

「………もっと、頑張って働くかぁ〜」

 こうしてベルフルールの店の電気は消え、2階の颯人の部屋には真夜中であっても煌々と明かりが灯るのであった。

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