イケメンはごめんなさい!! 37
今日の天気もあいにくの曇り空。
自室の窓から瀬奈は恨めしそうに外の様子を眺めていた。それもそのはず、ここ何日かはずっとこんな空模様なのだ。
「………こんな日もあるわよね」
お天道様が毎日出ているとは限らない。それが自然と言う物だと理解はしている。
が、太陽光以外の方法がない今は瀬奈にとっては死活問題だ。
「あっ!ネル君のお迎え」
本邸のお屋敷からこちら、使用人屋敷の方に歩いてくるネルファデスを窓の外に見つけた瀬奈は急いで準備する。
もちろん今日も『ベルフルール』に向かう予定だ。
「………お天道様!!お願いします!」
窓際に置かれた机の上にはソーラーパネル付きの充電器。それに向かって両手を合わせる。
「……………………よしっ!!」
ありったけの願いを込めてから瀬奈は部屋を後にした。
けれど、お店から帰って来た瀬奈は絶望する。
ガターン。
コロコロコロコロ……。
雷にでも打たれたかの様に、瀬奈はその場に崩れ落ちた。
「えっ?何で?何で充電出来てないの?」
瀬奈は窓の外の空を見上げる、空模様は朝とは変わり星の輝きが良く見える程澄んだ空模様へと変わっていた。
「ふぇ?……何で何で?」
充電器の残量ボタンを押してみても、残りの残量のパーセンテージは“0”のまま。
「だって今日、午後は晴れたじゃない!!」
そう、瀬奈の言う通り今日の午後は少し動けば汗がじんわりと滲み出る様な天気になった。だから今日は、タップリと充電出来ているはずだとワクワクしながら帰ってきたのだが。
「…………グスン」
予想外の裏切りに涙が思わず出てしまいそうになった。もう一つの方はまだ半分以上残っているが、天気次第ではこのまま尽きてしまうかもしれない。そんな思いのままベッドに倒れこむ。
フカフカのベッドは倒れこんだ瀬奈の身体を優しく包み込む、そして暖かい。
枕に顔を埋め、ひとしきり唸った瀬奈はゴロンと仰向けになり充電器を眺めた。
「…………やっぱり、駄目だったか」
パタリと力なくベッドに落ちた手の中の充電器には、小さいけれど亀裂が走っている。あの日、店で落とした時に割れたのだ。
「はぁぁ〜…………」
瀬奈は長い溜息を吐く。
静かな部屋には、瀬奈の呼吸音と部屋を照らすランプに『ベルフルール』で最初に買ったランプシェード。
他のランプとは違い、淡い色合いのランプシェードから溢れる光に瀬奈の心は少しずつ落ち着いていく。
心を落ち着かせる為の焚き火やリラクゼーション等の動画を昔、良く見かけた。その中の1つでロウソクの炎と言うのがあった、直接炎を目で見るのは目が悪くなるので間接的に見る為にランプシェードをかけた。葉の形に彫られた模様が揺らめく炎によってまるで風に揺られている様に動いている。
「………別の方法がないか考えよう!!」
ヨシっ!と、勢いよくベッドから飛び降り夕食を食べる為に食堂に行こうと歩き出す。そして、何かを踏んだ。
「あっ……」
しまった!と思った時には既に天井を眺めていた。足元にはコロコロと転がるオレンジ。
「さっき部屋に入った時、落としたのを忘れてた………」
強く打った頭をさすり、転がったオレンジを拾い集め紙袋に入れる。今日、ベルフルールの近所の人がお裾分けしてくれた物だ。
翌朝。
「おや?セナ様。今日は髪を上げないのですか?」
ネルファデスはいつもと違う瀬奈の髪型に、何故?と聞いた。
「あ〜うんと、気分転換?かな?あはは」
とりあえず笑って誤魔化してみる。
「気分転換、ですか」
「そうそう!たまには下ろしてるのも良いかな〜って」
本日は緩く編んでサイドに垂らしている。
「に、似合ってるかな?」
「ええ、似合っておりますよ」
「そっ、そか〜良かった〜(棒)」
「それでは、時間なので行きましょうか。今日は鬼達が別件で居りませんので僕がお送りしますね」
「うん、今日もお願いします」
終始挙動不審な瀬奈を馬車に乗せベルフルールへと旅立った。
「それでは、また夕刻の鐘が鳴る頃に迎えにあがります」
と、言って帰っていくネルファデスを見送った後。ベルフルール2階から降りてくる足音が1つ。
「おはよー瀬奈ちゃん。今日も早いねー……ふぁぁっ〜〜」
欠伸を隠す事なく現れたのは言うまでもなく店主の颯人さんだ。
「おはようございます。今日も徹やぁ……!!」
瀬奈が挨拶を言い終わる前に颯人の手が瀬奈の頭に乗せられた。その瞬間、激痛が瀬奈を襲う。
「???!ど、どうした?」
颯人の頭ポンポン。すっかり忘れてた……。瀬奈は激痛に涙を浮かべ。
「何でも、ないですっ!!」
「いや、それは無理でしょ」
苦笑いで颯人はそう言った。
「セナ〜大丈夫?まだ痛む〜?」
シャルが心配そうに新しいタオルを瀬奈の後頭部に置いた。代わりに温くなったタオルを受け取り、水の張った洗面器に浸ける。
「うん、ありがとう〜シャル」
「僕、新しい水と取り替えてくるね」
パタパタと走り去る音を聞きながら、瀬奈は後頭部に置かれた冷たいタオルに感謝する。
「で?何でそんな所にタンコブなんて作ってるわけ?」
2階、作品部屋の机の上に頭を伏せたままの瀬奈と真新しい傷をこさえた颯人が狭い机の上で向かい合わせで座っていた。もちろん颯人の傷はハーフエルフ達の攻撃によるもので、あの後3人も店にやって来た所、涙を浮かべる私と颯人さんを目撃した為に出来たものだ。ごめんなさい颯人さん。心の中でもう一度謝っておく。
「ウッ……昨日……落ちてたオレンジに気づかなくて……それで」
そのまま後ろに倒れて後頭部にタンコブとか恥ずかしいっ!!そう、本日の髪型の理由はタンコブが出来ていていつもみたいにアップで結べなかっただけである。
何故タンコブが?と聞かれたらそこに至るまでの経緯を説明しなければならない。
それが恥ずかしくて黙っていたのだが。
「うん?」
促さられるような相槌に、瀬奈は事の経緯を話すしかなかった。話を聞き終わると颯人は組んでいた腕を解き納得したような表情で顎先を指に乗せた。
「成る程ね〜、最近ちょっとソワソワしてたのはそう言うことだったのか〜」
ギシリと椅子の軋む音が静かな部屋に響く、下の階では微かにハーフエルフ達の声が聞こえて来る。どうやら接客中の様だ。
「そう言えば、この商業地区で“万屋”ってお店があるんだけど」
唐突に話始めた颯人の話に耳を傾ける。
「その店、常在店じゃなくてさ時々ふら〜とやってきて店を構えてまた少ししたらいつの間にか居なくなってるんだけど……」
瀬奈の頭の上方、つまりは瀬奈の正面なのだが颯人が机に肘を付く気配がした。
「聞きたい?」
「えっ?ああ、えっと……聞きたいです」
本当はどうでも良いかなとは思っている。後頭部の鈍痛が地味に痛いのだ。
「……はい、嘘」
颯人の指が瀬奈の頭のつむじを突く。
「は、颯人さん?」
「俺ね、……嘘を見抜く能力があるんだ」
「???嘘、ですか?」
「そっ?嘘を見抜く能力。瀬奈ちゃん今、どうでも良いって思ったでしょ?」
瀬奈は一瞬ギクっとしたが、次の颯人の言葉でそれどころではなくなった。
「俺も、一度しか入った事がないけど。万屋には俺達のいた世界の物が置いてあったよ」
瀬奈はガバリと頭を上げた。
「おっと、と」
「本当ですか!それ!」
意外な程近くにあった颯人の顔にびっくりしつつもその話は是非とも詳しく知りたい。
「うん、本当。聞きたくなっちゃった?」
「はいっ!!」
先程とは打って変わって元気に返事を返す瀬奈に颯人は笑みを浮かべた。
「……今度は本音だね」
ずいっと颯人は顔を近づけて瀬奈を見て笑う。サングラスの向こう側の瞳は相変わらず隈が出来ていて眠そうで疲れている。
だが、その瞳は不思議な色味を帯びドキッとする様な色気を醸し出していた。
(あっ、ちょっと危ないかも……)
「あれ?ちょっと顔赤くなってるけど大丈夫?」
颯人さんの長い指が、瀬奈の前髪をスルリと掻き分け額に触れる。
「だっ、大丈夫で」
徐々に迫ってくる颯人の顔から視線を逸らせる事が出来ない。
(だっ!……)
「だめっー!!」
瀬奈の叫びに被る様に聞こえた別の声と、間から生えた手が2人の接近を阻止する。
「馬鹿人は離れて!!」
「ばっ、馬鹿人だと?」
シャルの手がぎゅうぎゅうと颯人の顔を押し除けている。これでもか!と、言うくらいに力を込めているのか顔が……。
「………クスっ」
「あっ!!今、俺の顔見て笑ったでしょ!酷い!酷いよ瀬奈ちゃんっ!!」
「うるさい馬鹿人!!セナ行くよ!!こんな所に居たら治るモノも治らないから」
シャルは瀬奈の手を引きさっさと部屋を出て他の2人がいる下の階へと移動してきた、その際に颯人の事を2人に告げ口していたのは言うまでもない。
「でも……」
瀬奈は2階へと続く階段を見上げながら部屋から出る時に見た颯人を思い出す。瀬奈が見ている事に気づいた颯人は『俺、今から寝るからその後で良いなら聞きにおいで』と、声ではなくジェスチャーではあったがあれはそう言う意味だったと思う。
「ねぇ、セナ。リーフの魔法で治してもらったら?」
服の裾を引っ張られ、瀬奈はシャルの方へ顔を向けた。
「……ごめんね。治癒魔法はまだ私に魔力の抗体がないから駄目だってネル君に言われてるの」
「えっ?そうなの?それじゃ〜しょうがないね」
じゃあさ、と次の案を他の2人と出し合っている様子を横目に瀬奈はカウンターに置かれた時計に視線を向けた。
(颯人さん、何時に起きるんだろ……)




