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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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39/61

イケメンはごめんなさい!! 34

 敷地内であれば自由に行動する事を許されて数日。瀬奈の希望で本邸の客室から使用人屋敷の部屋へと、居住空間を移した。

 ネル君は『まだ、身体の方も完全完治していませんし遠慮なさらず使って頂いても良いんですよ』と、言われたが。

 瀬奈は丁重に断った。何故ならもう怪我人でも客人でもなくなるのだから、これ以上はお世話になるわけにはいかない。

 ネル君だって、幼いながらも執事と言う役職に付いていて本来なら私の世話をしている場合ではないと思う。本当なら屋敷を出て、助けてくれた恩を返したい所だがそれは無理なのだと分かっていた。

 なんの為の『異世界人の保護契約』なのかを考えれば分かる事。ここで無理に外に出ようものならただの自殺行為に過ぎないことは、瀬奈の頭でも理解していた。

 だからと言って、何もしないのは性に合わないので使用人屋敷に移動してきたのだ。

 そして。

「お願いですからそのような、その様なことはお辞め下さいませセナ様!!」

 数人のメイド達に泣きつかれる様に止められてしまった。

「掃除等は私達の仕事ですから、セナ様はネル様との勉強を」

「ネル君との勉強の時間まではまだ時間があるわ、部屋でじっとしていたら気が滅入ってしまいそうだし。恩返しも兼ねてやらせて欲しいのだけど………」

 本音は部屋で充電している間、読書と勉強以外に気分転換も兼ねて鈍った身体を動かしたいと言う下心もある。

「ですが……」

 困った様な態度と、時々目配せを繰り返しているメイド達の様子を見て、瀬奈も困ってしまう。リアム邸では人手が少ないとネル君から聞いていた。だから、メイドではなく執事のネル君が私の看病をしているのだと思っていたけど……この様子を見るに他にも理由がありそうだ。

「分かったわ、貴方達を困らせたい訳じゃないもの。けど、私の部屋のゴミ箱と一緒にこのゴミ箱も運ぶくらいは良いかしら?」

 自分の部屋の掃除の際に出たゴミと一緒に今しがた掃除で出たゴミ箱を両手でかかえ、使用人屋敷の裏手へと回る。

 そこには、小さな焼却炉と洗濯場、まだ真新しい薪等が積み上がっていた。

 そして手入れされた畑が幾つか並び、近くには少し寂れた円形の建物も見える。

(私がいた世界と同じ様な野菜ばっかり……。あっ、これはえんどう豆?こっちには、ブルーベリー?)

 もの珍しい物ではないが、見慣れた野菜や果物についつい顔が綻ぶ。この世界に来てまだ一月程だと言うのに懐かしいと思ってしまうのは、ホームシックの為だろうか?

 それともただの寂しさからくるものなのだろうか?

 瀬奈は、ゴウゴウと音をたてて燃え盛る焼却炉の中にゴミを入れその燃える様子をなんとなく見ていた。

(……そう言えば、私一度も元の世界に戻りたいって思ったことなかったな。家族間はどちらかと言えば良好だったし、仲の良い友人もいるし、観たい動画もゲームも本もあってあの日帰ってからだって“よしっ!!今回のイベント頑張るぞ!”って思っていたはずなのに……なんでだろう?心残りがあるとすればあの声優さん達(きらめきボイス)がリアルタイムで聴けないことが、1番の心残りだなんて、実は私ってば薄情者なのかも?)

 そんな事を考えていたら焼却炉の中のゴミがパチっと爆ぜた。その拍子に顔に熱いモノが掠っていく。

「あっ、ぶなぁ〜い」

 瀬奈は慌てて焼却炉の小窓を閉める。そして、綺麗に並んだ畑の更にその奥に目をやった。

 奥は少し高台になっていて、その高台の向こう側には生い茂った樹々の頭が見えている。

(リアム様の私室以外は立ち入り禁止にはなってないし、まだ時間もあるし行って見ようかな)

 瀬奈は、ゴミ箱を焼却炉の隣に置き畑の間を縫う様に歩き進めて行く。途中、すっっごく気になる畑が幾つかあったがネル君に聞いてからの方が安全だと確信している。

 だって、何かウネウネと動いていたしね。

 まさかの触手系の植物だとは思っていないけど、念の為許可を取ってからにする。

「さてさて、この先には何があるのかな?」

 高台を登り切るとそこは湖だった。

 それはもう、池と言う広さではなく湖。個人宅に湖。

「…………なんかキラキラしてると思ったら湖だったのね。個人宅の裏手に湖とか……一体ここの敷地はどこまであるの?」

 高台に登っている時、やたらと何か眩しく感じたのはこの湖が太陽光を反射していたせいだったようだ。湖ではあるけれど対岸まではそんなに遠くはない、他に何かないか瀬奈はキョロキョロと周りを見回し石畳で綺麗に舗装された道を見つけた。

「道?」

 その道を目で辿っていく。どうやら、湖を一周しているようなので時間もまだあるし散策がてら歩く事にした。




 ネルファデスは冷たい鉄の工具を持ち、キュッと螺子の締まり具合をチェックする。

 リアム様からの報告で、屋敷内の図書室にある梯子の螺子が外れていたと聞き工具を持ってやって来たのはつい数分前。爵位の割に余り大きくないリアム邸ではあるが主人の意向により図書室は1番広く作ってある、その為屋敷の1番端にあり吹き抜けの2階建構造になっていて使用人でも自由に閲覧、使用出来る様になっていた。自由に使って良いと言われても萎縮してしまう使用人も初めのうちはいたが次第に勉学に励む者等もいたりで、今では皆気軽に利用者をするようになっていた。

 最近では、客人である瀬奈も利用していると言う。

「セナ様は確か……こちらではなく、あちらの司書室に居る事が多いとか」

 ネルファデスは一旦手を止め、視線を司書室の扉へと向けしばし思考を巡らせるが一瞬頭によぎった推測は頭の角へと追いやった。

 ネルファデスは残りの螺子も緩くなっていないか確かめ、そして室内を見回しなんの異常もない事を確認し図書室を後にする。工具を戻し腕時計を見ればもう昼の時間であった。瀬奈への昼食は先日から普通の食事へと切り替わり、部屋に運ぶことがなくなり代わりに屋敷内の使用人屋敷の食堂で食べる事になったのだが、その際ネルファデスも一緒に取ることにしている。

 瀬奈にとって見慣れた食材もあればこちらの世界でしかない変わった食材もあるからだ。危険が伴う……ことは、ないかもしれないが念の為でもある。

「さて、セナ様は今日はどちらにいるんでしょう?」

 最近の傾向では、この時間は司書室で何やら作業をしているようだったが今日は居なかった。そうなるとやはり自室だろうか?そう思い、敷地内にある使用人屋敷に向かうべく玄関ホールへと足を向け扉の前に立った瞬間、バンッと扉が勢いよく開き探していた人物がタイミング良く現れた。

「ああセナ様探しておりました。丁度昼食の時間になりましたので呼びに行こうかと思っていたところで………」

 ネルファデスは正面から漂う異様な熱気に首を傾げ、頭一つ分程背のある瀬奈に目を向け絶句した。

「……っ!な、何があったのですか??!」

 それもそのはず、瀬奈は臨時に与えられた執事服。流石に上着は羽織ってはいないが、その服が上から下までびしょびしょになっていたのだ。しかも、顔は赤く額には膨大な汗が流れ、息はハアハアと少し苦しそうだ。

「あのっ、……高台の、」

 高台?もしかして湖に落ちてしまったのか?それなら全身濡れているのも納得だ。だが、せっかく怪我も治りかけてきたのに次は風邪なんて引かせてしまった日にはリアム様に顔向けが出来ない。

「落ちてしまわれたのですか?」

 ネルファデスは直ぐにタオルと着替えをと言い走り出そうとしたその肩に待ったをかけるように手が置かれた。

「ちがう、違うの……」

「違う?違うとは一体…」

 肩に乗せられた手が少し震えている。湖に落ちたのでなければ一体何が原因なのか、まさか!あり得ないとは思うが屋敷内に侵入者が?

 こんなに震えていると言うことはそう言う事なのでは?

「あっ………」

 瀬奈はそのまま足から崩れる様に座り込んだ。

「セナ様!!大丈夫ですか?!」

「………な、の」

 座り込んだ瀬奈を支える様にネルファデスは「失礼します」と言いながら、瀬奈の脇下へと潜り込む。

 自室はあるがフラフラの病人を歩かせる訳にはいかない、整えたばかりの客室へと連れて行こうとするが瀬奈は抵抗を続けた。

「セナ様、とりあえずあちらのお部屋に」

「……ただ……なの」

 か弱く紡がれる言葉が聞き取れなくて口元まで耳を近付ければ。


「ごめんなさい、ただの筋肉痛なのっ」


「えっ?」

 びっくりしてネルファデスは瀬奈の顔を見る。確かに湖に落ちたにしては水草なども付いては居ない。どちらかと言うと、少し酸っぱい汗独特な匂いが……。

「……ッ。大変失礼しました。まずは風呂場に行きましょう!メイドを直ぐに呼びますので、その後は怪我の具合も見させて頂きますよ!」

「はい、お世話かけます〜」

 ネルファデスの小さな肩を借りながら、プルプルした足で風呂場に辿り着いた瀬奈はそのまま待機していたメイド達に服を剥かれ、頭の先から足の先まで入念に洗われ、先日までお世話になった部屋へと戻された。

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