イケメンはごめんなさい!! 30
「そう思いまして、メイド達から何点か服を提供して頂きました」
「えっ?そうなの?」
ネル君の後ろには色とりどりの服を持ったメイドが2人立っていた。
「あっ、えーとありがとうございます」
私がお礼を述べると2人はコクリとお辞儀をし、手にしていた服をキャスター付きのハンガーラックに掛けていく。手持ちの服を全て掛け終わると2人のメイドは静かに瀬奈の部屋から去って行った。
「さっ、セナ様。どの様な服が良いですか?」
何事も無く次の会話へと続けようとするネル君。だが、私には無理だった。だって気になる。
今のメイドさん達、2人とも覆面だったから。メイド服に覆面、そんな異様な状態をスルー出来るほど私の好奇心は枯れてはいない。
「あの、今のお二人は?」
「メイドですが……ああ、まだちゃんと紹介できていませんでしたね。普段からこちらに出入りしているメイドは分かりますよね?」
「はい…少し年配の女性の方ですよね?」
いつも、ネル君の代わりに薬湯やら食事などを持って来てくれるメイドさんだ。先程のメイドさん達みたいにフリフリのエプロンと覆面は付けていない、至って普通のメイドの中のメイド。髪は薄い茶色に顔には年相応の皺があり落ち着いた雰囲気のメイドさんなのだが一度も話をした事はない。
「彼女はこの屋敷で雇っているメイドです。そして先程の覆面を付けていたメイド達はアンジェリカ…女中頭のメイド達です」
「?」
「アンジェリカはこの屋敷の女中頭として雇っていますが、そのアンジェリカのメイド達が覆面メイド達です」
「??」
「彼女達はアンジェリカの命令でこの屋敷のメイド達と同じ様に生活はしていますが、優先順位が僕達であればリアム様ですが彼女達はアンジェリカなのです。全てをアンジェリカに捧げたアンジェリカの為のメイド達が彼女達なのですよ」
なんか、まだアンジェリカさんって方には会ってないけど教祖様的な人でその信者って認識で良いのかしら?………うん。
「アンジェリカは今、私用で屋敷には居ませんが戻って来ましたらその時は紹介させて頂きますね。さて……では、どの様な服になさいますか?」
時はほんの少し遡る。
「う、う〜〜〜ん」
両手の指を組んで真上に伸びたり、肩を回したり。床で足を広げてペッタリと床に上半身を付ける。
覚醒してから数日、動く様になった体を解すように部屋の中でストレッチをしていた瀬奈の元に珍しい来客が来た。
「あれ………リス?かな」
部屋の中の空気の入れ替えの為、外に続く大きな窓は全開にしている。その窓の向こう側には整えられた庭と深く広い森が広がっていた。
「君は、あの森から来たの?」
瀬奈は目の前のモフモフの小動物に話しかける。茶色の大きな尻尾がフリフリと左右に揺れていた。
つぶらな瞳で辺りをキョロキョロし、ヒクヒクと鼻を動かしている姿はとても愛らしくもあり懐かしさもある。
自分がこちら側に来てどのくらいたったのだろう?ベッドから起き上がれる様になって数日。それを考えると2週間…いや、3週間近くたったかもしれない。
最初の治癒魔法で骨はくっつけてもらった後は自己治癒力を上げる為の薬湯や、魔っサージ?こちらの環境に体が慣れる様に微々たる魔力を自分の体に流してもらい、慣れさせる。私の場合は初日に拒否反応が出てしまった事もあってか、ほんのり体が温かくなる感じの普通のマッサージをしてもらっている様にしか感じないんだけどね。
そんな事を考えていたら、リスがトコトコっと外に走って行く。
「ああっ!小さな癒しが……」
伸ばした手をそのままにパタリと力尽きた。
「足……痺れた……」
長く同じ体勢でいたせいで両足が痺れた。ビリビリとした感覚が両足にあり、今触ったら絶対に叫ぶ自信がある!だから今はっ!
コンコン。
「失礼します、セナさ……ま?」
「あっ……ネル君……」
入って来たのはネルファデス。手にはお盆、その上には怪しげな色の薬湯を乗せて床に転がっている瀬奈を凝視した。
「た、大変です!セナ様!大丈夫ですか?まだ完全に治りきっていないのに無理して倒れられてしまったのですか!」
ネルファデスはお盆をテーブルに置き、倒れている様に見える瀬奈に駆け寄る。
「あっ!ちょ!そこは、駄目ーー!!」
「えっ…」
ネルファデスが両足に触れた瞬間、全身に電気が走った。
「ーーーー!!」
数分後。
「すみません。知らずに僕が触ってしまったから……セナ様がっ!セナ様があんなっ」
クッと何か大事な物でも無くしたような表情で顔を背けるネルファデス。
(やめて!私の何か大切な物が無くなったかの様な表情するのはやめてー!ただ単に、足が痺れて動けなかっただけだから!そんな目で私を見ないでー!!)
「ですが……服も酷い事に……」
しょんぼりとしてしまったネル少年。視線は瀬奈の何色なのかも分からない色になってしまった服。服と言っても、怪我の治療の為に半袖、七分丈のゆったりとしたズボンのまぁいわゆる患者衣を着ていたのだがそれがネルファデスが持って来てくれた薬湯まみれになってしまっていた。
「あはは、しょうがないよ。状況が状況だったし。火傷するような熱さでもなかったし怪我しなかっただけでも良かったーって思わなきゃ」
そう、足の痺れた瀬奈に触ったネルファデスは瀬奈の叫びに驚いて持っていた薬湯を頭からぶっかけてしまったのだ。
「………本当に申し訳ありません。替えの服とタオルを持ってまいりますので少しお待ち下さいね」
そう言うと、ネル君は空の容器とお盆を持って部屋から飛び出して行ってしまった。瀬奈はと言うと、少し考えた後。冷たくなってきた服を脱ぎテーブルに置く。患者衣の下は一応下着代わりにタンクトップを着ていたので良いとして下は……。
チラッと汚れたズボンを見て、躊躇なくそれも脱いだ。
「うん、冷たいし。それにネル君はまだ子供だし気にならないよね?いや、子供って言っても10歳くらいだと銭湯とかではもう別々に入らなきゃならない年頃だから気にした方が良いのかしら?でも、お兄ちゃんとか……」
仕方無しとは言え、年頃であろう少年の目に自分のこの今の姿を晒して良いものなのかを考えながら近くにあったタオルで頭を拭く。
「でも、私の記憶がない間はメイドさんかネル君が世話してくれてた訳だし……今更な気も……」
そんな事をブツブツ言いながら頭をゴシゴシと拭いていく。窓が開けっぱなしだった為に暖かい空気が部屋の中を流れて行く。
意外とこんな格好でも平気そうだと思っていたら横から濡れたタオルが差し出された。
「あっ、ありがとう」
それを受け取り顔にこびり付いた薬湯を拭き取る。しかも少し暖かい。以前、居酒屋で見た中年のおじさま達が暖かいおしぼりで顔を拭いているのを見た事があるけど……うん。意外と気持ちいいかもしれない。「プハァー!生き返る!」そんな言葉が出かかるが喉の奥にまだ閉まっておく。ぬくぬくとタオルに顔を埋めていると頭の上にも暖かい濡れタオルが置かれた感覚と共にそのまま丁寧に汚れを取る様に拭われた。
(はぁぁ〜極楽。何故だろう、髪の洗髪て人にやってもらうと気持ちいいよね〜。女の人は丁寧で細かい部分まで気がつくのに対し男の人は良い力加減なのよ。なんならもっと強めにーなんて思ったりする事もあるけど……ネル君って意外と手が大きいんだね!新発見!)
瀬奈の髪にブラシが入り、もう終わりか〜残念!なんて思っていると。
「最後に髪を乾かす風魔法をかけるからちゃんと前を向いていろ」
「へっ?」
思わずそんな気の抜けた言葉が口から出る。何故ならその声はネルファデスの声では無かったから。なんなら耳が喜ぶその声の主が居る事に瀬奈は驚いた。
アレ以来、声はおろか姿も存在も感じなかった屋敷主人の耽美の代表とも言えるリアム様が何故ここに?いままでネル君だと思ってた人物はリアム様だったって事?
振り向きかけたが直ぐに頭を正面へと戻される。
「痛たたっ!そんな無理やり……!!?」
抗議の言葉の途中でブロー並の風で自分の声は聞こえなくなった。
(えっ?えっ?どう言うこと?ネル君は?)
疑問符がいっぱい出つつも今の状況を理解する。
「………っ!!」
状況を理解すると共に、沸々と恥ずかしさが込み上げてくる。
何せ、屋敷の主人に頭を拭かせたあげくに今の自分はほぼ下着状態なのだから。両腕で自分の両脚を抱き込みその足の隙間に頭を埋める。
「……おい、それじゃぁ!!?」
それじゃ髪が乾かせない。そんな台詞が続く筈だったが次の瀬奈の声で消された。
「わぁぁあぁぁぁぁぁぁァァァァ!!!」
後に、何度も奇声とも言える叫び声をあげる瀬奈の記念すべき第一声でもあった。




