イケメンはごめんなさい!! 29
「あっ、またこの天井だ」
目を覚まし何度目かの同じ自分の台詞で、自分が今どんな状況か把握した。
私の覚醒と共に少年の声で話かけられる。
「気がつかれたましたか?セナ様」
緑色の髪をした少年の心配そうな顔が覗き込んできた。
瀬奈は今、ベットに横になっていた。
「あっ……え〜と、ネル君?」
「ええ、執事のネルファデスでございますよ。さっ、体の方は自分で起き上がれますか?私めが必要でしたらお手伝いしますが」
まだまだボーとしている頭で瀬奈は。
「大丈夫、ゆっくりなら起き上がれるから」
そう言いながらも少年ネルファデスに手伝ってもらいながらベットから起き上がる。
起き上がるといっても、横になっていた体が座る体勢になっただけだが今の瀬奈にとってはそれすらも一苦労だった。
「………ふぅ。結局手伝ってもらっちゃったけど、ありがとう。ネル君」
背中に添えられたフカフカのクッションに体を預けながらニコニコとした顔で立つ少年執事に御礼を述べる。
「いえいえ、お気になさらず。薬湯の方をお持ちしたのですがお一人で飲めますか?」
銀の丸盆の上にはドロっとした毒々しいまでの見た目の液体が入った器が乗っていた。
「ええ、やってみるわ」
布団の上に盆を置いたネルファデスは一歩後ろに下がり。そのまま瀬奈の様子を見ていた。
瀬奈は盆に置かれたスプーンを取り、器の中の液体を掬い口元まで持って行くが上手くいかず何度もスプーンをおとしてしまった。そんな様子を見兼ねてネルファデスは。
「………私が。セナ様はじっとしていて下さいね。はい、あ〜ん」
口元に差し出されたスプーンと、大きなまん丸お目目の可愛い少年執事からの提案に瀬奈は泣いた。
(……可愛い………可愛い過ぎる!!私の隠されたショタの部分が刺激されまくるっっ!!)
「えっ?えっ?嫌、でしたか?」
「いえ、感謝の涙なので……今日もありがとうございます」
「???そ、そうでしたか」
突然の涙にびっくりしつつもネルファデスからの『あ〜ん』を無事に受けつつ完食。
「それではゆっくりしていて下さいね」
パタリと閉じられた扉を見つめつついっぱいになったお腹と心が満たされた瀬奈はホッと肩を下ろした。
私はどうやら異世界にいるらしい。
しかも、既に数日が経過している。さっきの緑色の髪の少年はこの屋敷の執事だと言う。最初に目が覚めた時、まだ夢の中なのだと思い可愛い少年に気が取られていたのもあるが、逃避した。
次に目が覚めた時。
この、天蓋付きの天井が目に入った。頭はボーとし、意識もまだハッキリしない中私はまだ夢の中にいるのだと思った。
(やけに現実味のある夢だわ)
なんて思いながら直ぐにまた意識を手放し、そんな日を何日か続け。頭にかかっていたモヤが突然晴れ覚醒したのが昨日。
大まかな説明を受けたものの、まだ理解はしていない。分かる事は、自分が異世界らしき場所にいることと大怪我をしていることだけ。
部屋の中を見まわせば大きな窓があり、そこには包帯で全身グルグル巻きになっている自分の姿が反射して映っていた。実際、自分の視界で自分自身を見ても包帯グルグルになっていた。
「……………」
両手に力を入れるも力が入らなくプルプルとしている、両足もしかり。ネル君の話によれば身体中バキボキに大小様々な骨が折れ、出血やら何やらで酷い状況だったそうだ。他人事みたいに聞こえるかもしれないけど最初の何日かは意識がほぼ無い状態だったので覚えてないと言った方が良いだろう。微かに何か頭の中の記憶に引っかかりを覚えるけれど、うん。忘れておこう!何か思い出したらいけない気がする!
瀬奈は改めて部屋の中をグルリと見回した。部屋はあまり広過ぎず狭過ぎず。けれど、天蓋付きの大きなベットが小さく感じる程の広さの部屋にはベットの他に木製のサイドテーブル、少し離れた場所にも木製のテーブルとソファーが置いてある。部屋の入り口はさっきネルファデスが出て行った扉と、外が見える程の大きな窓があるだけ。
「随分と、サッパリしてるのね……」
そんな感想の部屋だった。
後、気になると言えば外だろう。今は暗くて良く見えないけれど真っ暗な森の向こう側にお城が見える気がするのだ。ただ、輪郭がボンヤリとしていて良く見えない。自分はそんなに目は悪く無かったはずだ、掛けるとすればブルーライト削減眼鏡とかだけど。
「ふぁ〜……あれ?いっぱい寝たのにもう眠い」
モゾモゾと体をずらして布団に潜り込む。暖かい布団にすっぽりと収まると次第に意識が遠いて、深い眠りの底へと落ちていく。何度か浮上した時にネル君と別の誰かを見た気がしたが眠りの闇は強大で瀬奈は抗う事はせずにそのまま落ちた。
瀬奈が次に目を覚ますのはガラスが割れる音で意識が覚醒する。
深い深い……
眠りの中で何かを見た。
ただそれは霞の向こう側過ぎて良く分からない。
手を伸ばしてみてもスカッと空を切るだけで何も掴めない。
でも懐かしい様な気もするし、心臓がギュッと掴まれたような痛みを感じる気もする。
様は自分でも分からないって事だけが分かっていると言う不思議な状態の中、誰かの叫び声とガラスの割れる音で瀬奈の意識が一気に現実世界へと覚醒する。
「………………えっ?」
覚醒した瀬奈の目の前には薄い紫色の髪に、深紅の色の瞳の色気駄々漏れの溜息を吐く男性が窓の方を見ていた。
「アヴィ!何度言ったら分かるんだ。水を硬くするんじゃなく霧散させるイメージだと言っているだろうが!次壊したら……減給だからな」
男性は外の誰かに向かってそう言い放った後、ベッドに潜り込んで器用に耳だけ出している瀬奈を見た。
「………お前は何をしている?」
「いえ、お気になさらず!声だけ発して頂ければ十分なので!!」
布団の中からそんな返答が帰ってきた。
「…………」
「…………」
「…………おい」
呼びかければ布団がビクッと反応する。
「はいっ!!」
「…………。窓の修復をするからベッドから出て欲しいんだが、自分でもう動けるのか?」
「えっ?窓?」
瀬奈は布団の中から頭を出し、無残な姿になってしまった窓を見て納得した。
(さっきの音はコレだったのね……窓枠まで粉々になる程壊れているけど、一体何がぶつかったらこんな事になるのかしら?)
瀬奈は部屋の中に散らばる木片とガラスの欠片が自分のベッドの方に転々と続いているのに気づいた。
「あっ?こんな所にもガラスが……」
ベッドの端に乗っかっているガラスの欠片に気付き、起きあがろうとするがまだ両手に力が入らずパタリと布団の中で崩れ落ちた。
「…………流石にまだ無理か」
男性はそう言い、瀬奈と布団を自分の方に手繰り寄せ俵抱きに抱える。
「ちょっ!私怪我人なんでもう少し普通に扱ってもらえませんか!」
布団にグルグル巻きになった瀬奈はジタバタすることも出来ない。首も回らず、背後で何が起きているのかも分からない。けれど、次第にパチパチと言う音と小さな稲光と青白い光が目の端と耳に聞こえてきて心が惹かれる!
きっと魔法に違いない!アニメや漫画の世界のそれが今起こっているに違いない!
「……少し黙れ」
「でも!でも!今このチャンスを逃したら次いつ見れるか分かりません!だって今、魔法で直してるんですよね!」
「……残念だが、もう終わりだ」
そう言うと、グルグル巻きになった瀬奈をそのままベッドに置き何事もなかったかのように男性は部屋から出て行った。しばらくするとネルが来て事情と状況を聞かれた。
どうやら窓の破壊は庭師の方が魔法で水を撒いている時にコントロールに失敗し、たまたま私の居る部屋の窓に当たっただけだった。
水撒き恐るべし!どんなけの威力で水を撒いたらあんなに壊れてしまうのか想像したら怖すぎた。
そして、その窓を直してくれた男性がここの屋敷の主人のリアム様だとか。
「まぁ、何となくそんな気はしてたけどね……」




