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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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22/62

イケメンはごめんなさい!! 〜レイズ少年と颯人 ③〜

「ねぇ、颯人それは?」

 ベッドの上で転がるレイズは不思議そうに颯人の手の中にあるモノの匂いを嗅いでいた。

「これか?これは俺がいた世界でお香って言われてた物だな。ちょっと知り合いに作って貰ったんだがさっそく今日使ってみようかと思って」

 ベッドサイドのテーブルの上に颯人作の小さな硝子の平皿が置いてあり、そこに三角状に固められたお香を置く。火は要らない使用になっているので、置いたらすぐに燃え始め白い煙が立ち昇る。匂いはと言うとハーブとオレンジをブレンドした香りだ。

「あっ?蜜柑?と、何だろう嗅いだことがあるような匂い………う〜んなんだろう?分からないや」

 レイズは鼻先をお香に近づけて匂いを嗅いでいる、とりあえず嫌な匂いではないらしい。猫科の獣人だけれど、俺の知る普通の猫ではないそうだ。

「おい、そろそろ寝ろ。明日の朝一番でお前の家に行くからな」

 今日はもう遅いのでレイズを泊めることにした。風呂にも入り、夕食も颯斗特製腸詰のスープをたらふく食べて眠くなってきたのだろう。ベットの上で転がっているレイズの瞼がだんだんと落ちていく。

「はや、と……こっちで………スピー、スピー」

「早っ!」

 眠りに落ちそうだなーと思ってからが早すぎて、思わず笑ってしまった。眠ったレイズを起こさないように薄手の布団をかけてやる。そして颯斗は部屋の隅にある長椅子タイプのソファに横になり、サイドテーブルに置かれたライト用の魔石を触れば辺りは真っ暗。微かにカーテンの隙間から月明かりが見えるくらいの闇の中、2人目の寝息が静かに聞こえてきた。



「ほら、モタモタしてないで行くぞーレイズ」

 店の扉に『close』の札を引っ掛け、2階でまだ着替え途中のレイズに声をかける。何か叫んでいる声がするが知らん顔をしながら玄関脇で壁に背をつけ空を見上げた。

「………今日、天気悪そうだな」

 見上げた空は今日も青く晴れ渡り、悪そうには見えなかった。ただ、頭の奥でズキズキと鈍い痛みが生まれているのを感じる。酷くなる前に人差し指でこめかみを揉みほぐす俺に誰かが声をかけてきた。

「あら?今日もお出掛け?」

 視線を上から下に移せば、両手に大きな籠を持った少し年配の女性に声をかけられていた。確か、大通りにある小さな店の奥さんだったか?名前は。

「……こんちは。今日はこれから迷子の子猫を家まで送るんですよ。ノジルさんは?」

 俺は間違えることなく名前を呼んだ。何度か顔を合わせているし、色々と世話にもなっている。

「あら?あの子、今日も来てるの?ああ、そう言えばあそこの奥様、今は辺境伯様の所に行ってるからお(うち)に誰も居ないですものね。てっきりレイ坊ちゃんも一緒に……」

 ちょっと待った!“今は辺境伯様の所に行ってるからお家に誰も居ない“?なんだそれは。レイズ(あいつ)昨日そんなこと一言も。ふと、3日前くらい前の出来事を思い出した。


『おっ?今日はいつもの執事もどき居ないじゃん?お前の家の明かりも付いてないし』

 いつもは煌々(こうこう)と屋敷周りの魔石が輝いているはずなのに今日は一つも灯っていなかった。

『……うん、執事の人は商業ギルドから派遣されてる人だからね。時間になったら帰っちゃうんだよ』

『へぇ〜、てっきり“我々は代々この家に使えている者です!”みたいなオーラしてたから元々居るのかと思ってた』

 執事モドキと思っていたのは嘘ではないが、派遣執事だったのかアイツ。

『僕の家は貴族ってわけじゃないから、そーゆのはないかな?あっ、此処で良いよ』

『ここ?屋敷の裏じゃねぇか?本当にここで良いのか?』

 いつもなら正面玄関で執事が待っているが、今日は居ないので裏手に回った。裏手と言っても中に入るには柵を越えなければ入れないのだが。

『良いの、じゃあね颯斗』

 俺が柵を見上げている間にレイズはどこかから屋敷内に入って行ったようだった。

『ああ………、あっ!明日は……チッ。もう居ねぇー』


 あの時か!あの日にはもう母親は息子置いて行ったてことだよな?もう1人の息子探しに。確か、父親も商品の買い付けで今は居ないんだったか?執事も派遣ならメイドも……。

「はぁぁぁぁー………ったく」

 盛大に溜め息をつき、ガシガシと自分の頭を掻く。もし今、ここに煙草があったら一箱が一瞬でなくなる自信がある程だ。

「颯人ちゃん、あとコレ。今日のお昼にでも食べてね?」

 そう言って紙に包んで渡されたのは出来立ての惣菜パン。焼きたての小麦の香りに野菜とお肉の良い匂いがする。

「あ?いや、ちゃんとお金払いますから。ちょっと、待っ!?」

 店に戻ろうとした颯人をノジルは捕まえ身体を両手で撫で回し、難しい顔をしたと思ったら籠からパンをもう2、3個取り出し颯人に押し付ける。

「レイ坊ちゃんのも付けとくから!2人共ヒョロヒョロなんだからちゃんと食べるんだよ!」

「あっ、ちょと……」

 止める暇もなくノジルはさっさと大通りへと消えて行った。彼女は師匠の古い知り合いらしく、作業に没頭すると食べなくなる俺を心配して度々こうやって見に来てくれるが、以前“颯人ちゃんも、颯人ちゃんの師匠さんの彼も没頭すると食べなくなるのは一緒ね”と、言われた時は衝撃を受けた。

「颯人何それ?美味しそうな匂いする!」

 いつの間に来たのか、レイズは颯人の腕にあるパンをキラキラした瞳で見上げていた。

「…………はぁぁぁー、今日は予定変更だ」

 一体、何度目の溜め息だろう。

「えっ?」

 とりあえず、まだ朝食は食べていないのでノジルから貰ったパンをありがたく頂くことにした。さっきからうるさいレイズの口の中に半分に千切ったパンを捩じ込み、ついでにもう半分を自分の口にも放り込んだ。一度、自分の部屋に行き必要な荷物をもって玄関に戻り。

「行くぞ、レイズ。今日は魔法学園だ」

「???」



 ザワザワとざわめく校内。

 一律に整えられた白を基調とした制服。

 どこかの映画で見るようなゴシック様式な城の建物と女子生徒の悲鳴。


 そして、噴き上げる水飛沫はまだ冷たい。


「………俺、水難の相でもでてんのかな?」

 先日から水に好かれている俺ですが、流石の俺もそろそろ風邪をひいちゃいますよ?

「………クシュン!!」

 いや、もう遅いかもしれない。とりあえず、誰か助けてくれ。学園内にある小さな噴水に浸かっている颯人、その両手には何が何だか分からない表情で丸くなっているレイズの姿があった。ふと、両手にかかる重みがなくなり知った顔が覗きこむ。

「あははは!相変わらず人間にしては反射神経凄いね颯人は」

 差し出された手をギュウウウッと握る。

「イタタタ、そんなに怒らなくたって良いじゃないか。ほら、この子は無事なんだから」

「俺は無事じゃないが!」

 差し出された手を引っ張るがビクともしない、逆に引っ張っり起こされる。一見優男に見えるこの『残念バカ王子オタエルフ』こと師匠のオーバストのもう片方の手にはプルプルと震えているレイズが収まっていた。怪我は………無さそうなので良しとしよう。

「それにしても、派手に落ちたね」

 俺自身もそう思う。師匠とレイズと3人で教員棟のある建物に向かっていたのだが、魔法の練習をしていた生徒の風魔法が変な軌道をしながらこちらに向かってきたのだ。俺と師匠は普通に避けたのにレイズはそのまま直撃。軽すぎるレイズはそのまま風に巻き上げられた所を、俺がバスケット選手の様に華麗にキャッチ出来れば良かったのだがそのまま噴水の中に落下した。

「………………」

 俺はと言うと、噴水に落ちて全身ビショビショだ。上は勿論、下も濡れて気持ち悪い。ポタポタと垂れてくる水が邪魔だ、犬の様に頭を振って水を飛ばす。服も水を吸って重いので脱いで軽く絞る。下は……後で師匠の部屋に着いてからにしよう。すると、軽い足音が俺の方へと駆けてきた。

「すみません〜人が居ると思わなくて、大丈夫でした………!!?」

 魔法の練習をしていた女生徒達だ。わざわざ走って様子を見にきてくれたらしい。

「ああ、大丈夫気にしないで。魔法の練習してるのに気づかないで歩いてた俺達が悪いから」

 こっちに来てから髪を切ってなかったせいで伸び放題の髪が煩わしい。かき上げると、女生徒2人が顔を赤くしながら震えてこっちを見ている。

(あれ?俺怖がらせるようなこと行ったかな?ああ、身長が高いから怖がらせたか?)

 身長があるだけでだいぶ圧迫感があるからな。そう思っていたのだが、俺と女生徒の間に割り込んできた師匠は。

「ほら、2人とも彼は目の毒だから早く行きなさい。次の授業が始まってしまうよ?」

 ニッコリとオーバストが2人の女生徒に声をかければ。奇声をあげて逃げて行ってしまった。

「ああ、また逃げられてしまった」

 しょんぼりと肩を落とすオーバスト。

「何だ、師匠は生徒達から嫌われてるのか?」

「なっ!師匠の私に向かってなんてことを!大体君はいつも……」

 唐突に始まった2人の喧嘩にレイズは。

(これが大人の魅力!?凄い!カッコいい!!)

 何をどう見たらそう感じるのか謎だが、キラキラした瞳で2人を見るのであった。



「で?今日は何をしに学園(こちら)に来たんだい?昨日の報告書に不備でもあった?」

 目の前の柔らかい生物を指でプニプニしながらオーバストは衝立の向こう側にいる颯人に声をかける。

「いや、報告書はいつも通り……って、あれは本来なら師匠が書くヤツだから!俺が書くのはおかしいだろ!?」

「あははは、気付いちゃった?でもさ、魔法って便利な物があるのに未だに紙面で報告とか面倒だなーとは思ってるわけよ。そこんところ、異世界人の颯人ならどう思う?」

 次は両手で引っ張ってみる。

「おおっ!」

 ビックリするくらいの柔らかと伸縮性!

「意外と伸びるね。面白い」

「あっ?何か言ったか?」

「いや、何も。それより服はどう?颯人なら私の服でも大丈夫だとは思うけれど」

 次はこの頭に生えてる大きな耳か?プルプルと震えている耳先をちょこんと指先で挟む。

「っ!!?」

「ん?ごめん。痛かったかい?」

 オーバストはプルプルと震えるソレに聞く。フルフルと頭を左右に振るので痛くはないらしい。それならばと両手で鷲掴みにしてみる。

「なぁ、師匠。コレってここから腕出せば良いのか?師匠の服って無駄にヒラヒラした部分が多過ぎてわけが……レイズ!!」

 衝立から顔を出した颯人が目にしたのは、オーバストの両手がレイズの猫耳をガッチリホールドし、すべすべモチモチの

肌はオーバストの顔を寄せてスリスリと頬擦りをし肌触りを堪能している。その行為にレイズの瞳には今にも決壊しそうな涙で、息も荒く頬を赤らめプルプルと震えて椅子に座っていた。

「こら師匠!レイズで遊ぶなって言っただろ!!」

 オーバストの魔の手からレイズを引っぺがし、自分の背後へと隠す。珍しくレイズの手が俺の服をギュッと掴んでいる。

「え〜遊んでないよ。観察だよ観察♪血の濃い獣人は珍しいからつい観察に熱が入っただけ。それより君、その格好似合わないね」

 俺にヒラヒラした貴族様みたいな格好が似合わないのは分かってるだろうが!

「…………うるせえ。文句言うなら他のもん出しな」


 午後になり。青かった空はしだいに暗く厚い雲に覆われた。そして颯人が朝予想した通り雨が振り出してきた。

「……大丈夫かい?颯人?」

 オーバストの学園内にある研究室。例の引きこもり部屋は全部で3部屋ある。1つは普通の研究部屋、もう1つは仮にも魔法学園の教師なので色々と雑務もあるらしくそれを対応する為の執務部屋。最後にプライベートルームと言ったところだろうか。その中の執務部屋のソファに颯人は顔にタオルをかけて寝転がっている。

「う〜大丈夫。薬も飲んだし少しすれば良くなる。それよりレイズは?」

「……君がそう言うのであればあまり心配はしないけど無理はしないように。レイズたんは、隣の研究室で魔法のコントロールが上手く出来ないって言ってたから私のオススメの魔術書の本読んでる」

「………レイズたん?」

 謎の聞き慣れない単語にタオルをとってオーバストをマジマジと見る。

「うん?この間この世界に落ちてきた異世界人の子で“ジョシコウセイ“は皆可愛いモノに◯◯タンって付けるのが流行りだとかって言ってたから、付けてみたんだけど颯人の世界とは違うのかな?」

「いや………多分、同じだと思うけど。師匠のその顔で”タン”は辞めた方が良いと思う」

 確かに日本の女子高生なら独自の呼び方をするのが流行りみたいな時期はあるけど、多分その子は違う気がする。それに師匠の口からは辞めて欲しい。断固阻止したい。

「そう?私は何だか可愛い呼び名だと思うけど。あっ、それより昨日渡すの忘れてたんだよねコレ」

 オーバストは白衣のポケットから細長いメガネケースの様なモノを取り出し、机の上に置く。

「これは?」

「眼鏡。目に負担がかからないように魔法の付与はしてある。普段から仕事の時は遮光眼鏡かけてるし、この際だから普段からかけてても違和感ないようなデザインにしてみたけど使い心地の感想は後で聞かせてね」

 颯人は起き上がり、机に置かれた黒い細長のケースをそっとあけた。中には細身のスクエア形の眼鏡、濃い深緑のフレームにレンズはイエロー。フレームは良く見ると文字が蔦模様のように絡みキラキラと淡く輝きを放っている。

「君の茶色の髪と灰色の瞳に合わせた色合いにしてみたけど良かったかな?それに颯人の瞳は少し鋭過ぎるからこれで相殺さ」

 とりあえず、ケースから取り出し掛けてみる。最初に感じたのは重さだ、掛けているのか分からないくらい軽い。そしてレンズ越しでオーバストを見るがいつも通りのクリアな姿がレンズ越しでも確認できた。

「颯人の仕事に影響が出ないよいに色は普段と同じ様に見えるはずだよ」

「ああ、普段通りの色味で見えてる。むしろ普段より鮮明に見えるくらいだ」

 オーバスト以外の色を見たくて部屋の中をキョロキョロと見回した。今のところ普段通りに見えている。

 普段は仏頂面の弟子が嬉しそうにしているのは気分が良い。オーバストもつられて柔らかい笑顔になるが。これは只の時間稼ぎ。

「なら良かった。私の魔法では君の目の病気を完治することは出来ない。けど、それをかけておけば限りなく進行は遅くなる」

「…………」

「もし、君の目を治す事が出来る人物がいるのならそれはーーー」



 外は雨。



 周りの音を掻き消してしまう程の雨。


 その雨音に紛れるように近づく闇音にまだだれも気づいてはいなかった。

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