イケメンはごめんなさい!! 19
騎士団内部はざわついていた。
商業地区南側に位置する教会が野盗に襲われたと連絡が来たのはその日の夕方。
「ユリウス。報告を」
ユリウスこと黒の騎士団副団長、ユリウス・ラシッドは報告のため王宮内にある騎士団本部の一室にいた。
「ハッ!先刻交戦した野盗は全て捉えて地下牢に収容されています。現在、赤の騎士団の隊員が尋問にあたっているはずです。戦闘時の負傷者は我が隊が1名、教会は3名の負傷者が出ております。教会の方はこちらから治癒魔法師を派遣し、黒の騎士団は負傷者意外は引き続き警邏隊と共に商業地区の警備にあたらせております!報告は以上ですマクシミリアン団長!」
自分の正面には、黒の騎士団団長こと、マクシミリアン・ヴィルヘルム・ハノーヴァ団長がソファに座り優雅にお茶を飲んでいる。長い足をゆっくりと組み変えカップを机に置く。黒く長い髪に白皙の顔面には柳の様な眉、切れ長の瞳は長い睫毛に縁取られ小さな薄い唇は口角を上げ微笑みを向けている。一見、どこかの令嬢かと見間違えてしまいそうになるがれっきとした黒の騎士団の団長である。
「報告ご苦労様。こんな時期に野盗とはねそれともこんな時期だからなのかは分からないけど………今は『禁止地区』の討伐編成で騎士団内部がピリピリしてるから、余計に今回の件は勘ぐっちゃうよね」
君も一杯飲むか?と聞かれたが断り『禁止地区の討伐編成』について聞く。
「やはり、禁止地区の魔獣は討伐対象になりましたか。どの隊が行くことに?」
「今回は本当、時期が悪すぎると思うんだよね」
マクシミリアンはそう言って足を組み替え、両腕も組み疲れた顔で言った。
「黒の騎士団の半分はそのまま商業地区に、青の騎士団はいつも通り空から。リアム様率いる白の騎士団が居ない今、王宮内の警備は赤の騎士団。それ意外の各騎士団から精鋭を募ることにした」
「………禁止地区の魔獣討伐にそれだけでは少ないのでは?」
ラルミノ国には三大騎士団がある。白・黒・赤の色を持つ騎士団は長年この国を守り続ける由緒ある大貴族が代々団長を勤めている。その中でも白の騎士団のリアム様は騎士の最上位の聖騎士の称号を持つ。言うなれば司令官だ、そのリアム様率いる白の騎士団がまるまる居ない現在、時期聖騎士候補であるマクシミリアンが今回指揮を取っているのだが本人も言っているように時期が悪すぎた。白の騎士団の不在、豊穣の女神への感謝祭、禁止地区の魔獣討伐。三大騎士団意外の騎士団も居るとは言え、討伐隊に組み入れるとなると限られてしまう。
「そう。だから、今回は警邏隊と共同で討伐隊を組む事にした」
「警邏隊とですか?ですが彼らはすでに商業地区の警備に当たっていますが……まさか」
ユリウスは思わずゴクリと喉を鳴らす。
「ああ、西の警邏隊と共同で討伐隊を組む」
「なるほど、あの方達なら大丈夫かと思いますが………あちらの指揮官はどうするんです?誰もやりたがらないですし、そもそもあの方々を止める方がいませんよ?」
警邏隊。ラルミノ国の東西南北に置かれている。王宮直属の騎士団とは違い、独自のルールで国を守る隊である。隊員は元騎士団所属だったり、騎士団に訳あって入団出来なかった者や国外の者、元犯罪者等訳ありだらけの者が集まったのが警邏隊である。訳ありだけあってそこいらの騎士団員なんかよりも実力はある。が、曲者揃いの中でも西の警邏隊は元騎士団所属の者が多いと聞く。
「……1人適任者がいる。偶然発見してね私が捕まえておいたんだ」
「捕まえた?団長、今は討伐隊の指揮官を」
「捕まえたのは行方不明だった例のあの人だ」
マクシミリアンはニヤリと笑う。本当に見つけたのは偶然だった、リアム様の代わりに彼等を指揮出来る者がいるとすれば彼しか居ないのだ。
「ユリウス、何か不満でも?」
「いえ、団長が言うなら間違いないでしょう。それより、もう1つ報告したい事があるのですが」
***
時は数時間前に遡る。
「ユリウス様、教会へは何をしに?」
商業地区から山の中腹にある教会に行くには幅広に整えられた土系舗装された道を歩いて登って行く。
「副団長と呼べ」
鋭いスカイグレイの瞳に射抜かれるように言われ、1人の団員は慌てて言い直した。
「失礼しました!ユリウス副団長!」
「騎士団内では気をつけるように」
ユリウス・ラシッドは真面目な男であった。騎士団には貴族出身の者もいれば中流階級や平民からも上がってくる者もいる、騎士団内の規則では騎士の最上位に君臨するリアム様を除いては身分の上も下もない事になっているのが、規則である。
「今日はマクシミリアン団長から牧師にと急ぎの手紙を預かっている」
「通信用の宝珠でお伝えするのは危険と言う事ですか?」
通信用宝珠は名前の通り、遠い所に居る者と通信をする為の魔道具の一つだ。ただ、声のみなので確実に本人なのか確認が出来ないのが難点である。
「…………危険とは言わないが、今後お前達の方にもっっ!?」
ユリウスが言葉を発するよりも早く、2台の馬車が教会のある方から猛スピードで降りて来た。
「なっ!危な、何なんだあの馬車は!」
1人の団員が馬車が走り去るのを見送る。
「最近ではあんな暴走馬車が……ユリウス副団長?どうし……」
別の団員がユリウスに話かけるが、ユリウスの普段より一層鋭い瞳に身構えた。
「気をつろ!血の匂いだ!」
そう言うや否やユリウスは走り出した。他の団員達も続いて教会を目指して走り出す。舗装された道を走り抜け開けた場所へと踊り出るが急激な熱波で押し返される。
「副団長!アレを!」
1人の団員が指をさす方には熱波の発生源であろう者が1人とここからでは良く見えないが、怪我人が1人倒れている。
「怪我人がいる!通信用宝珠で騎士団本部に治癒魔法師の派遣を緊急要請!残りは辺りに倒れている者を回収しろ!俺はあの中心にいる人物の所に行く!!」
簡単な指示を出し、ユリウスは熱波の中心にいる人物へと近づく為に走り出そうとしたが音もなく近づいてきた誰かに肩を掴まれた。
「っ!!貴方は!?」
熱い……。
身体の中も頭も沸騰しそうな程熱い。
前にもこんな事があった様な気がする。
いつだっけ?
「ーーーー!!」
誰かが俺の名前を呼んでいる?
誰だ?
今、何か思い出せそうなのに邪魔しないでくれないか?
「ーーーズ!ーーレイー!」
ああ、うるさい!
前もそうだ!前も誰かが俺の邪魔をして!
「良い加減にしろレイズ!!周りに居る子達まで巻き込む気か!!」
「!!?」
その言葉にレイズはユラユラとした意識から目覚める。
「……やっと、目が、覚めたのか……」
レイズの腕には、傷だらけになった同じ警邏隊であり兄貴分であるジェイが力無く笑って見ていた。
「ジェイ?何でこんな傷だらけ………あっ」
ジェイの両腕の中には1人の子供が隠すように抱えられていた。
レイズは思い出す。
商業地区の巡回中、別の巡回組から教会が襲われていると連絡が入りレイズはすぐさま向かった。しかも、今日は牧師が不在の為代わりにジェイが教会に残り子供達の世話をしていた所を野盗に襲われたのだ。
レイズがここに到着した時、1人の子供が野盗の人質に取られ痛めつけられていた。子供はグッタリとしていてそれを見たレイズは怒りのままに野盗に襲いかかった。
「……ごめ、ん。俺がこんなにした」
我を忘れて襲いかかった時、近くにいた2人を巻き込んだ。その時の記憶はないがボロボロになったジェイを見れば分かる事だ。
「いや、見た目は酷いがそれ程じゃない」
そうは言うが、切り傷の他に大量に血が流れた跡と肉が抉れレイズの纏う炎で焼かれている。
「でも、俺が暴走したからジェイまで……」
少し鎮火したと思っていた炎が再度勢いをまし、チリリと肌を焼く。
「落ち着け!レイズ!お前が悪いんじゃない!」
「でも、俺があの時……」
何かが記憶の底から出てくる感覚にレイズの意識が混乱をはじめる。
今なのか、過去なのか。
俺なのか、僕なのか。
上なのか、下なのか。
意識が飛びそうになる瞬間。
懐かしい匂いに一瞬だけ意識が浮上する。
「こっちを見ろレイズ!」
そう声がする方に無意識に顔を向け。
その後、レイズが意識を取り戻すと何故か教会の塔に吊るされていた。
野盗の回収がすみ、怪我人の治療も終わる頃、教会の応接室で待機していたユリウスはこの教会の牧師であるプロイゼン牧師と対面していた。
「マクシミリアン団長に言付けがあれば私が頂戴しますが」
ここに来た本来の目的を果たしたユリウスは、団長からの手紙を読み終えた牧師へとそう言葉をかける。
「…………内容は理解した。今日もソレについて直接話をする為に外に出ていたんだが……まさか教会が野盗に襲われるとはね」
プロイゼン牧師は椅子に深く腰をかけ大きなため息を吐く。
「彼等はこの後、騎士団の方で尋問させて頂きます。後日、調査結果の報告をさせて頂きますが……彼らは知らなかったんでしょうか?」
ユリウスは先程から疑問に思っている事を口にする。
「ん?あの野盗達か?多分……知らなかったんだろ?そうじゃなかったら腕に自信があったか、ただの馬鹿共だ」
プロイゼン牧師は立ち上がりニヤリと笑った。
「ここが、南の警邏隊本部だなんて知ってたら普通襲わないだろ?それに、ひよっこレイズ1人にやられてるようじゃたかが知れてる」
確かにとユリウスも納得した。駆けつけた時、あの場で戦える者が2人しかいなかったのだ。子供を庇う代わりに傷だらけになった男と赤髪の青年だけ。
「そう言えば、赤髪獣人の彼は何処に?商業地区での暴漢を捕獲したさい少し聞きたい事もあったのですが」
最後に治癒魔法をかけてもらっていた彼を思い出す。最後、プロイゼン牧師に何かされ倒れたがあの時、熱波の中心にいた彼は炎を纏っていた。大きな炎の渦の中に彼は座り込みジェイと言う男と子供を護る様にしていた。あいにく野盗達は彼の最初の攻撃により君を失って倒れている者が殆どで、ユリウス達は素早く回収する事が出来たのでありがたかったが彼は違ったようだ。
それよりもレイズと言う名の獣人、あの魔力量このまま野放しにするのは危険だな、それに鍛え方を少し変えて……。
いや、長剣と短剣を持っていたからもしかしたら合わせてなどと考えていると。
トントン、と、プロイゼン牧師が机を指で叩いていた。
「あっ、すみません。少し考え事をしていました」
「いや、真面目で良いんじゃないか?それよりレイズだが、塔の上でぶら下がってるから話してくるか?」
何故塔に?とは聞かずにユリウスは頷く。
「是非、お願いします」




