イケメンはごめんなさい!! 17
先程の暴漢を撃退し、黒騎士団から逃げるように次の巡回組へ合流しようと歩みを進めていたレイズの元に知らせが届いたのは直ぐの事だった。
ーーー教会が襲われている、と。
***
「ねえねえ、セナ。一個足りないみたいだけど売り切れだったの?」
ハーフエルフの2号こと少し幼いイメージがあるシャルが袋の中身を覗いて首をかしげていた。
「……うん。流石に感謝祭前日だしお店もいつも以上に繁盛してたから売り切れだったよ」
シャルが1つづつお皿の上に置いていくのは透明なガラス瓶に入ったカスタードプリン。甘過ぎず、柔らかいプリンは本日の昼食後のデザートとして今目の前に置かれている。
「……あっ!酷いよ2号!俺の仕事終わりの糖分取るなんて」
シャルが最後に置いたのは私の前。
「颯人はいつでも食べれるでしょ?」
私の右隣りに座る1号ことリーフがプリンの蓋を開けている。
「そんな事いったら3人組だってそうじゃないか。俺の糖分〜」
正面で悲壮感たっぷりの草間さんが机の上で恨めしそうに皆のプリンの様子を見ていた。
「僕、初めて食べます!頂きます!」
元気にプリンにスプーンで刺すのは左隣りのアヴィ君。
「……俺達まだ育ち盛り」
草間さんの右隣りに座るエバーは既に半分くらい食べている。
「育ち盛りって……」
何か言いたそうな草間さんを横目に左隣りのシャルが"あ〜ん"と、効果音付でプリンを口に運んでいく。
何故、一個たりないのか。それは先程会った猫様に持って行かれたから。そう、リアル泥棒猫に持って行かれたにもかかわらず少し近づけた感じがして嬉しい。
「私ので良ければどうぞ?」
スッとお皿を正面の颯人へ差し出した。元々、颯人のお弁当を取りに行ったついでに買っていたデザートなのでそんな悲壮感タップリの顔で見られると罪悪感が大きい。
「え!良いの?本当に?」
子供みたいにパッと顔を輝かせる颯人にセナはクスッと笑ってしまった。蓋を外しスプーンを差し込む。
「颯人大人気ない」
エバーにそんな事言われながらも待ちにまったプリンを口に運び。
「美味い!」
喜んでいるので良しとしよう。皆が食べている間にお茶の準備でもしようと立ち上がりかけたセナに。
「セナ、こっち」
ツンツンと右隣りのリーフが指で私の頬をつついてくる。
「ん?…!?」
振り向いて口の前にスプーンが差し出されていた。
「セナ……あ〜ん」
「?!!」
「ほら、落ちちゃう」
確かにスプーンの上のプリンがプルプルとしていていまにも落ちそうだ。でも、その顔はズルすぎるよ!
「っ〜〜〜………パクッ」
ううっ!恥ずかしい!でも美味しい!美味しいけれども!
「もう一口いる?」
キラキラの金髪美少年の美少年パワーが凄すぎて美味しいどころじゃない!!何でそこで首傾げちゃったの!
「うっ……お腹いっぱいです。ご馳走様……」
神々しい姿におもわず涙がキラリ。美少年のスイーツと萌えの遡上効果恐るべし。私の心はお腹いっぱいです。
「えっ!何で泣くの!?」
リーフはワタワタと慌てだすが、左隣りのアヴィ君は何事もなかったかのように懐からハンカチを差し出した。
「セナ様の涙は性癖なのでお気になさらず!」
真顔でアヴィ君がとんでもない事をぶっ込んできた。
「ちょ!アヴィ君!」
「あっ!しまった!内緒でしたね」
ヘラ〜とした笑顔でアヴィはセナの口の中にプリンを突っ込む。
「うぐっ!!」
「僕の分もあげるので許して下さい⭐︎」
テヘペロ感と持ち前の明るさで言われてしまったら許してあげるしかない。アヴィ君は美少年ではなくどちらかと言うと爽やか青年。太陽の下が似合う彼は庭師の仕事をしている時はとても輝いて見える。
「………しょうがないな、修練場の草むしり代わりにやってくれたら許してあげる」
「ええっ!そんな〜」
しょんぼりしながら残りを食べるアヴィ。そうは言ったけど、後で一緒にやるつもりだ。お屋敷の修練場って意外に広いのよね。
「ねえねえ、瀬奈ちゃん」
今度は草間さんに呼ばれ……固まった。
何故なら草間さんまでスプーンにプリンを乗せて、机に肘をつきニコニコしながら私を見ていたから。
「俺とも間接チューしよ」
「…………」
「…………」
草間さんの両脇に座るエバーとシャルは無言でポカスカと草間さんを殴り始めた。殴られながら嬉しそうにしている草間さんは見なかったことにしよう。
お屋敷以外でも、こんな光景が見慣れたモノになってきてセナはちょっと嬉しくなった。
「さっ、食べ終わったら明日の準備しよ
明日から一週間の感謝祭が始まる。
空を舞う青騎士団の飛竜隊の演舞から豊穣の女神を祝う為の感謝祭が始まった。
「あれ?コレさっきの店員さんも付けてたよね?ココで売ってるんですか?」
初日、セナ達の露店は順調な出だしを迎えていた。
「そうです、あちらのスイーツ店の店員さんが付けていたアクセサリーはこちらになります」
「へぇ〜他にも色々あるのね。ねぇ、これなんか今日みたいな日にはピッタリだと思わない?」
アクセサリーを見ていた女性は隣の彼にそう聞いた。女性が手に取ったのは小さな蜻蛉玉、水の中に点打ちで描いた花が涼しげに咲いている。だが隣の男性は別の物を手にした。
「う〜ん君には可愛らしい花も似合うけど、こっちの情熱的な色の花も似合うんじゃないかな?」
男性が手にしたのは小さな赤い薔薇が金のチェーンに連なった物だった。
「そお?……迷っちゃうわね。どうしようかしら」
「幾つかまとめて買って頂いたらサービスでお好みのアクセサリーなど加工もしてますよ」
私はカップルであろう二人にそう声をかける。
「そうなの?だったらこれと、これ………」
露店を出す事が決まり、私のガラス作品を置くにあたり草間さんへ一つ案を出していた。この世界でもスイーツ=女性は健在で露店周りのスイーツ店に行き無償で女性店員さんに私の作ったアクセサリーを身につけて貰っていたのだ。
先日のアンジェリカさんの事もあるので、少し目新しくお手頃価格のアクセサリー。しかもお祭りと言う少々お財布の紐が緩みそうなワードの遡上効果のお陰で女性のお客様が結構覗いてくれる。
ちなみに今日の加工担当はエバーである。ハーフエルフの3人が一緒だと目立ち過ぎるので時間制にし1人が露店、2人はお店にした。
「それじゃーこれでお願い。どのくらいで出来る?」
「直ぐ出来ますよ。良かったら向かいに美味しいコーヒーと紅茶のお店があるのでそちらで待って頂けるならお持ちします」
「そうね、少し喉も渇いたし……お願いするわ」
「ありがとうございます!」
もちろん、向かいのお店は『ベルフルール』の教室の生徒さんのうちの1人のお店である。自分で作った作品のお皿やカップで提供していて目でも楽しませてくれる。
商業地区中央の時計台の鐘が夕方の時間を知らせる。鐘が鳴り終わると露店は店じまいを始める、長い感謝祭の期間なので最初の二日間はどの露店も早く閉め後半の準備をするらしい。最後の最終日は日が替わるまでお祭り騒ぎをし花火も上城と下城の二箇所から打ち上がり、それはそれは大変騒が……盛り上がるんだと草間さんが言っていた。
「ふう、シャルも今日はご苦労様」
「セナも、ご苦労ーさま。ずいぶん軽くなったね」
シャルと私が持つ箱の中は行きに比べて少なくなった作品達だ。私のガラス作品もだが他の生徒さん達の作品も順調に売れた。
それもこれも向かいのコーヒー&紅茶のお店の店長さんのお陰で。
帰り支度をしシャルと二人でベルフルールの店へと歩いていると、足早に通り過ぎる一団とすれ違った。
(あれ?今のって猫様といつも一緒にいる人だよね?そう言えば、今日は猫様巡回に来なかったな〜。流石に感謝祭当日の今日は忙しいのかな?明日は会えると良いけど)
セナはパンツのポケットを上からそっと押さえ、そこにある物の存在を確認する。
「なぁ、聞いたか?兄貴が昨日、野盗に襲われた話」
「ああ、祭り前日で巡回組も騎士団の目も商業地区に集中してたから狙われたんだろうって」
通り過ぎて行く巡回組の彼らからの物騒な話しにセナは振り返る。が、いつもより人混みが多く彼らから詳しく聞きたかったのに見失ってしまい聞くことは出来なかった。
「えっ?今の話……」
「セナ?どうしたの?怖い顔して」
野盗に襲われた?誰が?……さっきの人達、前に猫様のこと兄貴って。セナの中でグルグルと悪い方へと考えが向いてしまう。
「…ナっ!セナってば!」
「あっ……ごめん。何?」
シャルが怒ったような顔でセナを見上げていた。
「何?じゃないよ、何か心配事?」
「ごめん、ごめん何でも」
「なくないよね?」
こんな時でも可愛いらしいシャルの怒り顔にキュンとしながら、さっき通り過ぎた一団の話をシャルにした。すると、心配なら行ってみれば良いと言う事になり一度お店に戻り来客中だった颯人に一声かけてやってきたのは山の教会。
「で?なんで君まで居るの?」
シャルがセナの背後に立つアヴィに話かけた。
「僕はセナ様のお手伝い兼、護衛役だから⭐︎」
軽いウインクを飛ばしながらそう言うのはアヴィ。どうしよう、草間さんの真似がしっくりしてきてる気がするのは気のせいじゃない君がする。
「それで、今日のお手伝いはもう終わりましたけど……セナ様はなんでここに?」
三人の目の前には大きく聳え立つ教会。商業地区から見ても大きい事は分かっていたが、実際目の前にすると更に大きい。
「ごめん、アヴィ君には説明してなかったわね。ちょっと気になることがあって」
「気になること?」
「うん、猫様の無事の確認?」
「……猫様とは、あの方でしょうか?」
アヴィが指をさした方向は教会……の、2階部分。まだ少し遠目だが赤い何かがロープでぶら下がっている。
「ね、猫様!?」
セナは教会に続く道を走り出した。
「いや〜すまないね。まさかこんな感謝祭中に人が教会に来るとは思ってなかったからお客様用のお菓子切らしていましてね」
そう言って私達三人にお茶を出してくれたのはここの教会の牧師さま。私の中の牧師さんイメージは白髪が目立ち始めたおじいちゃん牧師だが、目の前に居る人は身長が高く、目尻や口元の皺はそんなに目立たなく髪は薄いオレンジ色。年齢不詳だけど醸し出す雰囲気は落ち着いている。人間年齢で見たら50代くらいだろうか?
「皆様のお口に合うか分からないですが、こちらもどうぞ」
お茶と一緒に出てきたのは歪な形のクッキー。
「あの子達が作った物なので形はアレですが、味は保証しますよ」
牧師さまが視線を向けた先には、まだ10才には届かなさそうな子供達数人が扉の向こう側からチラチラとこちらを伺うように見ている。
「じゃぁ、遠慮なく!いただきま〜す」
アヴィはそう言って、クッキーを口の中に頬張る。モグモグ、ゴクリとでも聞こえてきそうな食べ方に見ているこちらも頬が緩んでしまう。
「うん!サクサクのホロホロで美味しい!」
親指を立て、扉の向こう側から覗いている子達に笑顔を向けるアヴィ。
「じゃぁ、僕も」
シャルも口にする。
「うん、砕いたアーモンドが引き立って美味しい」
歪な形からは想像出来なかった味なのかシャルはビックリした顔をしながら食べていた。
「私も、いただきます」
歪な形のクッキー。それに、お皿とお茶のカップも草間の店の初心者コースの生徒さん達が作るような個性的な物が多い、多分手作り。何だか暖かい気持ちになりながらセナはクッキーを口に運んだ。
クッキーは二人が言うように、サクサクのホロホロ。素朴な生地の中に砕いたアーモンドが香りと歯ごたえをプラスしていた。
だけど………。
(この味、最近どこかで……)
思い出せそうで思い出せない。そんなモヤモヤしたなか、部屋の扉が勢いよく開いた。
「おいっ!!何でここに居る!!」
息を切らしながら入ってきたのは真っ赤な髪の猫様。口には縄を咥えていた。
「あっ!」
「あぁ?」
ジロリと鋭いレイズの瞳がセナに向く。塔の2階に吊るされていた猫様を見つけ何事かと思って来たのに、ゆっくりとお茶をしてしまった。
「おや?レイズ。また縄を噛み切ってきたのかい?これで何本目だい?縄は噛み切る為の物じゃないんだよ」
牧師さまは怒り心頭中のレイズに近づく。いつの間にか手には真新しい縄を持っている。
「だぁぁ!近づくんじゃねぇぇ!!」
レイズの尻尾も耳も普通の猫と同じように警戒モードに入ったのか、ブンブンと尻尾を振りイカ耳になっている。
(やだ!!可愛い過ぎるっっっ)
冷静を装うようにカップに手を伸ばす。
「………セナ様。カップ割れちゃいますよ」
「………………」
ガチャガチャと震えるカップは諦めて机においた。
「こら、逃げるんじゃない!お仕置きはまだ終わっていませんよ!!」
(成程、アレはお仕置きだったのね)
吊るされていた理由が分かり内心ホッとした。何となく、お皿の上のクッキーを見た。歪な形の中に数枚綺麗に出来ている物がありそれに見覚えがあった。そしてセナは思い出した。このクッキーの事を。バンと机を叩いてセナは立ち上がっる。
「あの時、猫様がくれたクッキー!!」
毎日の様に餌付け代わりの差し入れをしてたある日。猫様が『いつも貰ってばっかりだから、たまにはヤルよ』そう言って渡されたのは可愛くラッピングされたクッキー。わざわざお店で買ってきてくれたのだろと嬉しく思いながらあの後、美味しく頂いたけど、もしかして……もしかしてだけど。
ジッとセナは固まったているレイズを見る。
「もしかして、手づ………」
私が言うよりはやくレイズはセナの元に飛んできた。
「わぁぁぁ!言うな!!」
レイズは慌ててセナの口を両手で塞ぐ。
「……ここの子供達の手作りと、聞いたんだけど。その反応、もしかして君が作ったの?」
シャルが何となくレイズに聞く。誰がどう見ても分かる反応をした彼の顔は髪と同じ様に真っ赤だ。
(やだ!猫様が可愛い!!)
セナの口はまだレイズの手で塞がれている。
「だっ!…っ、だったらなんだ!」
「……別に。なんとなく君の反応の仕方が気になったから聞いてみただけだけど?」
(私の前だと普段可愛いシャルがツンツンしてるのも可愛い!!)
「んだと!!」
「それに、僕は美味しければ誰が作ったところで」
二人の間にヌッとアヴィが現れ。
「あの〜。セナ様が色々な意味で昇天しそうなのでそろそろ離してもらって良いですか?」
ニコニコとアヴィがそう告げると、セナの肺には新しい空気が送りこまれた。
「なるほど、それでお三方は心配してこんな山の上にある教会まで来て下さったんですね」
まだ薄い顔のシワを深くしながら牧師様はそう言った。あの後、怒りながら部屋を出て行ってしまったレイズを心配してこの教会に訪れたことを告げた。
「僕は、彼とは関係ないから心配はしてないけどね」
牧師様相手でもツンの姿勢のシャル。
「僕もセナ様の護衛役なので付いて来ただけです!」
アヴィまでそんなことを言う。
「ははは、ではお嬢さんがレイズの友人かな?」
牧師さまは順番に視線を合わせていき私を見ると優しく微笑んだ。
「そんな!私なんて毎回迷惑ばかりかけているだけで友人だなんて」
ブンブンと左右に顔を振る。
「そうですか。なら、これから友人になるのはどうですか?彼は……」
「ストップ!」
シャルの声が話を中断した。
「昔話とかは良いからさ、結局昨日はここで何があったわけ?」
ツンとした態度のままシャルは牧師さまに視線を向ける。そう、私達はここに来るまで『昨日、教会が襲われた』そんな噂を聞いた。実際、私も巡回組の会話がちゃんと聞けてたわけではないが同じ様な事を聞きここにきた。だが、来てみたら昨日の噂なんてなかったのでは?と思うくらい何もないように見える。猫様は吊るされていたが。牧師さまは一度視線を下げもう一度私達を見た。
「……昨日は」
夕日がそろそろ山へと沈み込む頃。レイズの耳は教会の正面扉を開く音を聞いた。自分が部屋を飛び出してから少し時間がたっている。もしかしたら昨日の事を話していたのかもしれない。下から誰かが自分を呼ぶ声に反応しレイズは軽々と2階の窓から飛び降りる。
下に居たのは牧師と三人。セナが近づいてくる。あの時のクッキーは確かに自分で作った物だか秘密なわけではない。ただ、少し照れくさいだけだ。だからいつもより少しそっけない態度で聞いた。
「……帰るのか?」
ジッと俺を見るセナの瞳に安堵の色が見える。やはり、昨日の事を聞いているのかもしれない。
「うん、猫様の無事な姿見れたし。それと、コレ」
セナはポケットから出した物をレイズの手の平に置く。それは、赤とオレンジの二色の蜻蛉玉に白と金の飾り房。レイズは珍しそうに玉を指で挟んで夕日の光で透かしてみた。玉の中の二色は炎の様に揺らめき、小さくなっては大きく燃え上がりを繰り返していた。まるで、小さな世界に閉じ込められたみたいに揺れる炎。玉からは微かな魔力も感じられた。
「コレは?」
「お守り。私だけじゃ上手く出来なくて、『ベルフルール』の店長さんと、護符印を付与させるのが上手な子がいてその子に手伝ってもらったんだけど……良かったら猫様も」
巡回組、どんな仕事なのかを聞いたセナはお世話になっている屋敷の皆やお店の皆にお礼の意味を込めて作ったさいに、レイズの分も作っていた。
「あは、迷惑だったかな?猫様の仕事内容って普段もっと危ない仕事なんだって草間さ……あっ、お店の店長さんね」
「………だ」
何かを言ったレイズの言葉が聞こえず、レイズの顔を見てセナはドキっとした。
「えっ?」
「俺の名前は『レイズ・カメリア』だ。猫様じゃねぇ」
草間さんが言ってた通り、彼の瞳はとても綺麗な金色をしていた。
「……やっと、教えてくれたね。私、セナ『紅野瀬奈』宜しく」
「……ああ、宜しく」




