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オタク女子イケメンパラダイスに降臨!  作者: 暁月
始まり

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11/61

イケメンはごめんなさい!! 11

 ゴウゴウと激しい火が燃える中、私の額からは滝汗が流れ落ちる。

「はい、吹いて〜」

 男の声と共に私は口腔内の息を強すぎないギリギリの強さで細い管へと吐き出す。

「〜〜〜ん〜〜っ………ぷはっ!」

「はい、慌てないでゆっくりまわしてぇ下さ〜い」

 管の先にある真っ赤なガラスの塊りが『ぷくぅ〜』と膨む。均等に吐く息の調整をしながらクルクルと管を回して、回して、回して。

「ストップ!」

 すかさず男の手に今まで持っていた管を渡す。

 男は受け取ると器用に管をクルクルと回しながらまだ柔らかいガラスの表面を整えていく。

 暑さでジュわ〜と蒸気が漂い、更に蒸し暑い室内の中で私は男の手元を凝視する。カンカンと不思議な形のハサミをあてて管とガラスの塊が分断され熱々のグラスが台の上に置かれた。

「うん、今まで1番良い出来なんじゃない?」

 男はそう言いニカッと白い歯を出して笑う。

「はい、ありがとうございます!()()さん」

 草間(そうま)と呼ばれた男は更に笑を深めた。



***



 ここは雑貨屋の2階。ずらりと棚が並びその棚には色々なガラスや陶器の作品が並んで置かれている。その一画に申し訳程度の机があり綺麗な模様の入った切子グラスに冷たい緑茶が注がれていた。

「それにしても、本当にあれから毎日くるとは思わなかったけど……素質はなくはないかな?お嬢さん」

 相変わらずの黄色のサングラスにジャラジャラとしたシルバーのアクセサリーを付けたこの男。

 元・切子職人で現在アジアンショプの職人兼店長“草間颯人(そうまはやと)"異世界に来て5年目、私の異世界での先輩になる。

「お嬢さんはやめて下さい……瀬奈です」

「はいはい、瀬奈ちゃん」

 通っているうちに私のポンコツ具合に気付いた草間さんは、お姉さん呼びからお嬢さん呼びになり今では()()ちゃんときた。

「……今日は生徒さん居ないんですか?」

「うん、そろそろ感謝祭の時期だからねそれが終わるまではチラホラとしか来ないかな?俺と2人っきりだからって襲わないでね」

 軽いウインクを投げてくる草間さんはスルーして、話を元に戻す。いつもなら工房教室の生徒さんが何人かいるのだが今日は全然見かけない。

「感謝祭ですか?」

「ん?ああ〜、瀬奈ちゃんはまだ来たばっかだったね。ラルミノ国のこの商業地区は今時期から短い梅雨入りになるんだ」

「梅雨、ですか?」

「そっ、商業地区と言っても色々とあると思うけど南には海と港があり海鮮が豊富だし東側の平野部では農業が盛んなんだ。必然的に食関係が強くなる、だから短い梅雨の間にこれから来る暑さで植物や人、海なんかが荒れないように豊穣の女神がこの土地を通過する間は祭をして感謝するんだって」

「なるほど」

「ちなみに、感謝祭をやらなかった年が昔あったらしいんだけどその年は大洪水に日照りに間伐で女神様の怒りを食らったらしいよ」

「それは……是非ともちゃんと感謝しなきゃですね」

「そうそう、あっ!お客さん来たみたいだからちょと下行ってくるケド……」

 草間のサングラスがキラリと光る。

「分かってます、ここから動きませんから」

 私は慌ててそう言ってから改めて室内を見回した。人が1人ギリギリ通れるくらいの隙間を残して後は作品の入った棚だらけ。以前、棚の作品を見ようと歩き回っていたら棚にぶつかりあわやの大惨事になる所だった事が何回かあり作品部屋の室内の1人歩きは禁止されたのだ。

「あっ、あの作品綺麗〜」

 セナの目に留まったのは竹細工で出来たランタン。細かく彫られた模様は花菖蒲。光を灯したら綺麗な陰影になるんだろうなと思う。

 私はふと自分の手を見る。今日は火傷もなく無傷で帰れそうだ。最初は酷かったな〜。でも……。

 机に置かれたグラスを手に取る。綺麗な紋様の入った切子細工のグラス、私がここに通うきっかけになった物だ。



 自分用の小物を買う為に寄った雑貨屋で私は悩んでいた。

 素晴らしき肉球パラダイスのガラスボウルと鑑賞様の肉球の箸置き。

「う、う〜ん」

 いや、そもそも今日は自分用のグラスやその他諸々が欲しくて来たんだし……。ちなみに、先日の除草作業と言う名のただの草むしりでネル君からお駄賃を頂いた。

 チラリと横を見ればガラス製品以外で陶器で出来た物もある。

(あっ!この器可愛い。角に猫の足跡が良い!あっ!これも……どうしよう可愛いすぎ)

 目移りしながら右往左往していると、背後から笑声が聞こえた。声の主はここの店長さん。

「クッ…クックッ…いや、笑つもりじゃなかったんだけどお姉さんも相当猫好きなんだな〜と思ってつい」

「あっ、あ〜〜……はい」

 セナの顔が照れと恥ずかしさで赤くなる。

 普段使い用で普通の小物、雑貨を探しているはずなのについつい"猫"に目が行ってしまうのはしょうがない。

 だって、猫様が好きだから!普段ならそこまで悩む程でもなく気に入った物を一つ購入して後は実用性のある物を!なのだが、いかんせんここの店の猫グッズは実用性もあり尚且つ!私好みの猫様が多くて……。

「………可愛い過ぎて……今日は選べないかもです……」

 私の手元には数多の猫様グッズで溢れそうになっていたが、私の懐はそこまである分ではない。厳選に厳選を重ねて選ぶのが猫愛!!

「………………ブフッ!」

 店長さんの笑い声。聞こえてますよ。

「セッ、セナ様……本日は私からのプレゼントと言うことでどうでしょうか!?」

 ネル君が甘い言葉を掛けてくるが。

「……自分の好きな物は自分で買いたいので……」

 私は猫様グッズを元に戻し、別の商品棚の前に立ち丸味のあるガラス細工を一つ取る。

「セナ様……よろしいのですか?」

「うん、最初に見てこれは買いって決めてたから」

 セナが手に取ったのは切子細工の小さなランプシェード。最近ではお酒を飲む為以外の切子ガラスが流行っていると、なんとなく見ていた動画のニュースでみた事があった。伝統工芸の職人も時代に取り残されないように日々、試行錯誤して自分流の紋様を入れたりするのだとかで柔軟な考え方をするその職人さんの動画は面白くて見ていた記憶がある。

 私が手に取ったランプシェードは紋様も派手でなく繊細で細かい蔦模様。咲きかけの花と蕾が磨りガラスで表現されている。色味もほんのり緑色とクリアガラスのグラデーションが入っていて綺麗だなと思った。

お屋敷の灯は全て魔法で制御されているし必要は無いかもしれないけど、あとで蝋燭や光源の代わりになるものがないか聞いてみよう。

「切子ガラス紋様って、職人さんが一つずつ手作業で行っているって聞いたことがあるのでもしかしたらコレはこの世界に一つだけかもしれませんよ?それに、後で後悔しないように一目惚れしたら買うことにしてるんです」

「……なるほど、それは面白い買い方かもしれないですね」

 ネル君が私の手にある切子細工のランプシェードを見ながらふむふむとしている。

「でしょ?」

せっかく貰った貴重なお金を使うなら、最初は手元に残る物が良かった。この異世界に来て数ヶ月。与えられた居場所に()()()()が欲しいと思っていたので、お持ち帰りしたい物に出会えて良かったと思う。

「では、お会計に……セナ様?」

 付いて来ないセナに不思議に思いネルは振り返り。

「アレ、足が……猫様のオーラに絡みついて」

 ネルの目にはセナの後ろ髪が猫達に絡まっているようにしか見えないのだが。

「……セナ様、つぎ…!?」

 ネルが次の言葉を発する前に別の声で被せられた。

「良かったら、この店。奥で体験工房やってるんだけど見てく?今、丁度窯から器を出す作業してるんだ」

 店長さんからの突然のお誘いだった。

「えっと……」

 ちらっとネル君の方を見るとニッコリと頷きどうぞと促してくれた。


 私達はお店から外に出て裏に回る。裏にはいくつかの小屋があり更に奥に歩いて行くと、窯があったであろう場所に数人の子供がせっせと作業をしていた。

「おや?ハーフエルフの子供達ですね。こんな所で会うなんて珍しい」

 ネル君がボソリとそう呟いたのが聞こえた。

 ハーフエルフ……あの子達が。偏った知識とこちらにきてからのネル先生の指導のお陰か驚きはないものの実際にはまじまじと見てしまうのが人間の性か。

(本当に耳が長い!)

「あれ?お姉さんはハーフエルフ初めて?」

 私がじろじろと見ていたのに気づいた店長さんはそう聞いた。

「はい、まだこちらに来てから日が浅いので……ジロジロ見ちゃてごめんなさい」

 私はペコリと頭を下げる。

「ふ〜ん………異世界人?俺もそうだよ。初めてはつい見ちゃうよな?『本当に耳長え〜』ってさ」

 店長さんは軽めのウインクで気にするなと、私の頭をポンポンしながら歩みを進めて行く。

「それにあの子達はああ見えて俺達なんかより全然歳上だし大人だから、変な目で見てる分じゃないって分かってるよ」

 そう言って、ハーフエルフの子達を紹介してくれた。

「ええ〜左から1号、2号、3号だ。今、通い弟子で俺の所で預かって……っう!!」

 3人の紹介と共に3人から脛を蹴られた店長さんは涙を浮かべ地べたへと踞る(うずくま)

「だっ、大丈夫ですか?」

「だっ、大丈夫!いつもだから………体験工房の見学に来た人だから、今焼き上がったのを見せてあげて下さい」

 なんか、上下関係が見えた気がしたけど気づかない振りした方が良さそう。

 ハーフエルフの子達は窯から焼き上がった器を近くの机へと並べて行く。薬剤をまだ塗布していないので器はまだ白っぽく灰まみれだったけど見ていて面白い。

「あっ、これ面白い。うさぎかな?」

 丸いホルムと正面に小動物の顔……の、様な模様と細長く耳みたいなのが両側にテロンと垂れている。

「……違う、それは花瓶」

 ハーフエルフの1人がそう答える。

「あっ、ごめん。白っポイからそう見えただけだったかな〜?じゃ、じゃぁ〜この蛇?躍動感があって今にも動き……」

「……それは、皿」

 えっと、どうしよう。変な汗が流れ出てくる……。

「プッ、……いや、気を使わなくても大丈夫なんで。ハーフエルフなのにコイツら芸術センスが壊滅的にぃぃっ痛っでぇ!?」

 店長さんはハーフエルフの子達から連続脛蹴りをくらっていた。

(そっか、エルフは手先が器用ってイメージはあったけど不器用な子達も居るんだね)

 私は内心ホッとしつつも他にどんなのがあるのか残りの作品を見ていく。その中に花の絵が書かれた平皿の器があった。

「あっ、これは綺麗に書かれてるね……えっと、確か名前は……」

「花菖蒲」

「そうそう、そんな名前の…」

 そう答えたハーフエルフの子は他の2人より少し大人びて見え、そして何故か悲しみを湛えた瞳をしていた。

 良く見れば特徴的な長い耳と肩で切り揃えられた金色の髪。前髪は細い眉の辺りで揃えられ少し吊り目の薄緑の瞳に真っ白な肌に薄い小さな口元。

 まるで童話の中に出てくるような王子様みたい。

(うん、もう少し大人になったら陰のある儚げな美人王子様でモテそう)

 そんな事を考えていると肩をぽんと叩かれた。

「!?」

 ニッと笑う店長の片腕には俵抱きにされたハーフエルフの2人。なんかぐったりしているが大丈夫だろうか?

「もし良かったら、体験工房やってみない?」

「いえ、私は……」

「毎日じゃなくても大丈夫!作品でも作りながら自分の好きな()決めても良いんだよ?」

(好きな()……)

「それに体験してくれたら生徒さん価格にも出来るけど?」

(うぐぐっ………でも、私は無職の居候の身。私が決めても良い事じゃないし、それに次はいつ来れるかなんて……)

 何となくネル君の方を見てしまったらネル君もこちらを見ていたらしく、目が合う。

「……少しの間なら良いんじゃないでしょうか?」

「えっ?」

 ネル君がそう答える。予想外の答えに先程買ったばかりのランプシェードの入った紙袋が手から離れてしまった。

「あっ…!」

 それを器用に受け取りセナへと渡すのは、もちろんネル君だ。

「……セナ様の勉強のお時間が始まってしまったら中々自由時間もありませんし、お屋敷からも出られないでしょうから今のうちに気分転換しておくのは良いかもしれません」

「えっ!?」

 またもや予想外な発言にセナは固まる。勉強始まったら軟禁状態になるって遠回しに言ってるように聞こえるんだけど?

「ああ〜うん、……お嬢さんは大変だな」

 ポンと、肩をまたもや店長さんに叩かれる。

「ええっ!?」

 しかもなんか店長さんから同情の眼差しもらってるんですけど?

「但し、条件があります」

「ほう?」

()()()()()()()()と言う事はお分かりですね?送り、迎えは勿論のこと護衛も見えない所で待機させて頂きます」

「まぁ、こちらとしては太客出来そうで願ったり叶ったりなんで構わないケド……」

(なんか話しが勝手に進んでるんですが?)

「工房体験の諸費費用は……」

 うん、本人そっちのけで話がはじまったわ。ふと、視線を感じて振り返ればいつの間にか解放されていた3人のハーフエルフの子達がジッと私を見ていた。気づいた私に1人の子が服の裾を引っ張る。

「な、何かな?」

「体験来るの?」

「う?うん、たぶん」

 体験って言うから1日なものだと思っってたけど、期間的な方の体験教室なのかな?

「ふ〜ん」

「?」

「名前は?」

「えっ?名前?瀬奈、紅野瀬奈だよ」

 私は目線を合わすように座りそう答える。

「セナ?」

「セナ!うん、覚えた」

 なんだろう、多分一番上の子以外の2人は見た目よりも幼い感じがする。三つ子みたいな感じだけど違うのかな?ハーフエルフの子達にそんな感想を思いつつ、ネル君が私を呼ぶ。

「店長さんとの話は終わったんですか?」

「はい、交渉は終わりましたので帰りましょう」

 ん?交渉とは?

「それでは草間様、明日からセナ様を宜しくお願いします」

 ネル君が深々とお辞儀をし私を通りまでエスコートして行く。そんな2人の後ろ姿を見送りながら店長こと草間颯人は。

()()()()()()()()

 そう呟いた。

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