イケメンはごめんなさい!!10
目の前にアイスコーヒーとホワイトチョコを削って雪のドームみたいになったケーキが置かれた。
案の定、お店の扉を開けたら女性が好きそうなスイーツがガラスケースに並び甘い匂いで誘惑してくる。
誘惑されたらしょうがない。応えてあげなきゃね!って、事で頼んでみたけど案内されたのは2階の個室。確かに、入る前に個室があるとは聞いていたけど秘密部屋みたいな所に案内されるとは思わなかった。
下の階にもテーブル席はあったけど……。
「リアム様はここのお店の常連様ですので」
と、店員さんに言われたけど。何で?
「コレですよ」
ネル君が赤紫のスカーフと白銀の薔薇のカフスを指差す。この2種類はラルミノ国ではリアム様のトレードマーク的な物だと言う。
銀に近い薄紫の髪、ワインレッドの瞳を持ち王様から下賜された花は薔薇の花。リアムの所属する騎士団もリアムが率いている為『白銀騎士団』と呼ばれている。国内外でも知らない者が居ない程の人気ぷりだとか……。
セナが感じた街での視線はコレが原因かと気付くがもう遅いだろう。噂って言うのは足が早いからね。それに商業地区だなんて情報伝達はやそうだし。
とりあえず、そこは置いといて目の前のケーキを頂く。フワフワのホワイトチョコとスポンジ、食べ進めると中央から甘酸っぱいベリーソースが出てきてそれがまた美味しくて手が止まらない。
ペロリと完食し食後のアイスコーヒーで口の中を整える。
たまに食べるスイーツは良い物だと思いながら満足顔でいたら正面向かいに座るネル君がニコニコとこちらを見ていた。
「……な、なんでしょう?」
「いえ、スイーツはお嫌いって訳ではないんですね」
「?嫌いではないです……ね?」
「ほら、お屋敷での食後のデザートに出していたのを残されている事があったのであまりお好きではないのかと……」
(ああ〜うん、確かに何度か残したことはあったけど……朝昼晩の食後と午前と午後のお茶の時間に毎回出ていたから流石に私でも手が出ない時もあると言うか……)
「嫌いではないですが、たまにくらいであれば……あはは」
ランニングは頭を空っぽにする為でもあったが、そんな食事事情もあったりした。
「たまに、ですね?分かりました伝えておきましょう。ちなみにですが次回のご希望などは御座いますか?」
(希望かぁ……)
昨日、今日と少し暑かったしそもそもこの世界にも夏とかの四季はあるのかしら?あるのであれば旬な食べ物が食べたいかな。
「こちらの世界には四季はあるのですか?」
「ええ、ラルミノ国内は比較的ある方ですね特に中央から東側、東の大陸方面に向かえばより四季がハッキリと感じられると思います」
「成程、……なら一つお願いしても良いですか?」
「ええ、どうぞ」
カランカランと言う鈴の音と甘い匂いと女性たちの高い話し声。それと2階から降りているだけなのにチラチラと刺さる視線を後にし向かったのは私の希望の雑貨屋さん。
「本当に宜しいのですか?」
「ん?ああ〜、気にしないで下さい。このくらいであれば絆創膏貼っとけば直ぐに治りますし」
申し訳なさそうに見上げるネル君にニッコリと微笑み返す。先程の店で私が靴ズレしている事がネル君にバレてしまい、魔法でちょちょいと直そうとしてくれたのだけど私にはまだ魔術耐性がない事から断った。
耐性が無い状態でぶっ倒れた私の知らない3日間がどんなモノだったのかは誰も知らないし、ネル君も何も言わないので私としても不安でしかない。念の為そう断ったらアッサリと引いてくれた。代わりに塗り薬をサッと作ってくれたのはありがたいのに、何故か余計に不安になってしまうのはどうしてだろう。
スイーツ店から歩いて20分程の場所に雑貨屋さんはあった。しかもそこの店主は数年前にこちらの世界に落ちてきた異世界人だと言う。
メイン道路から一本路地に入って直ぐの場所にあった雑貨屋はアジアンテイスト強めのお店だった。
「なんだか見たことあるお店感が懐かしいと思っちゃいますね」
「セナ様の元の世界ではこう言ったお店には良く行かれたのですか?」
2人でお店の前に立ち、店先に売っている商品を物色。主に肩から掛けるタイプの鞄や袋、少し前に流行っていた風呂敷もどきみたいなのもある。ご丁寧に、折り方の見本まであった。
「一時期、お香なんかにもハマっていた時は良く行きましたけど普段は何となく入るくらいですかね」
「なるほどなるほど」
頷きながら何かメモを取るネル君を横目に私はお店の扉を開けた。フワッと香る独特なお香の匂いと中は予想通りが半分と予想外が半分だった。
店の外は既視感のあるアジアン雑貨で中もアジアン雑貨が半分あり、もう半分はガラス製品が置かれている。
インテリアから日常品と多種多様。ガラス製品はどちらかと言うと日本寄り。透明なのもあれば陶器で出来た湯呑みもある。久々に見た日本感に少しだけワクワクした。
「わぁ〜可愛い」
手に取ったのは透明なガラスで出来た肉球セット。しかも色が着いた物もあって余計楽しい。
「……セナ様は肉球がお好きなのですか?」
「はい!猫ちゃん達の肉球って最高ですよね!あっ!これなんて長毛種の子ですかね?肉球の隙間からの長い毛の感じがリアルで可愛い」
私が肉球パラダイスで喜んでいると。
「あれ?お姉さん見ない顔だね。ここは初めて?」
若い男性の声が店の奥から聞こえ振り返れば、クルリとしたクセのある茶髪に黄色のカラーの入ったサングラスをかけ白い歯が眩しいチャラ男風イケメンがそこに居た。
「………………あっ、はい」
指にはゴツい指輪が沢山、ジャラジャラしたネックレスにピアスもいっぱい付いている。あまり関わった事のないタイプの人間に一瞬フリーズした。
「お姉さんは猫好きな人か……じゃあ、こんなのもあるけどどうかな?」
チャラ男はチャラ男らしくニカッと笑うと、何処からともなく大きな物を取り出した。
「……!?こっ、これは!?」
チャラ男が出したのは透明なボウル。しかしただのボウルではない。猫好きなら誰でも知っているあのボウルである。
「お察し通り!キャットタワーに着いてる猫ちゃん達が寝る場所のガラスボウル。ほら、ここ下から見てご覧」
チャラ男が見やすい様にボウルを上にあげてくれたので下から覗きこんでみたら、更なる奇跡の御御足が見えるではありませんか。
「はわわわ〜」
猫ちゃん本体がいないのに何故か肉球の後だけがボウルの底にくっきりと出ていた。
「なっ?面白いだろ?」
ボウルの上からニカッと笑うチャラ男に肉球効果でちょっとだけドキっとしてしまう。
「はい!これを考えた人天才です!」
鼻息荒くそう答えるセナ。そう何を隠そう無類の猫好きである。猫カフェで猫様に踏まれたい願望の熱い視線を送る程の猫好きさんのセナをチャラ男は笑いながら見ていた。
「はは、天才か持ち上げすぎたろ」
「いえ!猫ラブベストフレンドの称号をあげたいくらい猫好きだと思います。この、下から肉球を眺めたい願望を作ってしまう人なので願望に直球な天才だと思います!」
「……願望に直球ね、そうなれたら良いんだけどね〜」
ぽりぽりと頬を掻く仕草をチャラ男はした。
「?」
「でも、ありがとうお姉さん」
「??」
「作ったの俺だから」
「「えっ?」」
私とネル君の声が奇跡的に重なる。
「俺、ここの職人兼店長の草間颯人ってんだ。宜しくお姉さん」
チャラ男臭たっぷりの笑顔で手を差し出され、つい握ってしまったのだった。




