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7 前門の『餌』か後門の『日陰者』


と、そこで――わたしは我に返った。


わたしは首をブンブンと振ってから、冷静になってこほんと咳払いをした。

(『スパダリ』?そんな訳が無いでしょう)


ちゅーちゅーと生気を吸う為に、嫁に若い女性を自分に嫁がせようとする男(少年だけど)のどこにスパダリの要素があるというのだ。

(あまりの自分の待遇の良さに、一瞬、我ながらおバカな勘違いをするところだったわ)


わたしは『ありがとうございます』と丁寧に侯爵閣下へと言って、エスコートしてもらい、馬車のタラップを降りた。


美しく舗装され整えられた石畳の噴水広場と言われるところは街の中でも大きく開けた一画らしい。

大きな噴水と緑を中心に街の人々の憩いの場所になっているようだった。


モルゴール少年侯爵閣下は、わたしを見上げてニッコリと微笑んだ。


「今回行く婦人服の店は、少し狭い道に面していますので、差し支えなければ僕と少し歩きましょう。馬車が入れないわけではありませんが、商店街を歩く沢山の通行人の邪魔になりますから…いえ、ほんの僅かな距離ですよ」

「はい、分かりましたわ」


わたしは頷いた。

少し歩いた方が侯爵閣下との話の間が保てていいかもしれない。


「…では、どうぞ」

侯爵閣下は、わたしへとまた優雅に手を伸ばした。


「…あの?」

疑問符を付けて小首を傾げたわたしへ、少年侯爵閣下はまたニッコリとした。


「エスコート致しますよ。キャロル、手を貸してください」

「ふぁ?……は、はい…」

 

 +++++


商店街の大通りの中は人通りも多く活気に満ち溢れている。

王都の目抜き通り程では無いが、驚く程多くの人々が往来していた。


少年侯爵閣下は、わたしの手をがっちりと『確保する』と言わんばかりに繋いでいて

(ああ、もう…多分今日は街の探索は無理だわ)

と、わたしは半分諦めモードになっていた。


時折魔物系の血の混じる人々が、ごく普通に往来を歩いているのに気付いたわたしは、侯爵閣下へと尋ねた。

「ここでは街の人々も魔の血が入っている事が多いのですか?」

「…そうですね。王都に比べればはるかに多いですね。似たような境遇の者達が集まっているので、商売も居住もしやすいのでしょう」


侯爵閣下はわたしを見上げてにっこりと笑った。

「実は君には…今後領主の妻として、このような民と共に暮らす事になると知って頂きたくて、ここを少し一緒に歩きたいと思ったのです」


「…そ、そうでございますか…」

『うわわ~!ムリ~!』

と、わたしは心の中で思いっきり叫んだ。


(無理!やっぱり無理!魔女の血が入っているからって、こんな魔物混じりの人々ばかりの所で、魔力も何も無いわたしが奥様なんて出来る筈が無いじゃないの~!)


魔物が入っている人を差別すると云うよりは、『何の力も無いごく普通の自分ではたして大丈夫なのだろうか』という不安の方が大きい。


『餌』として大人しくここに留まり、半魔の人々が多く暮らす領地の妻になるか、それとも実家とこの少年侯爵閣下のメンツをぶっ潰す覚悟で、(一生罵られるだろうが)ここから逃げ出して、ひっそりと身を潜めて生きるか。


前門の()、後門の(日陰者)みたいな究極の選択ではある。


商店街の表通りには、幾つかお洒落な店構えの婦人服の店も立ち並んではいたが、お目当ての店ではなかったのか、侯爵閣下はどんどんスルーしていった。


「少し奥まったところに店がありますから」

わたしの表情を読んだのか『ラインハルト』は説明をしてくれた。


様々な店が立ち並ぶ通りをわたしと閣下とメルとメロで歩いていると、ザワザワと周りで声が上がる。


「おい…ダニエル様じゃないか?」

「あれ?…本当だ」

「どうしたんだ?あの御姿、すっかり子供に成っちまって…」


「おいおい…隣に居るガタイの良い令嬢はどなただ?」

「いや、知らん…どなただろう?でも見ろよ。手を繋いでいるぞ」


(いえ、もう…止めて欲しい)

こんな風にみんなに注目されるのも、改めて手を繋いでいるのを指摘されるのも恥ずかしいし、何故か…そう、居たたまれない気持ちにもなってしまう。


わたしが繋がれた手を外そうとしたのが分かったのか、侯爵閣下は、わたしの手を更にぎゅっと握って離さない様にした。


「駄目です、キャロル。僕の手を離さないで」

そして、前を向いたままわたしに尋ねた。


「…僕と手を繋ぐのが、恥ずかしいですか?キャロル」

「…は…はい。ええと、すみません…」

「謝る必要はありませんがありませんが、教えてください。

何故ですか?僕の姿が子供だからですか?」

「い…いえ。わ、わたしが…侯爵様に、釣り合わない気がしますし…」


「釣り合わない?」

わたしの言葉に驚いた様に侯爵閣下はわたしを仰ぎ見た。


「ええと…わたくし、どうやら…ふ、不健康(子豚)ですし…」

しどろもどろのわたしの言葉に納得した様に、侯爵閣下は頷いた。


「ああ、成程。でも大丈夫ですよ。それを今日はきちんと視て貰いにいくのですから」

「は?…み、見て貰う…?」


わたしの質問に侯爵閣下は答えてくれたけれど、その言葉の意味がさっぱり分からない。


(一体どういう事なの?わざわざ子豚体型を見てもらうと云う事?)

それともダイエットプログラムを指南してくれるとでもいうのだろうか?


「…ふふ、マダム・オランジュはその道のエキスパートですから。

きっと君の不健康の原因を見抜いてくれる筈ですよ」


わたしの顔を見上げながら『ラインハルト』は何故か今度は妖しく笑った。

お待たせしました。


読んでいただきありがとうございます。<(_ _)>

ブックマーク・評価いつもありがとうございます!


次回投稿予定は明日6時になります。よろしくお願いします。


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