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30 美味しい子豚令嬢の頂かれ方

お待たせしました。

最終話です。


今まで読んで頂きありがとうございました<(_ _)>

それから事件は――超特急で解決へと導かれた。


わたしはその後の報告をダニエル様から聞いたのである。


どうやらレティシアはイーデン家を離れる際に、皆に『眠りの呪い』をかけて出て行ったらしい。


イーデン家の異変とレティシアの姿が見えなかった事で、ダニエル様の送った優秀な密偵はすぐさま聖騎士教会を訪れ、領地を担当する神父に現状報告をした。(それと同時にダニエル様にも連絡が来たらしい)


イーデン領を管理する神父は実家を訪れ、イーデン家全体の掛かっている魔法を確認すると直ぐに、近くの領地から仲間の神父等を数人呼んだ。


数人体勢で、実家にはびこるレティシアの呪いの魔法を時間を掛けながらも解き、お父様を始めとした屋敷の皆を有り難い事に救出してくれた様だ。


その話を聞いたミハエル神父様は、直ぐに『ちっ』と小さく舌打ちをした。

「ったく…無能め。俺なら一度で解呪するのに…」


そう言った途端、隣に立っていたマダムの腕がにゅっと上に伸びて、ミハエル神父の耳を思い切りグイと下向きに引っ張った。


「あいっ…て!…」

「貴方のその傲慢さが聖騎士団を退団する原因になった事を忘れている様ですわね」


ぎゅうぎゅう耳朶を掴みながら、しっかりとした口調で釘を刺す少女の姿のマダム=オランジェとミハエル神父の姿は、一見親子(父・娘)にも見えるのが実際と違っていて面白い。


 +++++


それからなんと――わたしの実のお母様が生きていたのだ。


我が家の領地の端っこで見つからない様にしながらも、東屋の様な所で人目を忍んで生活していたのだという。


レティシア(=ライラ)に居場所を特定されて、黒いヘドロの攻撃で家ごと凸されていたのだが、最後の最後で何とか自分の命だけは守っていたらしい。


もう瀕死に近い状態だったのを、奇跡的なタイミングで戦地から王都へと戻る途中の聖騎士団の騎士の一人がその場へ駆け付け、あっという間に一人で退治してしまった。


ミハエル神父の以前の職場の同僚に当たる方だったのか、珍しく悪態も付かず

「…まあ、ガブリエルなら出来るだろう。あいつは『千里眼』だから」

と、ちらりと云った。


わたしには『千里眼』が何の事なのかは分からなかったけれど。

彼は聖騎士団の中でもかなりトップの方らしく、とても幸運な事だったのだ。


取り敢えずわたしのお母様もそのまま教会付きの診療所へと運ばれ、体力の回復を待ちながら呪いの治療を受けているらしい。


そんなこんなであっという間に、モルゴール邸で過ごす数か月が経ってしまった。


 +++++


モルゴール城の周りの庭園は、意外にきちんと手入れされている。

今は庭の至る所で、棘の鋭い真っ赤で美しいバラの花が咲き乱れている。


時折全身包帯を巻いた巨体の庭師が出没するけれど(この間初めて遭遇して大絶叫してしまった)もう今は大分そんな事にも慣れっこになった…と云えるのではないかしら。


『なるべく歩こう』と引き続きダイエットを兼ね、とことこと庭園内を散歩をしながらわたしはお目当ての場所まで歩いた。


中庭には優美な造りのガゼボがあり、小さなテーブルと椅子が置いてあって、そこなら屋敷の人目を気にせず心置きなくわたしの好きな小説を読めるという訳だ。


わたしはガゼボの椅子に座るなり、懐からサッと小説を取り出した。


「ラインハルト…久しぶり…」

表紙には、銀髪と黒髪ツートンの美少年と優美なお姉さん系令嬢が、指先が触れそうで触れない位置に佇む絵が描かれている。


実家から持ってきた小悪魔系美少年と美少女ヒロインの恋物語である。


屋敷の中で夢中で読んでいると気配も無くダニエル様が後ろに立っている事があるし、そろそろわたしの眠る場所も『自室から夫婦の部屋へと変えよう』と話が進んでいるので、一人で夜ベッドに潜り込んでの『ぐふふ』妄想時間が無くなる可能性があるのだ。


「ああ~ラインハルト…やっぱりかわカッコいい。きゅんきゅんしちゃいますわ」

わたしは中庭にあるテーブルの上にでんっと突っ伏した。


この恋愛小説を表紙が擦り切れそうな程読み返してはいるけれど


「ううん…間違いなくツンデレ男子最強説はありますわよね…」

何と云ってもツンがデレる瞬間が最高で何回も読み返してしまうのだ。


そうしみじみ思っていると、ふと作中に登場するツンデレ少年ラインハルトに妙に既視感のある人物が思い出した。


(んと…あ!ミハエル様だわ…!)

3倍くらい年をとっている気もするが、あの美形と口の悪さとツンぶり…ラインハルト少年に似ていると云えば…似てるかもしれない。


(最初出会った少年のダニエル様がビジュアル的にはそっくりだったけれど、完全に青年に戻ったダニエル様は、もっとストレートに優しくて紳士的な性格だったから…)

惜しいかなツンデレというにはちょっと無理がある。


(まあ、でも…)

現実問題どんなに顔が良くてツンデレでも、ミハエル神父の様な若干(?)エグめの性格だと普通に地雷を踏みまくって、お相手になる女性の方の心労は絶え間ないだろう。


(教えてくれるかは分からないけれど、今度マダムにあったらさりげなく『ミハエル神父がデレる瞬間があるのか』聞いてみようかな…)


「ミハエル神父もマダム・オランジェの事も会えば憎まれ口を叩きながらもきちんと『師匠』として慕っている様だし。ええ、そう考えると…なんかいい…」


(エモいわあ…)

思考が思い切り腐女子の妄想のそれに入ったまま、『ぐふふ』と含み笑いそうになった――その時だった。


「…キャロル?ミハエルが何ですって?」


ガゼボの椅子に座ったわたしの真後ろから、妙に優しいトーンのダニエル様の声がしたのだ。


 +++++


「ふぁっ…!?」


びっくりして後ろを振り向くと、ダニエル様が今庭で切ったばかりと思しき真っ赤なバラを小脇に抱えていた。


白い繊細な刺繍の入ったドレスシャツに真っ赤なバラの取り合わせは、艶のある黒髪で端正なダニエル様の容姿と相まって、目の前に突然正統派王子様が現れたかの様だ。


「…あ!ダ、ダニエル様…!?どうしてここに…」

「邸内と夫婦の寝室に飾るバラの花を選んでいたのです。ほら、綺麗でしょう?」


わたしは慌てて椅子から立ち上がり、持っていた小説をそのまま背中へと後ろ手で隠した。

「寝室?…え?、あ、そ、そうですわね…」


ダニエル様は優美に微笑んでわたしをじっと見つめた。


「…ミハエルと…何かありましたか?」

「い、いえ、何も…何もありません」

「…本当に?本当に何もありませんか?」


ある筈もない。

ある筈ないのだけれど、ダニエル様から妙な圧を感じて、何故かわたしの額に冷や汗が浮かぶ。


「ほ、本当ですわ…ほほ…」

背中の小説は意地でも隠さなければ。


わたしとて、この年になってまで妄想小説に夢中になっている事をダニエル様に知られるのは…イタ過ぎる。


ダニエル様はそのまま抱えていたバラの花をガゼボのテーブルの上へと置いた。


「…僕はね、君が思っているよりもずっと嫉妬深いのですよ、キャロル」

そして一本だけ取り上げると、そのバラの花を持ちながらまたわたしをじっと見つめた。


「好きな女性から、僕以外の男の名前を聴くのは面白くない...たとえそれがミハエルでもね」

「ふぁっ...ダ、ダニエル様。ご、誤解ですわ…」


ダニエル様はそのまま『ふふ…』と意味深な笑いを浮かべ、話題を変える様に言った。


「それはそうと…さっき夫婦の寝室の片づけと、君の寝室を移す準備が終わったとハティ…執事から報告を受けました」

「…え…?あ…は、はい…?」

(寝室が出来た…?)


「…これから僕といっしょに部屋の様子を見に行きませんか?キャロル」


小首を傾げながら誘うダニエル様は、とても美しく魅惑的だ。


ダニエル様が持っているバラよりも真っ赤になりながら、それでもわたしはダニエル様の長い睫毛と黒い瞳に宿る甘い煌きから目を離せない。


これから子豚令嬢(わたし)は一体どうなってしまうのか?

そんな事はもう決まっている。


けれど。

たとえ美味しく頂かれてしまったとしても――とてつもなく甘く幸せな日々が待っているに違いない。

         

               ~Fin~

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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