26 稀有な血筋の生まれ
お待たせしました。
今回説明長くなりました。すみません<(_ _)>
「そ…そんな言葉で…怖がるわたしだと思っているの、レティシア…」
全身が粟立ち内心では怖くて仕方がなかったけれど、わたしは勇気を振り絞った。
本当に恐る恐るだがゆっくりと義妹の声のする後ろを振り返ったのだ。
そしてそこにいるモノを目の当たりにして、今度はまた恥も外聞も無く――ただただ悲鳴を上げ続けた。
「ひいぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ああ、もう…そのクソデカダミ声、本当にイライラしますわ。その音圧ときたら…全く何とかなりませんの?」
忌々しそうに呟いた――実家で見た時と同じレティシアの端正で美しい顔は、真っ黒なヘドロの中にあったのだ。
つまり、絶えず滴りおちる様なヌルンとした黒い液体が人型の形を作っている中、我が義妹の白い花の様な顔が、その流動性のある黒いヘドロに張り付けられたお面の様にぽっかりと浮かんでいるのである。
(やだ~!気持ち悪いよ~!!)
この場で腰を抜かさなかっただけ褒めてもらいたい。
わたしはその場から逃げ出そうとした。
けれど。
何故か足が動かない。
ハッとして足元を見ると、いつの間にか床一面にあの黒い粘っこいブルンとした液体が流れている。
(しまったわ…!)
もうすでに時は遅し。
周りを囲まれてしまっていたのだ。
しかも足首にあの黒ヘドロががっちりと巻き付いていた。
捕まれた足を持ち上げようともがきながら、わたしは叫んだ。
「は…放して!放して、レティシア!!」
「放しませんわ、お義姉様。もう逃がしません。回りくどいやり方をしたわたくしが間違っていました。イーデンの家にいる時に直接手を下しておけば良かった。そうすれば今頃…侯爵家から密偵が来るなんてなかった筈…」
(侯爵家の密偵…!?)
きっとダニエル様がイーデン家を探る為に送ったと云っていた人の事だわ。
フルフルと揺れる黒いゼリー状の人型の中で浮かぶレティシアの顔は、生きている人間とは思えないほど真っ白で表情が変わらない。
「でも仕方がありませんわ。あの時はお義姉様の母親の加護が思っていたよりも強くて、お義姉様への呪いが成就されなかったので」
わたしはぴたりと暴れるのを止めた。
+++++
「な…?お母様って…」
(わたしのお母様…?)
何故ここでわたしの実のお母様が出てきたのかさっぱり分からない。
(わたしのお母様はハンサム執事と愛の果てに駆け落ちしたのではないの?)
「…それ、どういう意味なの?」
わたしがそう言うと、レティシアの顔は口角をにんまりと持ち上げながら言った。
「実の娘にまでそう言われるのは…あの小賢しい魔女も草葉の陰で悲しんでいるでしょうね。娘を守る為にもあのイーデンの屋敷から出ざるを得なかったのに」
「む…娘を守るって、どういうこと…?」
当時まだ八歳のわたしを置いて家を出て行ってしまった事に少なからずショックと怒りを抱いていたわたしは、思わずレティシアに訊き直してしまった。
「ほほ…言葉通りですわ。わたくしがあのイーデンの屋敷の外から、少しずつ…貴女のお父様を始め従業員を全て取り込んで行く内に、力の弱い魔力しか持たなかった貴女の母親は気付いたのですわ。自分がとても太刀打ちできない魔力を持つ者が夫を誘惑し…イーデン家を乗っ取ろうとしていると」
(レティシアが、いえ...ライラお義母様がイーデン家を乗っ取るって...?)
わたしは呆然としながら、義妹レティシアであり、同時に義母ライラでもある魔女の話しを聞いていた。
「それを気づいた貴女の母親は、真っ先に自分の身が餌食になるだろうと危惧し、貴女が成長するまでの間、自分の身を隠しつつも貴女の身を守る為の魔法をかけ続けていたのですわ」
「...わたくしの身を守る...?」
(一体どういう事なの...?)
「ご存じ無いかも知れませんが、イーデン家は身分はただの伯爵家に過ぎませんが…実は稀有な魔力を引く家系でもあるのですよ。
ほほ…全く二ブちんのお義姉様には分からなかったとは思いますが」
義妹レティシアは『死ぬ前の最後の土産話』とばかりに詳しく語り出した。
+++++
「貴女やモルゴール侯爵家もご存じないと思いますが、実は貴女のお父様の血――イーデン家にはかなり特徴的な魔女の血が昔から流れておりますの」
「…ふぁ…?お、お父様…?」
初めて聞く話に思わずわたしは、真の抜けた返答をしてしまった。
(お母様でなく…まさか、のお父様…?)
そんな話は聞いた事が無い。
お父様だって『自分は普通の人間だ』ってずっと言っていた。
おまけにこの国の(モルゴール侯爵家の様な)爵位の高い名家で、魔物と混合した祖先からの血を受け継ぐ『魔力』のある家系ですら、ずっと『野蛮だ』と云っていた口なのに。
「ええ…魔力を持つ者を長年忌んだ家系でもありましたわね。
イーデンの祖先は、敢えて自分の血統の中に魔力持ちの血を混ぜなかったのですわ。その特徴的な血筋故に」
「特徴的…?」
「そうですわ。魔力の無い普通の人間にとっては全く意味をなさないのですが、イーデンの血は魔力を持つ者の遺伝子と出会うと、その魔力を強化し保管する働きの遺伝子が作用しますの。つまり貴女のお義父様は魔女の血を引くとは知らずに、貴女の母親と出会い――貴女を生んだ。
忌々しい事ですが…貴女はあの小賢しい母親の力を強化した魔力をお持ちなのですわ」
「…ま、魔力なんて…わたくし持っていないわ…!その証拠にイーデンでは何も出来なかったではないの…!」
わたしは思わずそう叫んだ。
だからこそわたしはイーデン家で、ほぼ召使の様に働くしかなかった無かったというのに。
「ええ、そうですわね。何かを為す為の魔力ではありませんから。だからこそここまで手こずってしまったのですわ」
「何かを為す魔力では無いって…」
(手こずったってどういう意味?それに実のお母様は?一体どうなってしまったの?)
混乱したわたしは、義妹レティシアの話しに一瞬恐怖も忘れ、身を乗り出して黒いヘドロに浮かぶ仮面の様な白い顔に向かって尋ねていた。
+++++
「幼い頃ならまだチャンスはあったのに…よもや、ですわ。
貴女の母親の加護の魔法の効果のみならず、貴女の成長と共にご自分で、そのぶくぶく太った醜い身体…その贅肉と共にしっかりと輝く生気を蓄え始めたのですわ。
しかもそのお肉に宿る生気は、忌々しくもがっちりとお義姉様自身をガードしていておりますのよ。
事故に見せかけた呪いすらも易々と跳ね飛ばし、その身を守る最強の銀の盾の様に」
最早わたしを褒めているのか貶しているのか分からない台詞を吐いたレティシアは
「分かったのなら、これでご自分の母親とあの世で仲直りできますわね」
と云ってニイッと不気味に笑いながら、マダム・オランジェの物らしいやたら大きな裁断鋏を黒いヘドロの中から取り出した。
「あ、あの世…?あなた…まさか、わたしの実のお母様を殺したの…?」
「ふふ…先日からずっと実家に帰っているとライラが言っていたのは、長年捜していた貴女の実の母親を今度こそ始末する為…これでやっとスッキリしましたわ」
(お母様が…お母様が…殺されてしまった…!)
「ひ、非道いわ!悪魔…!」
哀しみとショックで叫ぶわたしに対し、レティシアはさも心外と云った表情を浮かべた。
「失礼な。わたくしは悪魔ではなく、れっきとした魔女ですわ、お義姉様。それよりもご自分の事を心配した方が宜しくてよ?
なんとマダム・オランジェのこの鋏は、ドラゴンの皮膚や鱗までいとも簡単に裁断する事が出来るそうですわ。それがどういう意味だか分かります…?」
微かにオレンジの香りのするやけに大きな裁断鋏の金属が、何故だかギラッと鋭く光った様に見えた。
「この鋏はドラゴンの様な巨大な魔力のあるものすら…『チョッキン』と出来てしまうのですわ」
それはわたしの纏う生気の盾も簡単に『チョッキン』出来るという意味だった。
お待たせしました。
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