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20 魔法は解けて ①

大変お待たせしました。

自分の首筋に冷たくて鋭い物が当たるのを感じた瞬間――当たった部分の皮膚が熱くなる。


ほんの少しチクリとした痛みを感じた――と思うと同時に、わたしは激しい眩暈に襲われた。


視界が視界がグルグルと渦を巻いて、自分で自分の身体を支えられなくなりそうだ。


(座っているのに…倒れてしまいそう…)

ぐらりと傾きそうになるわたしの身体を、さっと力強い誰かの腕が支えてくれた。


『誰かしら』と思う間もなく次の瞬間、いきなり薄い紗幕が掛かったかの様な状態の自分の小さい頃の記憶の映像が頭の中に映し出された。


(あ…あれは)


あれは――わたしが八歳の時のある場面だ。


覚えている。


お父様に呼ばれてわたしが中庭へと向かうと、お父様が誰かお客様と楽しそうに談笑をしている声が聞こえた。


あの日確か――お父様が『これから新しいお義母様を紹介する』と、新しく義母になるという『ライラ様』という女性を、イーデン家へと連れて来たのだ。


お母様が家を出ていってから、直ぐの話しだった。

あまりの急な事態の展開に、わたしは幼いながらも驚いていた。


「実はな…お前には初めて紹介するが、これからお前の新しい母親になってくれる女性なのだ。仲良くしてやってくれ」


するとその女性は、スッとお父様の影の中から抜け出す様に姿を現した。


美しく金髪を結い上げたすらりとした女性が、わたしの目の前に姿勢良く立っている。


(そうだわ…思い出した)


わたしは直感的に――何故か『この女性が怖い』と思ったのだ。


流行のドレスを完璧に着こなしたその女性は、白いパラソルをさしていて、わたしを見下ろしたその女性の顔がは、靄がかかった様にはっきりと見えない。


彼女は、か細く柔らかな声でわたしへと云った。


「初めまして。キャロライン様。わたくし…ライラと申します。どうぞ仲良くしてくださいませね」


けれど次の場面で――わたしは目を見張った。

彼女の真っ赤な口紅を塗った唇が、声にはならずパクパクと動いたのだ。


『の・ろ・わ・れ・ろ』


真っ赤な唇がヌメヌメとした生き物の様に動く。

そして――いきなりその口の両端が、きゅっと思い切り吊り上がった。


わたしは呆然と彼女の顔を見上げ――小さく悲鳴を上げた。


(どうして忘れていたのだろう…?)


彼女は。

彼女の姿は。


義妹『レティシア』の姿だった。


 ++++++


「キャロル!危ない…!」


わたしの身体から力が抜けてぐらりと傾き、そのまま地面に倒れてしまいそうになる所を間一髪誰かの腕が支えてくれた。


「ごめんよ。やはり君に負担が大き過ぎた…大丈夫かい?キャロル」


はっと気が付いたわたしは、そこで『倒れない様に』とわたしの腕を引いてくれた人物の顔を見上げた。


わたしは驚いてしまった。

見た事のない、知らない人だったのだ。


「…ふぁっ…?」


(だ…誰、この人…?)

目の前にいる男性が、一体誰なのか分からない。


「…あの…?」

(誰…?)

「キャロル…キャロル、気分はどう?身体は大丈夫かい?」


心配そうな表情でわたしの顔を覗き込み、身体を支えてくれているのは、艶やかな黒髪に黒い瞳の――とても端正なつくりをした甘い顔立ちの男性だ。


(…え?誰かしら…?このヒト…)


何処かで見た事があるような気がしてけれど、私は思わず呟いていた。

「ダ…ダニエル様は…何処にいますの?」


今はそれよりもダニエル様は一体どうなってしまったのか…わたしは心配で仕方が無かった。


わたしの傍にあの少年のダニエル様の姿が無い。

銀髪の髪の少年――わたしが囲む様にして庇った少年の姿がすっかり消えてしまっている。


(わたしの生気で良かったのかしら?…十分に吸って頂けたのかしら?)

もしや――あのまま吸血鬼になってしまった訳じゃないよね。


生気を吸う為にダニエル様に歯を立てられたけれど、首のチクリとした痛みは今は無い。


けれど――自分の身体が異様に重く…怠く感じる。

そして、異様に眠い。


急に訪れた恐ろしい程の眠気に、わたしの頭は全く働かなかった。

瞼が重りを付けた様に重くて、そのまま意識が眠りの闇に転がり落ちてしまいそうだ。


「ダ、ダニエル様…ダニエル様は何処にいってしまったのれすか…?」


わたしは半泣きの口調のまま、辺りを見渡してダニエル様の姿を捜した。


すると小さくため息をついたミハエル神父が、呆れた様な口調でわたしを見下ろしながら言った。


「おいおい、どうやら…このお嬢ちゃんはお前の元の姿が分からんらしいぞ」


「ふぁ?…元のって…?」

(…元って何の事?)

そのまま意識が無くなってしまいそうな眠気に必死で逆らいながら、わたしはミハエル神父へと尋ねた。


すると目の前で膝まづく黒髪で黒い瞳の美しい青年は、わたしへと優しく微笑みかけた。


「キャロル…僕だよ」

わたしの肩をしっかりと節のしっかりとした長い指が掴んでいる。


「僕が…ダニエルだよ。肖像画を見せただろう?君のお陰でやっと元の姿に戻れたんだ」

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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