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16 『不健康』の正体 ②


「二人共外に出ろ」


空を見上げると、さっきよりも黒い雲がすごい速さで流れているのが見える。

何だかこのまま一雨来そうな空模様だ。


ミハエル神父に促されたわたしとダニエル様は教会の外に出た。

すると、教会の敷地内にある目の前のちいさな空地で、ミハエル神父が立っているのが見えた。


神父は空地をぐるりと歩きながら、持っていた酒瓶の中身を少しずつ開けて何か呪文をブツブツと唱えている様だった。


不思議に思ったわたしは、思わず疑問を口に出していた。

「あら?…あれは一体何をしていらっしゃるのかしら…?」


「あれはね。土地のあの部分を『彼の聖域』に変えているんです」

ダニエル様がわたしの質問に答えてくれた。


(え?…聖域?)

お酒を地面に垂らすだけで『聖域』になるの?

だって随分と何と云うか…お手軽過ぎじゃない?

「せ…『聖騎士』にもなると…そんな事までできる様になるのですか?」


わたしの質問にダニエル様は少し笑った。

「いいえ…いくら『聖騎士』と言えどもそんな簡単には出来ません。普通土地を完全に浄化するのには専用の道具を使い、数日掛けて行うものなのです。でもミハエルは強引で一時的でも…その場所を浄化しきる能力がある」


ダニエル様の言葉にわたしはため息をついた。

「やはりとってもスゴいお方なんですね…」


「そうです。()()()()()()()()()()()()()()()()よ」

ダニエル様はにっこりとわたしに笑った。


(ふぁ!?)

何か、今のはちょっと…聞き捨てならないわ。


つまり…そんなスゴいミハエル神父じゃないと、何か起こってしまったダニエル様は抑えられないって事じゃないの?


そんな事をわたしが思っている内に、ミハエル神父は土の上に持っていた剣の先で、驚く程精密で小さな魔方陣をあっという間に書き上げた。


 ++++++


「お嬢ちゃんだけこっちへ来い。それから…ダニエル、お前はもう少し後ろに下がっていろ。魔方陣の近くにいると、魔力を引っ張られてお前が苦しむぞ」


そう言うと指でクイクイと合図しながら、ミハエル神父はわたしを呼んだ。


「ミハエルを信じて下さい、キャロル」

「分かりましたわ…行ってきます」

わたしはダニエル様にしっかりと頷くと、ミハエル神父の描いた魔方陣の方へと歩いた。


神父は魔方陣の中央を指さしてわたしへ言った。

「この魔方陣の真ん中に入れ。それから何があってもそこから出るな、分かったか?」

「は、はい…分かりました」


わたしは頷きながらミハエル神父の言う通りに、土の上に描かれた小さな魔方陣を消さない様に、跨いでその中央に立った。


けれどわたしには、これから一体何が始まるのかさっぱり分からない。


「あ、あの…参考までに…これから何をするかだけ聞いてもイイですか?」

「あんたの回りの気味の悪い古い魔法を引っぺがす。ダニエルが言っていた『不健康』の正体だ。大方…強力な太古の魔女の呪いだけどな」


「ま…魔女の呪い!?」

(何?何なの…それは。わたしがずっと呪われていたって事?)


わたしはミハエル神父の話に口をあんぐりと開けた。

それが――『不健康』ってモノの正体だったの!?


「まあ、随分長い事あんたにくっついて熟成されている奴だ。十年以上はついているから、剥がした途端に直ぐにあんたの所に戻ろうとするだろう。だからその魔方陣の中から一歩も動くな。奴はその中には入って来れない」


(ふぁ!?も…戻って来る?嘘でしょ!?)

「も…戻って来たヤツは…ど、どうするんですか?」


「ああ?…だから俺がやるんだろうが」

めんどくさそうにミハエル神父はわたしに答えると

「――んじゃ、始めっぞ!」

と声を上げて、パンパンと両手を打ち鳴らした。


 ++++++


ミハエル神父が剣を持ちながら呪文を唱え始めると、魔法陣に掛かれた小さな文字が小さく金色に光り出した。


「ふぁ…」

(わあ…すごいわ。こんなの見た事が無い)


みるみるうちに魔方陣の文字から無数の金色の柱が立ち上がり、その中央にわたしが立つような状態になった。


(え…?わ、わたしどうすれば…)

ここで立って待っていればいいの…?


わたわたと焦りながら混乱している内に、金色の魔方陣がグルグルとわたしを中央にして回り始め、ドーナツ型に光った。


するといきなりわたしの身体の周りから、外に向かってグイグイと引っ張られている感覚が出て来た。


(あ…、きゃーっ!な、何?…何コレ!?)

自分の身体は回ってないのに、勝手に遠心力が働いて外に向かっている感じ。

決して物理的では無い、今まで体験した事のない不可思議な感覚だ。


「やだ、やだ!何か怖いってばー!!」


恐怖で思わず叫んで、わたしがぎゅっと目を瞑った瞬間、ふっと身体がいきなり軽くなった。


恐る恐る…ゆっくりと目を開けると、あんなに眩しかった金色の光の柱は消えていた。

わたしの回りの魔方陣の文字だけが薄っすらと浮かび上がる様に光っている。


(あ…あら?あの光は?何処に行ってしまったの?)


慌ててわたしが周りを見渡すと、近くに立つミハエル神父も、少し離れた所でわたし達を見守っているダニエル様も、何故か上を見上げて、じっと空を見つめている。


「ごくろーさん、お嬢ちゃん。あんたはもうそこから動くな」


ミハエル神父はわたしにそう声を掛けると、空を見上げながら、自分のもつ剣をいつでも鞘から抜ける様に構えていた。


(上…?どうして二人共、空を見ているの?)


わたしは同じように空を見上げた。

そして思いっきり――悲鳴を上げた。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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