15 やさぐれ神父は『聖騎士』で『監視者』
「『聖騎士教会』を聞いた事はありますか?キャロル」
ダニエル様はわたしを見上げながら尋ねた。
(…ダニエル様には申し訳ないけれど、分からないかも…)
『聖騎士教会』を聞いた事のなかったわたしは、ダニエル様にそのまま伝えた。
「ええと…『聖騎士教会』ですよね。すみません、世間に疎くって…よく知らないのです」
ダニエル様はわたしにとりなす様に言った。
「あ、いいえ、大丈夫ですよ。あまり女性の方はご存じないかもしれませんね」
「あの…王都の所謂『騎士団』とはまた違うモノなのですか?」
『騎士団』なら聞いたことがある。
オスティリア国王陛下の直属の大きな軍隊の様なものだ。
「少し違います。王都の普通の騎士団の中でも特に優秀で、『聖なる魔法』を使える騎士だけが『聖騎士団』に入る事が許されるのです」
成程、『聖騎士団』は普通の『騎士団』の上位モデルらしい。
そこからダニエル様は、わたしにも分かりやすい様に説明をしてくれた。
「そこに入団した者は皆『聖騎士教会』に入り、『聖騎士』として、若しくは退団後は『神父』として活動をする事になるのですよ」
「まあ、何てこと…あの酔っぱ…いえ、ミハエル様は、そんなにスゴいお方だったのですね…」
話しを聞けば、超・超エリートではないか。
(…完全にアル中だと思ってしまったわ)
あの酩酊して転がっている様子からは…とても想像できないミハエル神父の正体に、わたしは正直驚いてしまった。
「そうですね。ミハエルはあの通り素行が悪いのと、本人の希望で仕方なく退団はさせられましたが、『神父』としての能力は突出しています。僕もその点は信用はしているので、きっと君の『不健康』の正体を突き止めて解決してくれるでしょう」
+++++
そのまま暫く教会の中でダニエル様とミハエル神父を待っていたけれど、二人切りだと会話の間がどうにも持たなくて、どんどん緊張してしまう。
(ええと…ええと、何かしゃべることはないかしら?)
わたしは慌てて頭の中で話題を捜した。
(…あ、そういえば)
ダニエル様とさっきのミハエル神父の親し気な言葉を交わす関係がとても気になって、わたしは尋ねてみる事にした。
「あの…ダニエル様は先程のミハエル神父様はお友達でいらっしゃるのですか?」
「ミハエルですか?ミハエルは友達と云うよりも、僕の『監視役』ですよ」
「…か『監視役』…ですか?」
なんだかとても不穏な響きだ。
「ふふ、そうです。『神父』にはその役割もあるのですよ。僕の様に家系の中でも危険な魔の血が濃く生まれた者には、必ず『監視者』が王家から派遣されます。だから王家は安心して、僕の様な者でも放置してくれるんですよ」
「まあ…監視されるだなんて…」
(何だかこれって…追求すれば、闇が深い気がするわ…)
「でも仕方がありません。そういう意味では、僕は生まれ付き危険で…罪深い存在なのかもしれませんね」
ダニエル様はわたしを見上げてにっこりとした。
わたしはダニエル様の笑顔を見て、胸がぎゅっと掴まれてしまった様に痛くなった。
(何て…切ない笑顔なのかしら)
『危険で罪深い』だなんて…小さい頃からそんな風に言われて育ったとしたら、それは大変辛い事だろう。
わたしも小さい頃から『不幸体質』と言われてきたから…分かるのだ。
自分にはどうしようも出来ない事を…他人から責められて生きる事は、とてもとてもしんどいことだ。
なのにダニエル様はそれに文句を云う事無く、ご自分の運命をきちんと受け入れ、オスティリア国内で御自身の『モルゴール侯爵家』を守ろうとしている。
「…そんな事は、ダニエル様ご自身の本質とは全く関係がありませんわ」
わたしは思わずそう言葉を口に出していた。
「たまたま体質や生まれがそうだったとしても、その事でダニエル様が原罪を背負わなければいけないのは…間違っていますわ」
わたしははっきりと云いながら、ダニエル様の深く赤い瞳を見つめた。
「キャロル…」
「わたくし、本当にそう思っていますわ、ダニエル様」
すると、ダニエル様はいきなりわたしの手をぎゅっと握った。
「何て…君は優しい女性なんだ、キャロル…」
そしてそのまま感激した様に、わたしの手の甲にそっとキスをした。
「――ふぁっ!?」
わたしはダニエル様のキスに飛び上がってしまった。
(何てこと!?男性に手にキスしてもらうなんて、生まれて初めてなんですけれど――!?)
その時、軽くパニックになったわたしの背後から――コツコツという足音が聞こえてきた。
「おいおい…何も知らん令嬢を、吸血鬼がよりによって教会の中で誘惑してくれるな」
なんとしっかりとした足取りのミハエル神父が、礼拝堂の奥から大きな剣と酒瓶を持って現れたのだった。
+++++
ミハエル神父は、長い海藻の様に揺れていた金髪を後ろでしっかりと纏めていた。
秀でた額に高い鼻梁。くっきりとした形の唇と切れ長の青空の色の瞳。
何と云うか――超・超正当な美男子だ。
「ふぁ…」
わたしは目の前を堂々とした足取りで歩くミハエル神父を、呆然として見つめた。
『さっきまでの、あのゆらゆらとした動きはどうした?』と突っ込みたくなる程、背筋が真っ直ぐで堂々とした歩き方だ。
「――やっと酔いが醒めたぜ」
ミハエル神父はそう言ってわたし達の方を見ながら不敵に笑った。
そのまま半開きになった教会の扉の前に立ち、両指をポキポキと鳴らしながら、教会の外を自分の顎で指した。
「二人共外に出ろ。んじゃ…久しぶりにヤルか。鈍ってなきゃいいけどな」
お待たせしました。m(__)m
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