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11 オペラ『事件性のある悲鳴』と戦う侍女

グイと狼男に腕を引っ張られ、令嬢の嗜みも忘れ、思わずわたしは大声を出した。


「ひいやあああああああああああああああああ!!!!!は、放してえええええ!」


わたしの上げた悲鳴に、二人の男は一瞬クラっと頭を動かし、毒気を抜かれた様に顔を見合わせた。


「放して!放して!!…キャー!ギャー!!ギィヤアァァァアアアアアアアアアアー!!!」


「お、おいおい、まだ何にもしてねえだろが。そんな人生の終わりみたいな悲鳴上げんなよ、びっくりするって」

「やべえ位の声量だな…こいつ…もしかしてオペラ歌手か何かか?」


バタバタと手足を凄まじい勢いでバタつかせて、駄々っ子の様に大騒ぎをすると、狼男とワニ男は驚いた表情をしてわたしの腕を慌てて放した。


「まずい、この女…流石にこのデカい音量じゃ、誰かに気付かれるぜ」

「お、おい、ちょっと静かにしろよ…」

慌てた表情のワニ男が私の口を塞ごうとした瞬間――。


メルとメロの声が同時に上から降ってきた。


「奥様、遅くなって申し訳ありません。男達その手をお放しなさい」

「大変捜しましたわ、奥様。あなた方、我が家の奥様に無礼な振る舞いは、お止めになって」


わたしは驚いて口をあんぐりと開けて見上げた。


黒髪をハーフアップにし、金色の目をした侍女二人は、それぞれ商店街に設置してある背の高いガス灯の尖っている部分に、ちょこんと立っていたのだった。


 +++++


ガス灯の光に照らされて、メルとメロの瞳が完全に金色に光っている。


(ど、どうやってあの細いガス灯の上に立っているの?)

そもそもあの背の高いガス灯の上にどうやって登ったのか?


あの侍女二人が只者では無いと感じたのか、さっきまでわたしにしつこく絡んでいた男二人は、わたしの事はもうどうでも良くなった様に、メルとメロの方を向いて歯をむき出しにして(顔が凄く怖い)警戒をしている。


すると建物の陰に侯爵閣下がいて、わたしを小さく手招きしていた。

そして口に人差し指を当てた。


わたしは侯爵閣下の方を見て頷いた。


これは『こっちに来い』という事なのだろう、しかも『静か』に。

そろそろとわたしは足を動かし、ゆっくりとすり足で少しずつ後ろへと下がる。


次の瞬間――自分の靴の踵で、自らのドレスの後ろの裾を引っかけて転ぶという醜態を晒してしまった。


「…あ、きゃ!」

わたしの上げた悲鳴で、男二人が一斉にわたしの方を見た。


「あ――!」

逃げるわたしを指差し、叫ぶワニ男の頭を強烈なメル(あれ?メロだったかしら)の空中キックが、見事に炸裂した。


「うおっ!?あぶねえ!何だ、この女!?」

同じ様に跳んだメロ(メルだったか?)は、狼男にもキックの洗礼を試みたが、男に素早い動きで躱されてしまった。


すると石畳に軽やかに着地したメロは、走ってそのまま狼男の足元にすっと沈み込み、可愛らしい靴を履いた足を伸ばして、男の足を思い切り払う。


固い石畳に狼男が背中から、ドッタンと倒れる音がした。


呆然としながら、二人の侍女の勇姿を見つめるわたしのわたしの隣に、侯爵閣下がいつの間にか立っていた。


そしてわたしの手を優雅にスッと取り

「さあ、行きましょう、キャロル。立てますか?」

と促した。


「は、はい…。で、でも…彼女達は…」

(メルとメロはあのままでいいのだろうか?)


彼女達はワニ男と狼男とまさに戦闘中だった。

大分メルとメロの方が優勢であったけれど。


すると、公爵閣下はわたしににっこりと笑って言った。

「いいのです。あれも彼女達の仕事です。むしろ普通の侍女の仕事より好きらしいですよ。さあ彼女達が戻ってくるまで、馬車の中で待ちましょう」


侍女二人の様子を全く心配もしていない様な侯爵閣下に腕を引かれて、わたしは後ろ髪を引かれつつも馬車に向かって歩いた。


最後振り向いて見たのは、狼男に挑発的に手で煽るメロと、ワニ男の首に両足を挟み、勢いよく身体をグリンと捻るメルの姿だった。


「ね、大丈夫でしょう?彼女達も楽しんでいる様ですので、少し時間が掛かるかもしれませんが」


 +++++


相変わらず公爵閣下は、馬車に乗り込む時にスマートに手伝ってくれた。


二人で馬車の椅子に座ったけれど、わたしはどうしてもメルとメロの事が気になって、窓の外を見ていた。


すると侯爵閣下は、わたしの手をスッと取ってぎゅっと握り、その美しい顔にうっとりとした笑みを浮かべた。


「…ああ、キャロル、いくら僕に会いたいからって…危険な夜の商店街で()()()()()なんて。

本当に無茶をする…可愛い人だが、僕はとても心配しましたよ」


「ふぁ…?」

わたしは呆然としながら、自分の手をがっちりと握る侯爵閣下の手とその顔を交互に見た。

(え?何、何?…()()?どうしてそんな解釈になってんの…?)


「メルとメロから聞きました。一人で待つのは寂しくて耐えられないと。それで僕を迎えに来てくれようとしたんですよね?」

「……あ、そうだった」

「『そうだった』?」

「いえ…そ、そうです…」


「…メルとメロもびっくりの速さだったと、彼女達は云っていました」

公爵閣下は話しながらクスクスと笑った。


そして、そこで改める様に、わたしの顔を見つめながら云った。

「…以前にも、僕の治める領地は、魔物や獣人の血が混じった民が多いとお伝えしましたね?

その様な者は、特に夜になるとその血が騒ぐのか、昼間よりも賑やかになる事が多いのです。ですから夜出歩く時は、気を付けてください。

必ず、メルとメロを伴って外出して欲しいのです。そうすれば大抵の事は何とかなります」


わたしは少年閣下の真剣な表情に思わず頷いた。

尚且つ、後ろめたく…申し訳ない気持ちにもなっていた。


「…はい、気を付けますわ。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした、侯爵様」


すると、反省した気持ちでわたしが云ったその言葉を掻き消す勢いで、侯爵閣下はいきなり声を上げた。

「キャロル!()()()()()()()()()よ!」


「は、はあ!?…い、いけない?」

(『いけない』って何…?わたしの謝り方が悪かったのかしら…)


「二人きりの時には、ちゃんと『ダニーかダン』って呼ぶ約束をしたじゃないですか…!」

公爵様はぷんぷんと可愛らしく怒りながら、わたしに向かって激しく抗議をしたのだった。


お待たせしました。m(__)m 。次回は明日六時です。


読んでいただきありがとうございます。

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