絢爛終幕
― 心地よい温かな風が頬を撫でる
ポタ ポタ
― 纏わりつくような鉄臭さがする
ポタ ポタ ポタ
― 右手に握った刀の刃は既に欠け、左手に携えた
大槍は既に刃の部分が折れていた
ポタ ポタ ポタ ポタ
― 鎧を纏った身体は既に限界を迎え、気力だけが
身体を支えている。滴っている血は自分のもの
か、はたまた敵のものか
「フフッ、もはや死ぬことは免れんか。なぁ?
佐吉?」
「…そのようですなぁ。命乞いでしてみますか?旦那?」
「バカを言うな!そんなみっともない真似が出来る
か!馬鹿者が!」
「へいへい、悪うござんしたね。だからそんなにバカバカいうんじゃないよ馬鹿お嬢。」
「佐吉、詩乃。元気なのは良いが状況考えような?」
自傷気味に笑う男に部下である男と女が軽口と叱責で返す。とても自分たちが死地にいるとは思えない態度である。
「よし!お前ら!」
少し先からこちらへ向けて走ってくる敵兵を人睨みした後、男は後ろへ向き直り、腹から声を出して語りかける。
「よくこんな俺に今まで着いてきてくれたぁ!すまんが十中八九俺らは死ぬ!生きたいやつは逃げてくれて構わん!自分のしたいようにしてくれぇ!」
「何を言ってんだ大将!俺らみんな大将のおかげで人間らしく生きてこれたんだ!どうせ死ぬならあんたと一緒に武士として死んでやらぁ!」
「そうだ!俺たち最後の最後までついてくぜぇ!」
各々に選択肢を与えた男に対して帰ってきたのは良い意味での否定の言葉だった
「お前ら…。ったくホント馬鹿ばっかりだな」
「みんな、旦那に似たんですよ」
「間違いないわね」
「ふっ、そうか。なら仕方ねえわな。」
そんな軽いやり取りを終えていよいよ敵の大軍が近くまで迫ってきた。
「よっしゃあ!!じゃあ行くぞお前ら!俺たちの生きた証を!でっけえ爪痕を残してやるぞぉ!」
「「「「おおぉぉぉぉ!!!!!」」」」
「行くぞぉ!!突っ込めぇぇ!!」
勇ましい咆哮を上げ敵の中へ突っ込んでいく男。
日野丸 大和の人生が幕を閉じる。
そして。