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ホラー・ホラー風味

雑踏の暗がり 〜とあるフリー記者の中途原稿〜

作者: まい

 とある場所で発見された、途中まで書かれている原稿。

 国内の大都市には(かな)わずとも、県内では2位3位を争う大きな都市。


 近隣の市町村の住人が「遊びに()()」と言えばそこを指す。



 ……そんな某地方都市には、意味の分からない忠告がある。




 ―――― 大きな通り脇の暗い路地裏から(うで)だけ出して呼びかけてくる声には、決して、絶対に、反応するな ――――




 これだけ聞いたって、本当に理解は不可能だ。


 なのでその意味を知るために、当の地方都市へインタビュー取材しに行く事を決めた。






 だが、その地方都市に住む人や出身者にそれを(たず)ねて見ると、みな顔を青くする。


 青くしたあとに辺りを見回し、静かで誰もいない所へ筆者を連れて行こうとする。


 その人達に応じて静かな喫茶店や個室のある飲食店、カラオケボックスの個室等へ入った途端に、全員が同じ言葉を筆者へぶつけてくる。



「その話はするな。 せめて誰にも聞かれない所で話せ」



 それを全員が、青い顔で。


 もちろん多少の言葉選びの違いで、全員が全員まったく同じセリフではないが、意味は全て同じだ。


 そしてそれだけを言い残し、挙動不審(きょどうふしん)と言いたくなるほど辺りをキョロキョロと見回してから、体を縮めて足速に去って行く。



 なぜそんなにも恐れるのだろう?



 そう思う読者も、その土地の者以外なら多いだろう。


 だが、あの地方都市の人は真剣に言うのだ。


 それを思うと、話とはズレがあろうとも本当に何かが有るのだろう。




 なので、その筆者がインタビューした人達に、別れ際で訊ねてみた。


 なぜそこまで恐れるのか。


 地方都市の外の者からすれば、この恐れ方は異常なのだ。


 そしてそこまで恐れているナニカが有るのに、それがなぜ外部に広がらないのかが、分からない。


 分からないから知るためにインタビューをしているのに、まったく上手く行かない。


 そんな気持ちをぶつけたのだが、内容はまた、大体同じだった。



「関わるな。 知ろうとするな。 知らない方がいい。 知らないままこの地方都市を去れ」






 取材が進展しないまま夕暮れ時になり、収穫が無いまま夜を迎えることになりそうだった。


 そんな(おり)に筆者はとある有料駐車場で、幸運にも他の人とは違う内容を教えてくれる10代男性と出会った。


 お互い済ませた自己紹介の感じから彼は少し暴力の匂いがする男性で、話しかける切っ掛けとなった特注のオリジナルブレスレットをチャラつかせながら語ってくれた。




 あの忠告は本当の話らしい。



 およそ1()月前。


 彼自身は手を見てないし声も聞いていないが、彼の友達が彼と話している時に()()()()らしく、そこで友達と別れた。


 それきり、その友達の消息が分からなくなったそうだ。


 相談はしたが、警察はあてにならない。


 なので突然消えた友達を自力で見つけ出したいと。


 そのためにこの地方都市中をバイクで回っている所だと。


 もし友達を見つけるより先に手と声の(ぬし)を見つけたら、どんな手段を使ってでも友達の居場所を聞き出してやると。


 それらを教えてくれた若者は駐車場に停めていたバイクに(またが)り、ブレスレットを太陽光の反射できらめかせながら去った。








 その若者との再会は、思いのほか早かった。


 結局、若者との会話以外に収穫はなく、取材を切り上げてホテルへ戻っている途中だった。


 泊まるホテルは大きい通りにあり、あと少し歩けばそのホテルに着く。 そんな時。



「……………………」


 なにか、かすかな声が聞こえた。


 様々な音が出ている大きい通りだから、紛れてしまいそうに小さな音だったのに、確かに聞こえた。


 その音の方向を見ると、暗い路地裏。


 その地面すれすれの高さに、手が、あった。


 これには流石にびっくりして、急いでその手に近寄る。


 手には、夕暮れに見た、あの特注のブレスレット。


 それを見てあの若者を連想した直後に、先程よりはっきりした声で、あの若者から筆者の名前が飛び出たあと。


「……たすけて…………」


 それを聞いてしまった筆者は、迷わず行動した。









この記事を公開した編集部より


 この未完の原稿のそばには、原稿を書いていたと思われるフリー記者がいました。


 彼は意識不明のまま路地裏の壁に寄りかかって座っている状態で見つかり、病院へ搬送されましたが未だ意識は戻っていません。


 何かご存知の方がおられましたら、当編集部へご連絡をお願い致します。





〜〜〜〜〜〜



蛇足



フリー記者


 業界でそれなりに名前が売れていた人物。

 だが今回の件で入院し、今後どうなるかは不明のまま。


 彼の記事は臨場(ライブ)感たっぷりで、現場をそのまま書き出した様に見えると評判……だったらしい。

 なおその評判通りに書けたかと言えば、作者にそんな力量が無いので再現は不可能。 申し訳ない。



10代男性


 彼は行方不明。


 彼の場合はバイクも含めて何も見つからず、失踪扱い。



10代男性の友達


 以降も全く見つからず。




 正体不明。 人によって誰の手に見えるかが変わるらしい。




 正体不明。 声も手と同じ。



地域住人


 また犠牲者が出たかと、少し暗い顔になる。


 が、行方不明者と密接な関係でなければ、何も起きず1週間もすれば顔は元に戻る。


 人間、自分に直接影響がなければ記憶は薄れる。


 そんなもんである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全ては謎のまま終わっている所でしょうか? 後は読者様任せですが、こう言う終わり方こそ印象に残りますよねぇ~。 流石ですね! [気になる点] 十代の若者は残ったのかぁ…… フリーの記者はなに…
[良い点] キャラがやたらときゃーきゃー叫んでしまうような、ハッキリした怪物が出る形より好みのホラーです。 文字で表現するならこういうそっと近づいてくる恐怖こそ相応しい気がします [気になる点] なん…
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