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95.微熱な沙羅の妄想

 御坂マリアは苛ついていた。


「爺、まだ見つからないの?」


 紅茶を運んできた執事に強い口調で尋ねる。執事はカップに紅茶を注ぎながら答える。



「はい、おおよその地域は把握できましたが、なにせ何もないような山地でして。それに加えてこの大雨。調査はしばらく無理かと思われます」


 マリアが不満そうに言う。



「じゃあ、その山をひとつひとつ調べればいいでしょう。車を用意して。わたくしが行きますわ!!」


 そう言って立ち上がるマリアに執事が言う。



「それはなりません」


「どうして?」


 紅茶を注ぎ終えた執事がティーポットをテーブルに置いてマリアに言う。



「この大雨は台風による雨雲が原因でございます。あの辺りでは地盤が緩み、河川の氾濫や土砂崩れの心配もございます。何より間もなく台風が上陸するとの予想が出ております」


「だ、大丈夫よ。そのくらい……」


 さすがのマリアの声のトーンもやや下がる。



「なりませぬ。お嬢様の身の安全こそ最も優先すべきこと。何卒ご理解ください」


 執事はそう言って頭を下げると部屋を退室する。マリアが椅子に座りながら言う。



「分かっておりますわ。でも、お会いしたいのです。幸太郎さんに……」


 マリアは紅茶のカップを手にしながら、窓に打ち付ける強い雨を見つめた。






「沙羅、大丈夫か?」


 幸太郎は熱のあった沙羅を抱き上げ、すぐに二階のベッドに運んだ。腕から伝わる熱と共に、そのあまりにも軽い体に驚いた。



(沙羅ってこんなに軽かったんだ……)


 高圧的な態度で『超』がつく令嬢。イメージ的にはとても大きくて強そうな感じをもたれそうだが、やはり中は普通の女子高生。『サラりん』のようなデレの部分もあれば、こうやって風邪をひいて寝込むこともある。



「ごめんなさい……、私……」


 布団から出した火照った顔で沙羅が答える。


「いいって。雨の中無理したんだろ? とにかく休んで」


「うん。ごめんなさい」


 幸太郎が首を振って言う。



「謝る必要はない。俺のために無理して来てくれたんだ、ありがとう」


「……うん」


 沙羅の目が気のせいか赤くなる。ちょっと気まずくなった幸太郎が沙羅に言う。



「あ、俺、おかゆ作って来るわ。炊飯器の使い方分かったし、おかゆぐらいなら何とか作れると思う」


「あなたにできるの……?」


 幸太郎が立ち上がりながら言う。



「そりゃ、お前ほど上手くはないけど、まあ何とかする」


 その言葉に思わず無言になる沙羅。手を上げて部屋を出る幸太郎を黙って見送った。




(何をしているのかしら、私。ひとりで困っていると思って来たのに、逆に迷惑をかけて……)


 沙羅は自分の手を頬に当てる。



(ちょっと熱があるわね。顔が熱い。それに服が汗で湿っぽいわ……)


 沙羅は布団の中の自分の体を見る。薄いクマの絵がプリントされたワンピースは、沙羅がかいた汗を吸い体にぴったりとくっついている。胸の起伏もはっきりと分かるし、下手をすれば中も透けて見えるかもしれない。



(さ、さすがに友達になったとは言え、この姿は見せられないわね……)




「沙羅っ!!」



「きゃああ!!!」


 そんなことを考えていると、突然寝室のドアが開けられ幸太郎が入って来た。すぐに布団をかけて幸太郎に言う。



「ちょ、ちょっと、女の子の部屋に急に入ってこないでよ!!」


「え? あ、ああ、ご、ごめん……」


 突然言われた幸太郎が反射的に謝る。昨日までは自分が寝ていた部屋だと思いつつも沙羅に尋ねる。



「な、なあ。ちょっとこの炊飯器の使い方教えてくれ。よく分からないんだ」


 幸太郎は手に炊飯器を持って困った顔をする。沙羅が言う。



「本当にあなたは馬鹿ね。お米を洗って水入れて、その一番大きなボタン押すだけよ」


「あ、ああ。そうか。すまん、休んでいたところ……」


 そう言って炊飯器を持って部屋を出ようとする幸太郎を沙羅が呼び止める。



「ね、ねえ。ちょっといい?」


「ん? なに?」


 沙羅が布団から赤くした顔を出して言う。



「汗、かいちゃったからさ。その……、私の着替えを持ってきて欲しいんだけど……」


「き、着替え!?」


 その言葉に驚く幸太郎。



「うん。昨日洗濯してバスルームにあるはずだから。お願い」


「あ、ああ。分かったよ」


 幸太郎は昨日沙羅の後に入ったシャワーで彼女の服が干してあったことを思い出す」




「あ、あのさ……」


 沙羅が再び幸太郎を呼ぶ。


「なに?」


 少し間を置いて沙羅が言う。



「その、下着も服に隠して干してあるから、も、持ってきてくれる?」


「え!?」


 幸太郎の頭に沙羅のピンク色の下着が浮かぶ。



「だ、だけど、見ないでよね。その、服とかに丸めて見ないように持ってきて!」


「え? そ、それは、あ、ああ。やるよ……」


 まったく見ない訳にはいかない。ただ可能な限り見ないように持ってくる。沙羅から何とも高難易度の依頼を受け幸太郎が炊飯器を持って部屋を出ようとする。沙羅が三度呼び止める。



「あ、あの、まだあって……」


「今度はなに?」


 幸太郎が振り返って聞く。



「汗べとべとだから、体拭きたいの。お湯とタオル持ってきてくれるかな」



(え!? そ、それってまさか、沐浴っ!?)


 幸太郎はひとり裸で沐浴する沙羅を想像する。自分を見つめて黙り込む幸太郎に沙羅が怒った顔で言う。



「あなた、一体何を想像しているのよ!! あなたに拭いて貰う訳ないでしょ? 自分で拭けるわよ、それくらい!!」



(え!? 俺が、拭く!!??)


 想像もしていなかった沙羅の言葉。幸太郎は持っていた炊飯器を思わず落としそうになる。



「い、いや、そんなことはしない。お、お湯持ってくるよ……」


 そう言って逃げるように部屋を出る。



「ふう……」


 沙羅がそのまま布団に横になる。何だか興奮しながら話したせいか少し頭がぼうっとする。



(体を、拭いてもらう……)


 横になり天井を見ながら、自分で言った幸太郎に体を拭いてもらうことを想像する。



(ううっ……)


 あまりの恥ずかしさに布団に入りながら顔が真っ赤になる。



(さ、さすがに友達同士じゃそんなことはしないわよね……、恋人同士ならするのかしら……?)



 沙羅は自分が幸太郎と付き合い、恥じらいながら見つめられ体を拭いてもらうことを想像する。


(だ、駄目だわ。熱できっと思考回路が正常に働かないのね。体もべとべとして気持ち悪いし……)



 そう思いつつもくらくらする沙羅の頭の中には、依然幸太郎が優しく体を拭いてくれる絵が思い浮かび続ける。



「おーい、沙羅。入るぞ。お湯持ってきた」


 幸太郎がお湯を入れたバスボウルにタオルを持って現れる。沙羅が横になったまま言う。



「ありがとう……、そこに置いて()()()くれるかしら」



「え!?」



「え? あ、ち、違うの! 間違えたのよ。自分で拭くから!!」


 幸太郎は顔を真っ赤にして沙羅に言われた場所にお湯を置くと、そのままふらふらと部屋を出た。



(や、やだ~!! 恥ずかしいっ!!!)


 沙羅はひとりになった部屋で顔を真っ赤にしながら頭から布団をかぶった。

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