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94.一緒に寝ましょ? 友達だから。

(落ち着け、落ち着くんだ。城崎幸太郎……)


 幸太郎はひとり温かいシャワーを浴びながら自分に何度も言い聞かす。しかし何をしていても沙羅の色んな姿が頭に浮かんでしまう。



 到着した時の雨に濡れて下着が透けた沙羅。

 バスルームに置かれたピンクの下着にすりガラス越しの裸体。

 下着はつけていないと言う薄いワンピースだけの沙羅。


 友達になるまではまるでバイ菌扱いだったのだが、友達になってからはその扱いはほぼ『こーくん』レベルにまで来ている。

 わざわざこんなところまで来てくれるし、あんなエッチな姿を顔を赤らめながらも見せてくれる。以前だったらバスルームに入った瞬間、土砂降りの外に放り出されたはず。



(あれ、俺、喜んでるのか? 沙羅が来てくれたことを……)


 自分から勉強がしたいと言ってやって来たこの辺境の地。本来なら誰かが来ると言うことは望んでいないはず。しかもあんな誘惑するような格好で……、でも、



(俺は間違いなく喜んでいる、沙羅が来てくれたことを)


 幸太郎は急いでシャワーを浴び終えて、沙羅が待つリビングへと向かった。




「あれ? これ」


 幸太郎が薄暗いリビングへ戻ると、テーブルの上にパンとオレンジジュースが置かれていた。先程と同じ場所で座る沙羅が幸太郎に言う。


「パンを焼いたわ。それを食べて」


「あ、ありがとう」


 幸太郎もソファーに座る。沙羅は先程と変わらないクマの絵が描かれたワンピースのみ。薄暗い部屋だがスカートから出た太ももと、胸のふたつの膨らみに自然と目が行く。



「いただきます……」


 無言でパンを食べるふたり。

 本来ならばこのような雨の夜はひとり静かに勉強する絶好の機会なのだが、幸太郎の頭の中にはすでに勉強のことなどまったくなかった。



(さ、沙羅は今夜泊って行くんだよな……)


 無言でパンを食べる沙羅を見つめる。



(でも、ベッドの数こそ幾つかあるようだけど、布団は一式しかない……)


 普段は使わない重定の別荘。

 使用時のみ布団が運ばれてくる。今回も幸太郎ひとりが使う予定だったため、真新しい布団一式が用意されていただけだ。思い切って沙羅に尋ねる。



「な、なあ。沙羅」


「なに?」



「今日って、ここに泊って行くんだよな?」


「ええ、そうよ。まさかこの雨の夜中に私を追い出す気?」


 幸太郎が慌てて首を振って言う。



「い、いや。そんなことしないよ! ただ……」


「ただ、なに?」


 沙羅がパンを食べていた手を止めて幸太郎を見つめる。



「その、なんだ……、つまり……」


「はっきり言いなさいよ」


 幸太郎が意を決して言う。



「布団が一式しかないんだ。だから、どうしようかと……」



「一緒に寝ればいいじゃん」




「は?」


 幸太郎が沙羅の言葉に耳を疑う。


「いや、それは、だって……」



「友達同士でしょ? そのくらい普通じゃないの?」


(こ、こいつの友達感覚って、一体どうなってるんだ!?)



「それとも嫌なの? 私と寝るの?」


(うぐっ!! そ、その格好、この雰囲気で嫌と言う男は絶対いないはず。でも……)



「い、いや、そんなことはないけど、俺達まだ高校生だし。それはちょっとまずいかなと……」


 沙羅があまり理解できない顔で答える。



「あなた何を考えているの? 布団が一式しかないから一緒に寝るだけよ。お互い触れずに寝れば何の問題もないでしょ」


(い、いや、無理だぞ!! 同じ布団にこんなに可愛い子、しかも下着を付けずに寝て、触れないなんてことがどうしてできる!?)



「も、もし、触れたら、どうする……?」


 沙羅が少し間を置いてから答える。



「責任をとって貰うわ」



(せ、せ、責任だとおおお!? そ、それって一体どういう意味!!?? 結婚? それとも、打ち首とかそっち系のこと!!??)


 黙り込む幸太郎に沙羅が言う。



「あなたは生活力ゼロのくせに、そう言うどうでもいいことばかり頭を使うのね。友達同士でしょ? 使える物は一緒に使えばいいじゃない。やっぱり馬鹿なの?」


「お、お前は平気なのか? 俺と同じ布団で寝るのが?」



「別に裸で寝る訳じゃないでしょ? 私に触れなければ問題ないわ」



(いや、その下着なしの小学生みたいなワンピース。お前が着るとある意味裸より興奮するんだが……)



 食事を終えた沙羅が立ち上がり、皿とカップを持ってキッチンへ行く。


「食べ終えたからお皿は洗っておいてくれる? 私、ちょっと疲れたから先に寝るわ。おやすみ」


「さ、沙羅……」


 キッチンに立つ沙羅が幸太郎に言う。



「先に布団に入っているので、あなたも遠慮なく来ていいから。友達でしょ? まったく遠慮する必要なんてないから」


 沙羅はそう言ってひとり寝室へと消えていく。



(ど、どうするんだ、一体!?)


 幸太郎はひとりソファーに座り頭を抱える。



(女の子にベッドへ誘われて行かないと言うのは男の、城崎幸太郎、末代までの恥。とは言えまだ高校生だし、それに重定さんから『娘に手を出すな』と契約時に言われているし……)


 幸太郎がオレンジジュースを一気に飲み干す。



(い、いや。別に手を出す訳じゃない。一緒に寝るだけだ)


 そこまで考えて幸太郎が冷静になる。



(それで我慢できるのか、俺……)


 隣で下着を付けずに寝る女の子。嫌でも彼女の体の起伏は見えるし、顔だって手を伸ばせば触れるぐらい近くなる。



(でも……)


 幸太郎は食べ終えた食器を持ってキッチンに行き、沙羅の分も一緒に洗い始める。



(今日はここで寝よう。それがいい……)


 幸太郎の目にリビングに置いてあるソファーが映る。先ほどまでそこに座っていた沙羅の姿を思い出す。



(意気地なし、って、また馬鹿にされるのかな……)


 幸太郎は食器を洗い終えると、少し多めに上着を着てリビングのソファーに横になった。





(あれ? 私、寝ちゃったのかしら……)


 先に布団に入り、密かに幸太郎が来るのを待っていた沙羅。いつの間にか眠りについていたようで、真夜中外から聞こえる雨の音で目が覚めた。



(いない?)


 沙羅は布団の中にまだいない幸太郎に気付き部屋の中を見回す。


(あれほど遠慮しなくてもいいと言ったのに、それとも私と一緒の布団が嫌だとか……?)



 沙羅は時計を見ようとベッドから立ち上がろうとする。



(あれ……?)


 一瞬めまいが沙羅を襲う。思わずベッドに座り込み沙羅が考える。



(私、相当疲れているのかしら。確かに雨の中、山道を歩いて来たし、慣れないことをするもんじゃないわね……)


 沙羅は夜になり結構冷えて来たため、布団をかぶりながら幸太郎を探す。そしてリビングのソファーで小さくなって眠る幸太郎を見つけて思う。



(本当に馬鹿じゃないの。広いベッドがあるのに……)


 幸太郎の傍に立つ沙羅。


(本当に私に遠慮してるのかしら? 友達だからそんなことしなくてもいいのに。それとも私に()()がなかったのかしら……)


 沙羅は自分が着ている薄手のワンピースの上から体を触る。



(まあ、いいわ。それよりちょっと疲れたみたい……)


 沙羅はそう思いながら幸太郎の寝顔を見つめた。






「う、うーん……」


 幸太郎は窓の外から入る微かな光と、未だ強く降り続ける雨の音で目を覚ました。



(何とか眠れたようだな。ソファーで寝るって初めてだったけど……、ん?)


 幸太郎はすぐにその異変に気付いた。



(え、えええ!? 沙羅っ!!??)


 いつの間にか布団が掛けられ、ソファーで横になっていた幸太郎の隣で沙羅が眠っていた。



(どどどどど、どうなってるんだ!? え? なんで、沙羅が!?)


 まったく記憶のない幸太郎。腕の中には目を閉じて無防備に眠る沙羅。彼女を抱きしめるように横になっており、薄いワンピース越しにその柔らかい肌の感覚が伝わって来る。



(こ、これは!?)


 そして少し視線を下におろすと、ワンピースから覗く胸の谷間がはっきりと見える。薄暗いが、姿勢によっては()まで見えそうである。



(い、いかん。理性が……)


 さすがの幸太郎も布団の中でこれほど無防備に眠る女の子を抱きしめていたら、昨日まで抑えていた自分が制御不能になってしまう。



 ――もっと強く彼女を抱きしめたい、自分の全てを彼女にぶつけたい。


 そんな男として当たり前の本能が幸太郎に沸き上がった時、それを一瞬で沈める異変に気付いた。



(あれ? 熱い……?)


 沙羅の体に回していた腕から、自分の体温をずっと上回る熱を感じる。



「沙羅……?」


 幸太郎がそっと彼女の額に手を当てる。



(熱い!!)


 よく見ると彼女の顔が赤く火照っている。



「沙羅、沙羅っ!!」


 幸太郎は腕の中で眠る沙羅に声をかけた。

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