9.最大のライバルは、『こーくん』!?
――『サラりん』は雪平沙羅だった
幸太郎はあまりにも偶然の出来事にしばらく動けなかった。真っ白になる頭。そして徐々にその事実を理解し始める。
(そう言えば……)
言われてみれば納得いく点が多くある。
高校生なのに『仕事』と言って男に会っていたこと。
『パパ』の命令だから仕方なかったこと。
そして幸太郎自身、不思議と彼女と初めて会った感じがしなかったこと、など。
(俺と沙羅はずっと前に、ずっと何か月も前から知り合っていたんだ……)
真っ白だった幸太郎の頭に、徐々に今後どうしていくかと言う問題が浮かんでくる。
『こーくん、どうしたのかな? こーくん?』
(『こーくん』が俺、城崎幸太郎だったことが沙羅にバレれば、すべてが終わるだろう。沙羅からすればネットで巧妙に近付かれ、実際に会って一体に何をされるのか。考えればこれほど怖いことはない。いや、無論すべてが偶然だったのだが、そんなことを信じて貰えるとは思えない)
『こーくん!! 起きてるー??』
(だったら『こーくん=幸太郎』は絶対に彼女にはバレないよう振舞うしかない。幸太郎は幸太郎としてリアルの友達を目指せばいいし、『こーくん』もこれまで通りネットで彼女の悩みを聞く立場を続ければいい)
『こーくん……?』
(そうだ。リスクは伴うがこれが一番いい。いや、逆に沙羅から全面的な信頼を得ている『こーくん』が、リアルで苦戦する幸太郎を助けることもできる! バレなきゃいい!! そうすれば『こーくん』は俺にとって最強の味方となる!!!)
『こーくん、どうしちゃったの? サラりん、何か悪いことでも言ったのかな……、だったら謝るよ……』
(沙羅とは純粋に友達になりたいと思った。それに……)
幸太郎は先程花柄のワンピースを貰った喜ぶ妹の奈々、そして明日久しぶりに外食に行くことを思い出す。
(このバイトは是が非でも続けたい。今は週一だけど、これが週二とかできればすごく家計も助かる。だから……)
『ごめんね、こーくん。サラりんが他の男の子と会ったり、部屋に入れちゃったりしたから怒ってるんだよね。うん、分かったよ。もう彼には会わないし、部屋にも入れないよ!!』
『いや、会って!!!』
『え?』
幸太郎はすぐに『こーくん』に戻り返事を書く。
『ごめんね。ちょっとどうしたらいいのか考えていた。やっぱりその男の人に会った方がいいと思う』
『どうして? こーくんはサラりんが他の男と会っても心配じゃないの?』
『心配だよ。だけど考えたんだ。そのパパって人が認めている男なんだよね?』
『そうだけど……、サラりんはこーくんに会いたいよ~』
『俺もそう思ってる。でもね、サラりん。実際に会うのは……』
この掲示板は犯罪防止の観点から相手を特定する情報の書き込みを禁止しているだけでなく、メールなどの別の手段でのやり取りを防ぐ為にアドレス等の書き込みもできないようになっている。
『分かってる。こーくんと会うのはとっても難しいのは……』
サラりん自身も理解していた。今の関係、ネットでの相談し合う関係がリアルで会うことになったらどうなるか分からないことなど。
それでも会いたい。この掲示板にいる以上、会うことは難しいのだが自分の気持ちはずっと変わらない。
『ねえ、サラりん。そのパパってのは、本当のお父さんのこと?』
しばらく時間をおいてサラりんから返事が届く。
『うん、そうだよ……』
『今まで聞いたことはなかったけど、サラりんにとってパパは信用できる人なのかな?』
『分からない……、叱られたり怒られたりことはないけど、サラりんがこうなったのもパパの責任はあると思ってるの』
『こうなったって、可愛いサラりんのこと?』
幸太郎はそう答えながら彼女の父重定が『お金に任せて問題を解決してきた』と言っていたことを思い出す。
『やだ~、こーくんったら!! 違うよ、サラりんは本当に性格悪い悪女なんだから!!』
『こんなに素直なサラりんが? だったら『悪女』って意味が変わっちゃうよ!』
『そう言ってくれるだけで嬉しいよ! 本当ありがとう、こーくん』
幸太郎は改めてさっきまで会っていた氷のように冷たい沙羅と、ネットとは言えデレまくるサラりんが同一人物だということに戸惑う。
『サラりんのパパがそう言うのならば、ちょっとだけその男の人を試してみてもいいじゃないかな。嫌だったら断ればいいんだし』
これは幸太郎自身による戒めでもあった。沙羅と友達になれなければそれで諦める。『こーくん』を使うこと以外であまり姑息なことはしたくない。しばらく間を置いてサラりんが返事を書く。
『分かったよ。こーくんがそう言うならサラりん、我慢する!』
(我慢……、だよな)
『でもね、サラりんが会いたいのはこーくんだけなんだよ! 浮気はしないよ!! 今日もあの男が帰った後、ちゃんと触ったものは全部除菌したし、部屋の換気もしたよ!! サラりんと同じ空気を吸っていいのはこーくんだけ!! ドアも別にひとつ作った方がいいよね!!』
(除菌!? 換気に、別のドアだって……)
幸太郎は真剣に彼女がひとりそのようなことをしている姿を思い浮かべる。
(あいつならマジでやりそうだな『別のドア作成』、それより俺はバイ菌なのかよ……)
幸太郎は少なからず心のダメージを受けながら返事を書き込む。
『そこまでしなくてもいいかなとは思うけど……、俺も同じ男だし、もし会ってもサラりんみたいに清潔じゃないしよ』
『こーくんはいいよ、別だよ!! こーくんのを嫌だと思えないから。こーくんは無条件ですべて許可。ねえ、こーくん。サラりんって可愛いかな?』
『ありがとう、サラりん。もちろんすっごく可愛いよ!!』
『やったー、ありがと!! あ、そう言えばその男なんだけど……』
幸太郎はその書き込まれたメッセージの文章を見つめる。
『いきなりアドレスとか紙に書いて置いていったんで、ちゃんとごみ箱に捨てておいたよ!!』
(は? マジで!?)
『心配しないで! サラりんが穢れないようにきちんとティッシュでつまんで捨てたんだから。今頃は焼却炉かな? ね、サラりん良くやったでしょ? ほめほめして~』
(いや、それって普通に打ち首案件だろ。リアルに傷ついたぞ……)
『それはよくやった!! 自分の身は自分で守らなきゃね!!』
幸太郎は複雑な心境ながら、『こーくん』になりきって返事を書き込む。
『本当に失礼な奴でさー、馴れ馴れしいし、友達になりたいとかキモいし、ちょっと信じられないよね! こーくんに「会って見て」って言われなければすぐに断っていたよ』
『サラりんは俺にとって一番大切な人。その男の人のこともちゃんと相談乗るね!!』
『ありがと、こーくん!! やっぱりサラりんにはこーくんしかいない!! こーくんの命令なら何でも聞くよ!!』
こうして始まった美少女令嬢・沙羅との『バイ友』関係。『こーくん』と言う最強の助っ人を擁しながらも、現状幸太郎にとっては最悪の状態からのスタートとなった。
(俺、想像以上に嫌われていたんだな……)
初日の感覚では割と上手くやれたと思っていた幸太郎。
改めて『こーくん』と言う高き壁を思い、彼を越えて心から信用して貰える友達になる難しさを思った。
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