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86.『こーくん』、バレる!?

「『こーくん』って、知ってる?」


 思い返せば沙羅には幸太郎と『こーくん』との間で何か近いものを感じていた。


 最初は雷。幸太郎が『バイ友』でやって来た時、鳴り響く雷から怖がる自分を守ってくれた。その話をしたら『こーくん』の家でも雷が鳴っていた。

『バイ友』が本格化すると使ってもいない()()という言葉を知っていたり、先日の晩餐会のダンスについて話しても『こーくん』はまるで知っていたかのように返事をした。



(こうなると逆に関係がないと言う方がおかしい……)


 沙羅は目の前で何も言わない幸太郎を見つめる。




(なぜ? バレた、のか……!?)


 幸太郎はあまりにも突然の予想にもしていなかった問い掛けに驚き、思考回路が一時停止する。



(どうしてバレた? 何があった……)


 全く無反応な幸太郎に沙羅が言う。



「ねえ、どうして黙ってるの? 知ってるの、知らないの?」


 その言葉でようやく幸太郎の脳に電流が流れ始める。



(落ち着け、まだ相手が証拠を掴んだとは限らない。()()をかけられている可能性もある。ならば……)



「どうしたの急に? 何のこと?」


 幸太郎が真面目な顔で答える。沙羅がそんな彼をじっと見つめて言う。



「知らないの? 『こーくん』って言葉」



「知らないなあ。誰?」


 嘘をついた。

 嘘をつくことは大嫌いであったが、『こーくん』絡みならば仕方がない。これは最初から決めていたこと。これがバレて彼女を傷つけるなら嘘つきでいい。


 張りつめる空気。

 沙羅の視線はそんな言葉を全く信用していない。



「そう、知らないのね。ならいいわ」



(行けたのか!?)


 幸太郎がこの危機を乗り越えたと思った瞬間、沙羅はくるりと背を向け自分の椅子に座る。



「沙羅……?」


 そして机にあったPCの電源を入れた。



(え、まさか……)


 幸太郎の体が震える。綺麗な黒髪を幸太郎に見せながら沙羅が言う。



「これから『こーくん』に連絡するわ。どんな返事が来るか楽しみだわ」



(まずいっ!!!)


 二役を演じている以上、ここで『こーくん』にはなれない。「スマホが見られなかった」と後で言い訳はできるだろうが、自分に掛けられた疑惑を払しょくすることはできない。



 カタカタ……


 最新のPCのためか、一瞬で立ち上がる沙羅のパソコン。パスワードを打ち込み沙羅が悩み相談の掲示板を開く。空調のかかった沙羅の部屋だが、幸太郎には全身から汗が流れる。



(やるしかない!!!)


 幸太郎は決意した。

 沙羅が背を向けていることを確認してから素早くカバンの中からスマホを取り出し、彼女と同様に悩み相談サイトを開く。スマホに表示された『サラりん』の相談室という言葉を見てから、両手を後ろに組みスマホが見えないように持つ。



 カタカタカタ……


 PCに文字を打ち込む沙羅に幸太郎が声を掛ける。



「何してるの?」


 手を止めた沙羅が振り返って幸太郎に言う。



「私ね、『こーくん』って言うとても大切な人がいるの。今、その人にメッセージを送ったの」


「どうして、今?」


 沙羅が笑って答える。


「それで色々なことが分かるの。あなたには関係……、そう、それも含めてね」


 じわりじわりと沙羅が追い込みに入る。幸太郎のスマホを持つ手に汗が流れる。



「その『こーくん』って人に何を聞いたの?」


 少しの沈黙。沙羅が苦笑して言う。



「どうして知りたいの?」


「どうしてって、俺は沙羅の友達だし。気になるから……」


 我ながら苦しい言葉だと思う。ただ追い詰められた人間にはそれが精一杯。沙羅が小さく頷いて答えた。



「今どこにいるの、何してるの? って、聞いただけよ」



(本当か? 本当に信じていいのだろうか……?)


 沙羅が見ている前でスマホの画面を見て確認することはできない。仮にこれまでのようにトイレに行けばその言葉が本当かどうかは分かるだろう。



(でもそれでは会話のやり取りはできない)


 突然下痢になるのもおかしい。何度もトイレに行くことはできないし、疑われている以上その不自然な行動は彼女の疑いを確信に変えるかもしれない。幸太郎は沙羅の目を見て決意する。



(俺は沙羅を信じる!!!)



 幸太郎は沙羅から見えないよう後ろに持ったスマホに神経を全集中する。いつもとは反対向きの方向。方向を無理に変えるとスマホの画面が反転してしまう可能性もある。幸太郎は慎重に、震える指と汗だくの手でゆっくりと()()を打ち込む。



「あれ……?」


 PCの画面に変化のあった沙羅がそれに気付いて声を出す。

 沙羅は知らなかった。幸太郎には勉強以外に、もうひとつこんな特技があると言うことを。



「バイト中、なんだ……」


 沙羅が首を少し傾げる。幸太郎は気付かれないよう静かに息を吐いた。



「何、書いてるの?」


 そう言って幸太郎はこちらに背を向ける沙羅に少し近付く。



(よし、ここなら辛うじて文字が見える!!)


 沙羅が打つPCの文字が見える距離、角度まで近づいた幸太郎が緊張しながら次の言葉を待つ。



 カタカタカタ……


 そんな幸太郎に気付かないのか沙羅が無言で返事を打ち返す。



『こーくん、バイト中なの? 本当に?』


 幸太郎が打ち返す。


『そうだよ。忙しいから戻るね。また今夜!』


『うん、お仕事頑張ってね!!』


 幸太郎がすっと再び元いた場所に戻り、沙羅がこちらを向く前にスマホをポケットに入れた。沙羅はPCの電源を切ってから幸太郎の方を向いて言う。



「うーん、違ったのかな。おかしいなあ。ねえ、さっきの話は忘れて」



(良かった……)


 間一髪、幸太郎は最悪の事態を回避することができた。



「『こーくん』って誰なの?」


 一応話の流れで怪しまれぬよう幸太郎が尋ねる。沙羅が言う。



「あ、あなたには関係のない人! 詮索しないでよ……」



(い、言い方が違う!? 前に比べたら何て優しい言い方!! これが友達なのか)


 幸太郎は明らかに変化のある沙羅を見て嬉しくなる。



「……でも、やっぱり変なんだよなあ。ちょっとしっくり来ない」


 沙羅はひとり納得いかない顔をしてつぶやく。そんな顔を見て幸太郎は素直に可愛いと思う。そしてその油断が、何の準備もないままその言葉を発してしまった。



「あ、そうだ。沙羅」


「なに?」



「あのな、俺。御坂マリアに『バイ友』やってって頼まれたんだよ」


「は? はあああ!?」


 幸太郎は沙羅が鬼神の様になって真っ赤に怒る顔を見て、これはやってしまったと今更ながら気付いた。

お読み頂きありがとうございます!!

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