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63.教えて欲しかった。

「ごめんね~、斗真」


 斗真は先程まで唇を重ねていた由香の顔を見つめる。

 ドライブで遠出し、車を停めた公園の駐車場でキスをしていた斗真と由香は、突然鳴った彼女のスマホに驚いた。



「な、なんだよ!?」


 驚く斗真とは対照的に、由香は青い顔をしてスマホを手にして電話に出る。



「……ごめん、うん。ごめんなさい。すぐに帰るから」


 すぐに斗真はその電話の相手が彼女の父親であることに気付いた。時間を見ると既に彼女の門限を大幅に過ぎている。父親からの怒りの電話であることは明白だった。



(しまった。すっかり遅くなってしまった。これがバレて由香の父親に悪い印象を与えるのはまずい)


 未来の社長の椅子を狙う斗真はすぐに頭を切り替えて由香に言う。



「ごめん、遅くなっちゃった見たいだ。門限も過ぎてるし、帰ろうか」


「ええ、急いで」


 斗真はすぐにエンジンをかけると、車を飛ばして由香の家へと向かった。




「ごめんね、斗真」


 家の近くに到着し、車を降りた由香が少し乱れた髪を整えながら斗真に言う。その顔にはまだ先程のキスの余韻が残っているようだ。



「ああ、大丈夫。じゃあ」


(本当にごく稀に女らしくなるな。あとは救いようのない悪女だがな!!)


 斗真はひとり内心毒づきながら車を自宅へと走らせる。

 真っ暗な夜の道。由香を下ろした車でひとりになった斗真が今日約束していたはるかのことを思い出す。



(そう言えば幸太郎は上手くやってくれたのかな……?)


 そう思いながら鞄に入れてあったスマホを運転しながら探す。



(はるかからのメッセージ、多いな……、仕方ない……)


 斗真は面倒だと思いながらもはるかに返信を打ち始めた。




(え?)


 次に斗真が顔を上げた時は目の前にまぶしい光が見え、そこからの記憶はなかった。






 事故の連絡を受けた幸太郎は、すぐに今日家庭教師の予定だった胡桃に連絡し遅くなることを告げる。そしてすぐに次の駅で降り、斗真が入院しているという駅に急いで向かった。



「斗真さん!」


 病室に辿り着いた幸太郎は、その静まり返った部屋に嫌な感覚を覚えた。



「幸太郎君……」


 ベッドの横には丸椅子に座って涙を流すはるか。そのベッドには全身、特に顔を包帯で巻かれた斗真とおぼしき人物が寝かされている。



「はるかさん……」


 そう小さく言った幸太郎の目に、部屋の隅で同じく黙って座る長い金色の髪をいじる由香の姿が映る。由香が幸太郎に気付いて声をかけた。



「あら、あなた……」


 その言葉に反応するかのように由香を見つめるはるか。幸太郎はまずい状況だと思いながらも斗真の状態を尋ねる。



「あの、斗真さんは、大丈夫なんですか……?」


 点滴のチューブに繋がれ、全く動かない斗真。どう見ても大丈夫そうには見えない。はるかが答える。



「昨晩、車で事故を、赤信号で交差点に入ってトラックを避けて、電柱にぶつかっちゃったんだって。私もさっき来たところなの……」


 既に大量の涙を流したはるか。そう言いながら再び涙を流す。



「怪我の具合は……?」


 幸太郎の問いかけにはるかが頷いて答える。



「命に別状はないからそれは大丈夫。今は薬で眠ってるの。でも……」


 はるかの顔が暗くなる。



「でも、体中に大怪我、特に顔に大きな怪我をしたって聞いて……、う、ううっ……」


 幸太郎は再び涙を流し出すはるかに、自分の持っていたハンカチを差し出す。



「これ、使ってください」


「ありがと……」


 はるかが差し出されたハンカチを手に取って涙を拭く。幸太郎が尋ねる。



「ご家族の方は来ていないんですか?」


 はるかが涙を拭きながら答える。


「うん、さっきまでいたけど斗真さんの荷物を取りに行くって家に帰られたわ」


「そうですか」




「それにしても運が悪かったわね」


「え?」


 はるかと話す幸太郎に、少し離れた場所に座っていた由香が声をかけた。



「スマホ、いじってたんだって。ぶつかる直前まで。まあ、可愛そうだとは思うけどね」


 それを聞いたはるかがギッと由香を睨む。幸太郎が尋ねる。



「あの、どうしてそれを知ってるんですか?」


 由香が髪をいじりながら答える。



「さっきね、警察が来てさ、一応確認したいって声かけられたの。私、()()まで一緒に居たから」



(え?)


 はるかの顔が青ざめる。

 斗真が事故を起こした昨晩は本当は自分と一緒にいたはず。急用があると言っていたけど、それはもしかして……



「……」


 静寂が病室を包む。退屈そうな顔をした由香が立ち上がって言う。



「あー、さて、私帰るね。斗真、全然起きないし。じゃあね」


「あ、あの……」


 病室を出て行く由香を見ながら幸太郎が声をかけようとしたが、すぐにそのドアがバタンと閉められた。



 少しの静寂。はるかはベッドの横の椅子に座ったまま下を向いている。もう限界である。幸太郎が心を決めた。



「はるかさん」



「……はい」


 はるかが顔を上げる。真っ赤になった目。直視は辛いが目を背ける訳には行かない。



「あの人、斗真さんの()()です……」



「……そう」


(え?)


 予想よりもずっと反応が薄い。何か諦めたような顔をしながらはるかが言う。


「ありがとう。教えてくれて」


「はるか、さん……?」



 はるかが自嘲気味に幸太郎に言う。


「さっき彼女ね、私にこう言ったの」


 幸太郎が黙ってはるかの言葉を聞く。



「『私、斗真の彼女なんだけどさあ、あなた誰?』って」



(!!)


 幸太郎はもう何も言えなかった。

 自分が伝えるより先に斗真の彼女の存在は知られてしまっていたのだ。目の前が真っ暗になり黙り込む幸太郎にはるかが尋ねる。



「ねえ、幸太郎君」


「は、はい……」



「幸太郎君はいつ知ったの? 斗真さんに彼女がいたってこと」



「あの、俺……」


 動揺する幸太郎に上手く誤魔化せる言葉など見つからなかった。再び黙り込む幸太郎。はるかが言う。


「幸太郎君は気配りのできるとっても優しい子なんだけどさ……」



 はるかは目から大粒の涙を流しながら幸太郎に言った。




「やっぱりね、ちゃんと教えて欲しかったな……」



 幸太郎の頭の中に斗真やはるかとのこれまでの思い出が次々と思い出され、耳には彼女の言葉が寂しく響いた。

お読み頂きありがとうございます。

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