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49.沙羅、バイトを決意する!!

「えー、またこのお店? ここって前来たでしょ!?」


 大学の講義が終わった後、八神斗真は同じ大学に通う美しい金色の髪の彼女、由香と一緒にカフェにやって来ていた。由香が不満そうに連れられて来たカフェを見て言う。



「新しいところ探しておいてよ。つまんなーい」


「あ、ああ。そうだったな、ここは前来たな。すまん」


 斗真が頭に手をやり謝る。



「斗真って、ホント顔()()だよね」


「由香……」


 斗真はそう言ってカフェに入る由香を後ろから眺めて思う。



(くそっ、本当に性格ブスな女だ!!)


 しかしミニスカートから見える肉感的な太腿、手入れだけはしっかりされている金色の髪、そして時々急に甘えたような女になる彼女のその姿を思い出してひとり笑う。



「何してるの、斗真。早くおいでよ」


「あ、ああ。すまない」


 由香が入ると一斉に店内にいた男達から視線が集まる。

 斗真と付き合う前はそれなりに真面目な社長令嬢であったが、付き合い始めてからはその影響のせい性格が悪い方へと変わっていった。

 嫉妬なのか独占欲なのか。イケメンでモテる斗真。時に由香は彼につらく当たるようになった。



(ふんっ、偉そうにしやがて!! お前が社長の娘じゃなかったら一緒になんて居られるか!! それぐらいしか価値がないんだよ!!)


 斗真は笑みを浮かべながら心の中で悪態をついていた。由香がメニューを見ながら注文する物を指差す。



「えっと、じゃあこれとこれとこれと……」


 いつも食べきれない程に注文する。そして決して自分では払わない。「支払いは男の仕事。女に払わせるなんて有り得ない」そう言っていつもレジは素通りする。



(我慢だ。我慢しろ。こいつだけ我慢すれば俺はにいずれ社長の椅子が約束されている)


 斗真は笑顔で由香が頼んだメニューを店員に伝えた。

 そしてそのままトイレに行き、すぐにスマホで()()()にメッセージを送る。



『今日の夜空いてる? 後で迎えに行くよ』


 簡単な言葉。ただこれは斗真がはるかを夜遅くまで連れ回す時の言葉。斗真は由香とのイライラをいつもはるかにぶつけ解消していた。






 幸太郎は雪平家の門の前に立ち、ゆっくりとインターフォンを押してから言った。


「こんにちは、城崎です」


 最初は恐る恐る入った雪平家。回を重ねるごとに慣れていき、今は沙羅の部屋まではリラックスして歩けるようになった。



「さて……」


 しかしここから、沙羅の部屋のドアから先はやはりまだ慣れない。


 妙な緊張感。不安。

『バイ友』に合格したとはいえ、沙羅に言わせればまだ『スタートラインにたっただけ』とのこと。正式採用にはなったが、一回のレッドカードで即退場である。




 コンコン


 幸太郎がドアをノックする。

 無言。


 やはりか、と思いつつドアノブを回し声をかける。



「正式採用になった友達の幸太郎さんが来たぞー」


 反応はない。

 仕方なしに幸太郎が沙羅の部屋に入る。


 いつも通り自分の机に背を向けて座る沙羅。真っ黒な長い髪が部屋の明かりを受け少し光っている。

 部屋の窓は未だ開けられており、ドアの横には赤のビニールテープで『バイ友』専用のスペースが設けられている。



(あはははっ、全く進展なしじゃん……)


 幸太郎はいつもと変わらぬ部屋にため息をつきながら指定席の椅子へと座る。幸太郎が言う。



「ねえ、沙羅さん。友達が来たんだからお話しようか」


 沙羅が背を向けたまま答える。


「あなたと話すことなんて何もないわ」


 つくづくこれが『こーくん』とやり取りしている『サラりん』と同じ人間なのかと思ってしまう。ネットでのあのデレ具合。正直ここに来る度に同じ人物とは思えない。



「この間のオムライス、ありがとな。美味しかった」


「あれぐらいできて当然よ」


 少し声色が変わったことに幸太郎は気付かない。



「しかしお嬢様だから料理なんてしないと思っていたのにな」


 沙羅は動揺しつつもスマホの動画で急遽作ったことがバレないよう答える。



「あ、あなた私を何だと思ってるの? 馬鹿にしないでよ」


 ようやく沙羅が幸太郎の方を向いて言った。



「馬鹿にはしていないよ。でもお嬢さんだから料理なんてしないのかなってちょっと思ってた」


「はあ? やっぱりあなた頭おかしいの? じゃあ、あなたはするの?」


「しないよ。俺はバイトで忙しいから」


「バイト、バイトって、あなたはそればかり」


「だって仕方ないだろう、金がないんだから。バイトもやってことない奴にそんな風に言われたくない」


 沙羅の顔が怒りに染まる。



「馬鹿にしてるの? 経験はないけど、バイトぐらいできるわ!!」


 幸太郎は腕を組んで言う。


「ふん、止めておけ。お前に務まる訳がない。見くびるなよ、バイトを!」


「い、言ったわね!! じゃあ証明してあげるわ!! あなたのバイト先、教えなさい!!」


 幸太郎が驚いて答える。



「はあ? どうして? どうして俺のバイトになるんだ!? お前何考えているんだよ!?」


 沙羅は立ち上がって幸太郎に近付きながら言う。


「だから、あなたが働いているファミレスので私もバイトするの! いい、分かった?」


「や、止めてくれよ……」


 急に弱気になり声が小さくなる幸太郎。



「はあ? 何言ってるの、あなたが私を馬鹿にするから証明するんでしょ?」


「いや、悪かった。謝る……」


 幸太郎は今のファミレスの状況、憧れのはるかさんに斗真さんとの気まずい関係、そこに家庭教師をしている胡桃がやって来て、更にこの世間知らずのお嬢様が働くことになったら身が持たないと震える。



「私、決めたの。バイトやってみたかったし」


「お、教えないからな! 俺のバイト先」


 震える声で幸太郎が言う。沙羅が笑って答える。



「あなたって本当に馬鹿ね」


「そんなに馬鹿馬鹿いうなよ。これでも一応光陽高校の特待生なんだぞ……」


「知らないわ、そんなこと。でもあなたが教えてくれなくてもパパに渡した履歴書、確かあれに書いてあったわね」


「あ!」


 幸太郎は『バイ友』を行う前に重定に提出した履歴書の職業欄に、全てのバイト先を記入したのを思い出す。当然、事前に沙羅にもあれが見せられている。幸太郎が尋ねる。



「な、なあ。沙羅。本当にファミレスでバイトやるんか?」


 沙羅が大きく頷いて答える。


「当然よ。雪平家の人間に二言はない。それとも私がファミレスでバイトするのに不都合でもあるの?」


「べ、別に、そんなことないけど……」


「ならいいじゃない」



「お、おう……」


 幸太郎の頭の中で一気にあの職場に沙羅が入った場合のシミュレーションが行われる。斗真にはるか、一応面識はある胡桃と一緒に沙羅が働く。その化学反応を計算するが当然解答などでない。



(バイト、辞めようかな……)


 幸太郎は沙羅のやる気満々の顔を見ながら、本気でファミレスのバイトを辞めることを思った。

お読み頂きありがとうございます。

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