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48.奈々、その制服小さくないか……?

 火曜日の朝。

 母親は既にパートに出掛けておらず、いつもの様に幸太郎は妹の奈々と一緒に朝食をとっていた。用意された食事を見て幸太郎が少し驚いて言う。


「あれ? なんかいつもより少し多くないか?」


 明らかにこれまでより一品増えている。奈々が嬉しそうに言う。



「うん。だって今日お兄ちゃん、バイトなくてずっと家に居るんでしょ? そのお祝い」


「お、お祝い……?」


 火曜日の夕方はこれまでファミレスのバイトに出掛けていた。

 それが『バイ友』で金銭的に余裕が少しできたのと、勉強時間確保の為に今日からは家に居ることとなる。



「ねえ、お兄ちゃん。たまには奈々にも勉強教えてよ」


 台所に立って牛乳をコップに注ぎながら奈々が言う。


「お前は俺よりできるだろう」


 天才肌の奈々。いつも試験は学年トップ。勉強ができると言っても努力型の幸太郎とでは越えられない壁がある。奈々が顔をぷっと膨らませて答える。



「えー、奈々、全然分かんないよ~」


「いいから早くご飯を食べ……、ん?」



 幸太郎は答えながらこちらにやって来る奈々を見てコーヒーを持つ手が止まった。


(ちょっと待て、何だその制服は!?)


 奈々も幸太郎同様に学校の制服を着ているのだが、明らかにサイズが()()()

 動く度にパンツが見えそうになるぐらい短いスカート。そこから伸びる柔らかそうな太もも。そして中学生には見えないほど大きく育った胸は、きつく締めつけられた制服のせいで今にもはちきれそうだ。


(そ、そう言えば以前男子の視線がいやらしいとか何とか言ってたよな……)


 これなら思春期の男の子、いや兄の幸太郎ですらいやらしい目で見てしまうのは仕方がない。奈々が目の前のテーブルに座って言う。



「どう?」


 咄嗟に幸太郎が答える。


「いや、それちょっと()()()だろ……」


 それを聞いた奈々の顔が一気に悲しみの表情となる。



「え、お兄ちゃん。奈々のご飯、まずいの……?」


 我に返った幸太郎が焦って言う。



「あ、いや、いやいや。ご飯じゃない。いや、ご飯は美味いぞ」


「お兄ちゃん、どうしたの……?」


 明らかに動揺する幸太郎に奈々が不思議そうな顔をする。幸太郎が尋ねる。



「なあ、奈々。中学の制服って最後に買い替えたのっていつだ?」


 奈々が少し考えてから答える。


「うーん。分からない。でもほとんど買い替えなんてしてないよ」


(やはりそうか……)


 育ち盛りの中学生。

 入学の時に買った制服などあっと言う間に着れなくなることだってある。奈々はうちが()()だからあえて自分から言わなかったのか? そう考えると自分が情けなくなる幸太郎。

 奈々は兄が驚いたり戸惑ったり、悲しんだりするのを見ながら言う。



「ねえ、お兄ちゃん。どうしたの?」


「あ、いや、それがだな……」


 口籠る幸太郎に奈々が言う。



「お兄ちゃん、疲れてるんでしょ! 今日バイトないんだから奈々が癒してあげるよ。ほら、ここに頭を置いて」


 そう言って正座して居た奈々が、ただでさえ短いスカートを少し上にずらし真っ白で柔らかそうなふたつの太ももを指差して言う。


「ば、ばか!! なに言ってるんだ!!」


 驚きと焦りで更に動揺する幸太郎。確かに多少の疲れはあるが、妹にそんなことはさせられない。制服の女の子とマッサージ。それこそどこかのお店の様になってしまう。



「なんで照れてるの? 兄弟なのに?」


(いや、兄弟だからだろ!!)



 幸太郎は冷静になって奈々に尋ねる。


「なあ、奈々」


「なに?」


 食べかけたパンを咥えながら奈々が答える。


「その、なんだ……、お前の制服、ちょっと小さくないのかなって思って……」


「ん? 制服?」


 奈々がパンを咥えたまま自分の制服を見つめる。



「そうだね。ちょっと胸のあたりがきついかも」


 中学生にしては大きいと思っていた胸。小さな制服のせいで一層いやらしく見える。


「制服を買い替えよう。今日、学校の帰りにでも買って来なさい」


「え? いいよぉ。制服高いし……」


 家計のことを思って遠慮する奈々。幸太郎が言う。



「いや、女の子に制服が小さいってのは良くない。お金のことは心配しなくていいから買って来なさい」


 それを聞いた奈々が立ち上がって制服を引っ張りながら言う。


「うーん、確かにこの胸に辺りと、スカートの丈も短いし、ちょっと動くとお腹も見えちゃうのよねえ……」


 幸太郎は朝から目の前で繰り広げられる、サイズの合わない制服を着た女子中学生のエッチな動きに顔を赤らめる。視線に気付いた奈々が幸太郎に言う。



「あれ~、お兄ちゃん。もしかして奈々のこと、えっちな目で見てる~??」


 動揺した幸太郎が大きな声で言う。


「ば、馬鹿なことを言うな!! どうして中学生なんて……」


「えー、奈々、これでもちょっとは学校でモテるんだよ~」


 そう言って再び短いスカートを両手でつまんで少し持ち上げて見せる。真っ白で柔らかそうな太ももが露わになる。



「わ、分かった。やめろ、やめろって!!」


 幸太郎が横を向いて奈々を制止する。


「あはははっ、お兄ちゃん。可愛い!! 照れてるぅ~!!」


 顔を赤くした幸太郎が奈々に言う。



「と、とにかく制服は買いに行くこと。お金は渡す。いいな!!」


 奈々が座りながら言う。


「じゃあ、お兄ちゃん一緒に来て」


「は?」


 幸太郎が奈々の顔を見る。奈々が言う。



「一緒に来てくれなきゃ買わない」


「おいおい……」


 奈々が言う。



「だってこれまだ着れるし、お兄ちゃんがどうしてもって言うなら一緒に来てくれたら買い替えるよ」


「奈々……」


 幸太郎は目の前のサイズの合わない妹の制服を見て思う。


(奈々に惨めな思いをさせる訳にはいかない。それにこんな動く度にエッチになる服など……)


 幸太郎は多忙とは言え、これまで気付いてやれなかったことを反省する。



「分かった。夕方一緒に買いに行こう」


「ほんと!? やったー!!」


 奈々は突然決まった放課後の兄との『買い物デート』に大喜びする。

 幸太郎はせっかくバイトを削って得た時間がまた勉強に当てられなくなることを思ったが、奈々の為、そして何より笑顔で喜ぶ妹の姿を見てまあいいかと思い直した。

お読み頂きありがとうございます。

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